ザ・ディーコンの味とボトルの秘密|ペスト医師が描かれた、スチームパンクな銅色のスコッチウイスキー


喫茶蒸談へようこそ
銅色に輝くボトルに、くちばしのマスクをつけたペスト医師。酒屋の棚でこのウイスキーを見かけて、思わず足を止めたスチームパンク好きは多いはずだ。スコッチウイスキー「ザ・ディーコン」が、今年の日本蒸奇博覧会にブースを出す。10月19日には新作「ザ・ディーコン ブラック」も発売される。博覧会の前に、このちょっと変わったウイスキーのことを知っておこう。ボトルのデザイン、名前の意味、そしてエディンバラに実在した「もうひとりのディーコン」の話まで。
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ): 日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの"ワクワクするところ"を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える"解説役"として登場することが多い。
日本蒸奇博覧会に、ウイスキーのブースがやってくる

今年の日本蒸奇博覧会、ザ・ディーコンがブースを出してくれるんだよ。

あの銅色のボトルのウイスキーだね。

そう! 前からお店で見かけるたびに、これ絶対スチームパンク好きが手に取るやつだって思ってたの。

分かる。棚に並んでると、あれだけ明らかに雰囲気が違うんだよね。

当日はカクテルを出してくれる予定なんだって。まだ決まってないけど、何杯か飲むとノベルティがもらえるかも、って話も出てる。

それは何杯か飲みたくなるね(笑)。

あと、まだ言えないんだけど、ちょっと面白い催しもあるらしい。

それは当日のお楽しみってことで。せっかくだから、今日は博覧会の前にザ・ディーコンのことをちゃんと知っておこうか。知ってから飲むと、たぶん一杯目の味が変わるから。
スコッチウイスキー「ザ・ディーコン」は、2026年10月31日・11月1日に開催される日本蒸奇博覧会にブースを出展する。当日はカクテルの提供が予定されている。
ザ・ディーコンって、どんなウイスキー?

そもそも、どこのウイスキーなの?

中身はスコットランドのウイスキーなんだけど、ブランドを作ったのはアメリカの会社なんだ。スパークリングワインやラムで有名なソブリン・ブランズというところが、大手のペルノ・リカールと組んで、2023年にアメリカで出した。日本では2024年の4月から買えるようになってる。

まだ新しいブランドなんだね。味はどんな感じ?

ひと言でいうと、スモーキーなのにフルーティー。

その二つって、反対のイメージがあるけど。

そこが面白いところでね。スコットランドの中でも、地域によってウイスキーの個性が全然違うんだよ。アイラ島っていう島のウイスキーは、ピートっていう泥炭を焚いて麦芽を乾かすから、煙みたいな香りが強くなる。

焚き火みたいな匂いのやつだ。

そう。一方でスペイサイドっていう地域のウイスキーは、果物みたいに華やかで甘い香りが特徴。ザ・ディーコンは、このアイラ島とスペイサイドのモルトを軸にブレンドして、スモークと果実味を一本の中に同居させてるんだ。

ケンカしそうな二人を、同じ部屋に住まわせてるみたいな。

(笑)いい例えだね。でもそれがちゃんと仲良くしてるのが、このウイスキーの売りなんだよ。ストレートでもいけるし、カクテルのベースにも向いてる。

だから蒸奇博でもカクテルなんだ。
ザ・ディーコンは、アメリカのソブリン・ブランズとペルノ・リカールが2023年に発売したブレンデッド・スコッチウイスキー。スモーキーなアイラ島のモルトと、フルーティーなスペイサイドのモルトを軸にブレンドし、「スモーキーなのにフルーティー」な味わいを特徴とする。日本では2024年4月に発売された。
銅色のボトルは、蒸留器へのオマージュ

で、やっぱり気になるのはボトルだよね。なんで銅色なの?

ウイスキーの蒸留所には、ポットスチルっていう大きな銅製の蒸留器があるんだ。玉ねぎみたいな形の、ぴかぴかの銅の釜。

あ、写真で見たことある。

ザ・ディーコンのボトルは、その銅の蒸留器へのオマージュなんだって。ガラス瓶に電気めっきを施して、表面には浮き彫りの装飾が入ってる。

ガラスにめっき! 手間かかってるなあ。

これ、スチームパンク的に見るとすごくよくできてると思うんだ。前に僕の本で、スチームパンクデザインを「機能が見える」「素材」「ディテール」の三つで説明したでしょ。

うん。

まず素材。銅って、真鍮と並んでスチームパンクのど真ん中にある金属だよね。使い込むとくすんで、味が出てくる。

うんうん。

それから「機能が見える」。蒸留器って、本来は蒸留所の奥にあって、飲む人の目には触れない機械でしょ。

お酒の中身を作ってる機械なのに、普段は見えないよね。

その見えない機械の色と質感を、ボトルの外側にまとわせてる。中身を作った機械を、外から見えるようにしてるとも言えるんだよ。歯車やパイプをむき出しにするのと、発想としては近いと思う。

うん。でもさ、見えない内面を見せるのって、普通は台詞とか演技とか音楽の仕事じゃない? 機械の腕でそれをやっちゃうのって、ちょっとずるい気もする。

そこは大事なところでね。僕も、腕が内面を説明してるとは思ってないんだ。もしそうなら、ただの見た目頼みになっちゃう。

なるほど、だからスチームパンク好きが反応しちゃうんだ。
ザ・ディーコンの銅色のボトルは、ウイスキーの蒸留に使われる銅製のポットスチルへのオマージュで、ガラス瓶に電気めっきと浮き彫りの装飾を施している。蒸留所の奥にある機械の質感をボトルにまとわせるデザインは、仕組みを外に見せるスチームパンクの発想とも通じる。
ラベルにいるのは、ペスト医師

それと、ラベルのマスクの人! あれ、ペストマスクだよね?

そう、ペスト医師。ペストが流行した時代に、医師が身につけたと言われる格好だね。くちばしの部分に香りの強いハーブを詰めて、悪い空気から身を守ろうとしたとされてる。

スチームパンクのイベントだと、もう定番中の定番だよね。蒸奇博覧会にも毎年何人もいるし。

前に喫茶蒸談で、なんでペストマスクがスチームパンクの定番になったのかを話したよね。2010年ごろに、革職人のトム・バンウェルがスチームパンク風にアレンジしたマスクが話題になって、そこから一気に広まった、っていう話。

リベットとかフィルターとか、機械っぽい部品と相性がいいんだよね。

そう。で、ザ・ディーコンはそのペスト医師を、ウイスキーの顔にしちゃった。銅のボトルに、ペスト医師。スチームパンクのイベントにブースを出すために生まれてきたようなウイスキーだと思うよ。

本当にそう(笑)。
ザ・ディーコンのラベルには、くちばし状のマスクをつけたペスト医師が描かれている。ペストマスクは、2010年ごろにスチームパンク風のアレンジが話題になったことをきっかけに、スチームパンクファッションの定番アイテムとして広まった。
「ディーコン」は、スコットランド語で「名匠」

そういえば、「ディーコン」ってどういう意味なの?

古いスコットランドの言葉で、熟練した職人、名匠のことなんだ。昔のスコットランドの町では、職人たちが職業ごとに組合を作っていて、その長も「ディーコン」と呼ばれてた。

腕のいい職人のリーダー、みたいな感じ?

そうだね。ブランドとしては、ウイスキーを作る職人の技に敬意を込めた名前、ということになる。銅の蒸留器のボトルと合わせて、作り手へのリスペクトが全体に通ってるんだよ。

それ、スチームパンクの「自分の手で作る」っていう考え方とも近いね。

うん。スチームパンクって、完成品を買うより、パーツを選んで、組み立てて、手を入れていく過程を楽しむ文化でしょ。職人の名前を冠したお酒が、職人だらけのイベントに来るっていうのは、なんだかうれしいよね。

蒸奇博の出展者さんって、みんな何かしらの職人さんだもんね。
「ディーコン(Deacon)」はスコットランドの古い言葉で、熟練した職人や名匠を意味する。かつてのスコットランドの町では、職業ごとの組合の長もディーコンと呼ばれた。ブランド名には、ウイスキー造りの職人技への敬意が込められている。
脱線:エディンバラの「もうひとりのディーコン」

ここからはちょっと脱線なんだけど。スコットランドで「ディーコン」って聞くと、僕はどうしても思い出しちゃう人がいてね。

誰?

ディーコン・ブロディ。18世紀のエディンバラに実在した人物。

そのまんまディーコンなんだ。

本名はウィリアム・ブロディ。家具職人の組合の長、つまりディーコンで、市議会議員も務めてた。腕のいい職人で、錠前も扱ってたから、町の有力者の家にも出入りしてたんだ。

立派な人じゃん。

昼まではね。

……昼までは?

夜になると泥棒だった。 仕事で客の家に行ったときに、こっそり鍵を蝋で型取りしておいて、あとで合鍵を作って盗みに入ってたんだ。

えー! 職人の腕を悪用してたんだ。

最後は捕まって、1788年に絞首刑になってる。見物に4万人が集まったと言われてる。

昼は名士で、夜は泥棒……。なんか、どこかで聞いたことある話のような。

鋭いね。この二重生活に惹かれたのが、作家のロバート・ルイス・スティーヴンソン。しかもスティーヴンソンの家には、ブロディが作った家具があったんだって。

え、家にあったの?

自分の家の家具を作った職人が、実は夜の泥棒だった。そういう話を聞いて育ったら、そりゃ気になるよね。スティーヴンソンはまずブロディを主人公にした戯曲を書いて、その後、1886年にあの小説を発表する。

『ジキル博士とハイド氏』だ!

そう。ヴィクトリア朝のロンドンを舞台にした、ひとりの人間の中に二つの顔がある物語。その発想の源のひとつが、エディンバラのディーコン・ブロディだったと言われてる。

うわー、つながった。ちなみにそれって、ザ・ディーコンの名前の由来なの?

いや、そこは大事なところで、ブランドはブロディのことは一言も言ってない。 あくまで「名匠」という意味の名前。これは僕の勝手な連想だよ。

でもさ、スモーキーとフルーティー、正反対の顔が一本の中にあるウイスキーでしょ。そう思って飲むと、ちょっとジキルとハイドっぽいかも。

(笑)そう思って飲むと楽しいよね。もちろん、こっちの二つの顔は、どっちもいいやつだけど。
18世紀エディンバラのウィリアム・ブロディは、家具職人組合の長(ディーコン)で市議会議員を務める一方、仕事で得た鍵の型をもとに夜は盗みを働き、1788年に処刑された。その二重生活は、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの『ジキル博士とハイド氏』(1886年)の着想源のひとつとされる。なお、ウイスキー「ザ・ディーコン」のブランドはブロディとの関係をうたっていない。
10月19日発売の「ブラック」は、黒いのにフルーティー

新しいのが出るんだよね。ブラック。

「ザ・ディーコン ブラック」。10月19日に発売されるね。

名前からして、もっとスモーキーで強そう。

普通そう思うよね。ところが逆なんだ。なんとブラックは、フルーティーさが主役。

え、黒いのに?

スペイサイドのピートを効かせたモルトと、ピートを使ってないウイスキーを合わせて、スモークの出し方を組み直してるんだって。甘いりんごや洋梨、カシスジャムみたいな果実味に、塩キャラメルやバニラ、黒糖みたいな甘さ。スモークは最後にやわらかく香る程度。

見た目とのギャップがすごい。

おすすめはハイボールで、「ブラックハイボール」って名前まで付いてる。炭酸で果実味が開くらしいよ。

見た目は黒くて重そうなのに、飲むと華やか。これもまた、二つの顔を持ってるんだ。

そうなんだよ。で、僕はこのブランドの「どっちかに決めない」感じが、スチームパンクとすごく相性がいいと思ってて。

どういうこと?

スチームパンクって、「レトロ」とも「未来的」とも言い切れないでしょ。過去と未来の両方を抱えてるから面白い。ザ・ディーコンも、スモーキーとフルーティーのどっちかに寄せないで、両方を一本に入れてる。

あー、白黒つけないところが似てるんだ。

ブラックなのに、白黒つけないっていうね。

うまいこと言った(笑)。
「ザ・ディーコン ブラック」は2026年10月19日発売。スペイサイド産のピーテッドモルトとノンピートウイスキーをブレンドし、りんごや洋梨、カシスのような果実味と、塩キャラメルや黒糖のような甘み、やわらかなスモークを特徴とする。名前と黒い外観に反してフルーティーさが主役の一本で、ハイボールが推奨されている。
着地

蒸奇博でザ・ディーコンを飲むとき、ボトル見ながら飲んだら楽しそう。

銅色は蒸留器の色で、ラベルにはペスト医師、名前は名匠。そこにエディンバラの泥棒の影がちょっとだけ差してる。

ボトル一本で、こんなに話せるとは思わなかったよ。

スチームパンク好きって、結局そういうのが好きなんだよね。物の表面に見えているものから、その奥の仕組みや物語を想像するのが。

蒸奇博では何杯飲もうかな。ノベルティ狙いで(笑)。

ほどほどにね(笑)。でも、会場でカクテルを片手に、ペストマスクの人たちが行き交うのを眺めるっていうのは、たぶんかなりいい時間になると思うよ。

ラベルの中の人が、会場を歩いてるみたいになるんだ。

それ、見てみたいね。10月31日と11月1日、目黒で待ってます。
よくある質問
Q. ザ・ディーコンとはどんなウイスキーですか?
A.アメリカのソブリン・ブランズとペルノ・リカールが2023年に発売したブレンデッド・スコッチウイスキーです。スモーキーなアイラ島のモルトと、フルーティーなスペイサイドのモルトを軸にブレンドし、「スモーキーなのにフルーティー」な味わいが特徴です。日本では2024年4月にペルノ・リカール・ジャパンから発売されました(700ml、40度)。
Q. . ザ・ディーコンのボトルはなぜ銅色なのですか?
A.ウイスキーの蒸留に使われる銅製の蒸留器(ポットスチル)へのオマージュです。ガラス瓶に電気めっきを施し、浮き彫りの装飾を加えています。ラベルには、くちばし状のマスクをつけたペスト医師が描かれています。
Q. 「ディーコン」とはどういう意味ですか?
A.スコットランドの古い言葉で、熟練した職人や名匠を意味します。かつてのスコットランドの町では、職業ごとの職人組合の長もディーコンと呼ばれました。
Q. ザ・ディーコン ブラックは通常のザ・ディーコンと何が違いますか?
A.2026年10月19日発売の新商品で、スペイサイド産のピーテッドモルトとノンピートウイスキーをブレンドし、スモーク感をやわらげて果実味を主役にしています。りんごや洋梨、カシスのような果実味と、塩キャラメルや黒糖のような甘みが特徴で、ハイボール(ブラックハイボール)が推奨されています。参考小売価格は3,800円(税抜)です。
Q. 日本蒸奇博覧会でザ・ディーコンを飲めますか?
A.日本蒸奇博覧会2026(10月31日・11月1日、STUDIO EASE 目黒)にザ・ディーコンがブースを出展し、カクテルの提供を予定しています。内容の詳細は決まり次第、協会の公式サイトやSNSでお知らせします。お酒は20歳になってから楽しみましょう。
ラベルのペスト医師が気になった人へ
くちばしのマスクは、なぜスチームパンクの定番になったのか。17世紀の医療から、ある革職人の作品が火をつけたブームまで。
蒸奇博でザ・ディーコンに会いたい人へ
10月31日・11月1日、目黒に二日間だけ蒸気街が現れます。カクテルを片手に、スチームパンクの世界へ。
※お酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。
スチームパンクそのものが気になった人へ
蒸気機関が発展し続けた“もうひとつの歴史”から生まれた世界観。定義から楽しみ方まで、まずは入口から。
スチームパンクの世界を、日々更新中。
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文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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