【第37回】イベントに出店してみよう3:実際に出てみる
- 日本スチームパンク協会

- 10月29日
- 読了時間: 11分
更新日:10月31日

喫茶蒸談へようこそ
準備は完璧じゃなくていい。
什器も揃ってなくていい。大切なのは、実際に机を並べてみること。
イベント会場の空気は、想像よりずっとあたたかい。
お客さんの笑顔、隣の作家との会話、そのひとつひとつが、画面の向こうでは得られない体験になる。
うまく話せなくてもいい。売れなくてもいい。
「自分の作品を人の前に出してみた」──その経験が、次の一歩を確実に変えてくれる。
今日は、そんな“出店してみる日”のリアルな話。
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
はじめての出店は緊張するけど楽しい


作れるようになってくると、次に「誰かに見てもらいたい」って気持ちになるよね。

そうなんだよ。作品って、自分の手を離れてはじめて完成するようなところがある。

でも正直ちょっと怖いかも。「売れなかったらどうしよう」とか、「ちゃんと見てもらえるかな」って。

それ、みんな最初は思うよ。でもね、出店って“販売会”というよりお祭りに参加する感覚でいいんだ。

お祭り?

うん。学園祭で屋台を出す感じ。うまく売れるかよりも、「この世界に参加できてる」という実感を楽しむもの。

なるほど、そう聞くとちょっと気が楽になる。

肩の力を抜いて、「自分の作品を机の上に並べてみる」──それだけで、もう立派な出店なんだよ。
どんなイベントを選ぶ?


出店してみたい気持ちはあるけど、実際どんなイベントに出ればいいんだろう?

まず大きく分けると、ハンドメイド系イベントと地域イベントの2つがあるかな。

へぇ、そんなに違うんだ。
1:ハンドメイド系イベント

たとえば「デザインフェスタ」や「ハンドメイドマルシェ」みたいなイベントは、作り手が一堂に集まる場所。

ああ、よくSNSでも見るやつだね。

そう。ジャンルが幅広いから、どんな作品でも受け入れてもらいやすい。最近は「コミティア」みたいな同人系イベントでも、アクセサリーや雑貨のエリアができてるんだ。

あ、たしかに。イラストや本の隣に、手作りアクセサリーのブースが並んでるの見たことある。

そうそう。もともと創作ジャンルだから、ハンドメイドとの相性がいいんだ。 世界観を共有しやすくて、作品の背景を語るのにも向いてる。

なるほど、物語性のある作品にはぴったりかも。

うん。ディスプレイの勉強にもなるし、他のクリエイターから刺激を受ける場としてもおすすめだよ。
2:地域イベント

もっと気軽に出られるイベントもあるの?

あるある。たとえば商店街のマーケットや、ギャラリーが併設されてるカフェで開かれるような小さなクラフト市。 出展料が安くて、小さいスペースから始められる。

それなら初心者でも入りやすいね。

そう。お客さんも地元の人が多くて、作品よりも作った人に興味を持ってくれることが多い。 “話しながら売る”というより、“話すことを楽しむ”ような空気があるんだ。
3:選ぶ基準は「居心地のよさ」

たしかに、規模よりも雰囲気のほうが大事かも。

うん。売れそうかどうかより、自分が楽しめるかどうかで選ぶのがいちばん。一日中そこにいるんだから、居心地のよさは大事だよ。

なるほど。じゃあ次は、出ると決めたら“準備”だね。

そう。机の上をどう使うか、何を持っていくか。 そこがわかってくると、出店が一気に現実味を帯びてくる。
出店準備の基本


出てみようって決めたはいいけど、準備するものって多そうだよね。

そう聞くと大変そうに思えるけど、実際はそんなに構えなくていいよ。まずは「机の上を自分らしく整える」ことから始めよう。
1:机とディスプレイ

イベントによっては机が用意されてる場合もあるし、自分で持ち込むこともある。

そうなんだ。じゃあ什器とかも買わなきゃダメ?

最初は100均のアイテムで十分だよ。 たとえば折りたためるコンテナやワイヤーネットを組み合わせて棚を作ったり、 紙の箱に布を貼って台にしたり、イーゼルで作品を立てかけたり。 工夫次第でいくらでも見せ方を変えられる。

それなら楽しそう!

うん。あと、什器は意外とかさばるものが多いから、 持ち運びやすさも考えて選ぶといい。リュックやキャリーに収まる範囲で構成できると、当日の移動がすごく楽になるよ。

なるほど、コンパクトにまとめるのもデザインのうちなんだね。

そう。見た目だけじゃなく、運びやすさ=続けやすさでもあるからね。
2:価格タグと名刺

値段ってどうやって付ければいいの?

そこも悩むよね。最初の目安は、「材料費が3〜5割になる」くらい。 たとえば材料が1,000円なら、2,000〜3,000円くらいに設定してみるといい。

なるほど、思ってたよりしっかりつけていいんだね。

うん。安すぎる値段は、かえって他の作家さんからも心配されたりする。“手間と時間の価値”をちゃんと含めることも、ハンドメイドの文化を守る一部なんだ。

たしかに、それってすごく大事かも。

値札の付け方は、シールでも小さな紙でもOK。大事なのは、誰が見ても分かりやすく表示しておくこと。それと、名刺やショップカードがあると便利。「これどこで見られますか?」って聞かれたときに渡せるようにしておこう。SNSのQRコードを印刷して貼っておくのもおすすめだよ。
3:おつりと袋

あ、そういえばお金のやり取りってどうすればいいんだろう?

最近はキャッシュレスも増えてるけど、最初は現金だけで十分。千円札と百円玉を多めに用意して、手提げの袋も少し持っていこう。

ロゴとか入ってない簡単なビニール袋でもいい?

もちろん。“渡す気持ち”があれば、それで十分。見た目よりも、買ってくれた人への一言の方がずっと印象に残る。
4:“高さ”と“余白”を意識する

ブースの並べ方ってコツある?

うん、高さと余白。全部を平らに並べると目に入らないから、木箱やスタンドで段差をつける。 でも詰め込みすぎず、少し余白を残すと見やすくなる。

なるほど、空間の取り方もデザインなんだね。

そう。並べ方ひとつで、作品の印象がまったく変わるよ。
事前の告知がすべてを変える


出店の準備って、当日のディスプレイとか作品づくりだけじゃないんだね。

そう。実は、イベントが始まる前に勝負は決まってるって言葉があるくらいなんだ。

え、どういうこと?

よく「主催者が集客してくれるから大丈夫」って思う人がいるけど、それはちょっと違うんだよ。
1:主催者の集客と、自分の告知は別の話

たとえば主催者が1,000人のお客さんを呼んだとする。出展者が100人いたら、単純計算で1人あたり10人。でも、実際はそんなふうに均等にはならない。

なるほど……。

お客さんって、事前に主催者のサイトやSNSで「どんな出展者がいるか」を見て、気になった作家を目当てに来るんだ。だから、事前にSNSで存在を知ってもらうことがすごく大事。
2:告知している人は、イベントが始まる前から「会場にいる」

SNSで作品や価格を紹介してる人は、イベント当日より前にもう“会場に立ってる”ようなものなんだ。

たしかに、「この人の作品買いに行こう」って思うと、予算まで考えて行くもんね。

そうそう。だから、もし作品が当日初めて知られても、すでに予算を使い切ってしまってるお客さんも多い。それが、「いいね」と「買ってもらう」の間にある大きな壁なんだ。
3:イベント前から発信しておく

でも、何を投稿すればいいんだろう?

難しく考えなくていいよ。「○月○日のイベントに出ます」「このアクセサリーを持っていきます」「価格は○○円です」そんな簡単な情報でも十分。そして大事なのは、過去作もちゃんと紹介すること。

過去作?フォロワーさんはもう知ってるんじゃないの?

そこが落とし穴なんだ。SNSって、いつも見てくれる人ばかりじゃない。 タイムラインで見逃してる人も多いし、新しく見てくれる人もいる。 だから「この作品はもう見せたからいいや」って思わず、 過去作も含めて“改めて知ってもらう機会”として発信するのが大切なんだ。
4:「ここにいるよ」と知らせること

告知って、売り込みじゃなくて「ここにいるよ」って灯りをつけることなんだ。

うんうん。たしかに、見つけてもらうための小さなサインみたいなものだね。

そう。その灯りを見て来てくれる人が、必ずいる。だから、イベントが始まる前こそ、一番大切な時間なんだよ。
当日の流れと雰囲気

いよいよ出店当日。朝からそわそわしそうだね。

うん、誰でも最初はそうなる(笑)。でも、準備の流れを知っておくと落ち着いて動けるよ。
1:朝の設営

会場に着いたら、まず受付を済ませてスペースを確認。机に布を敷いて、什器を組み立てる。

結構バタバタしそう。

そうだね。だから、ディスプレイの配置は前日までに頭の中でイメージしておくといい。机の上の“どこに何を置くか”を決めておくだけで、当日すごくスムーズになる。

なるほど。あれこれ迷ってると時間すぐ過ぎちゃうもんね。

そうそう。あと、机を整えたらちょっと深呼吸。「ここが自分のお店だな」って気持ちを整える時間を作ると、心が落ち着く。
2:開場の瞬間

お客さんが入ってくると、一気に緊張しそう。

最初はね。でも、だんだん慣れてくる。最初の一人目が立ち止まってくれたら、そこから空気が変わる。「こんにちは」「見てくださってありがとうございます」──それだけでいい。話しかけるきっかけを作れれば、もうそれで合格。

完璧な接客より、まず声を出すことなんだね。

うん。笑顔で挨拶できれば十分。“作品が人を呼ぶ”から。
3:昼の時間とちょっとした工夫

途中でご飯食べたり休憩したりってできるの?

イベントによるけど、基本的には一人ならブースを空けないほうがいいね。でも、トイレとかどうしても席を外すときは仕方ない。そういう時は、机の上の作品に布をかけて「○時ごろに戻ります」と書いたメモを置いておくといい。 それと、貴重品と売上金は必ず持っていくこと。

なるほど、ちゃんと対策しておけば安心だね。

うん。会場によってはスタッフにひと声かけておけば見てくれることもあるよ。あとは、おにぎりや飲み物を持っていくのがおすすめ。ブースを離れなくても、すぐ食べられるものがあると助かる。それと、スマホの充電器は絶対忘れずに。SNS投稿やキャッシュレス決済で、意外とバッテリーがすぐ減る。

なるほど、思ったより体力勝負なんだね。

そう。立ちっぱなしだし、声も出すしね。でも不思議と、あの熱気の中では疲れよりもワクワクが勝つんだ。
出てみてわかること

こうして聞くと、出店ってすごく大変そうだけど、なんだか楽しそうでもあるね。

うん。正直、準備も片付けも体力は使うけど、それを上回る充実感がある。作品を並べて、誰かが立ち止まってくれる──それだけで報われる瞬間があるんだ。
1:人の反応が見える喜び

ネット販売だと、買ってくれた人の顔は見えないもんね。

そう。イベントでは、「かわいい」とか「これ作ったんですか?」って言葉が、その場で直接届く。それがすごく嬉しいんだ。作品が誰かの目にとまって、言葉を交わして、手に取ってもらえる。その体験は、画面の向こうでは絶対に得られない。
2:“売る”より、“続ける”

売れた数より、そういう反応の方が印象に残りそう。

そうだね。最初は「売れたらいいな」って思ってても、終わるころには「また出たいな」に変わってる人が多い。それくらい、“作る→見せる→話す”という循環が気持ちいいんだよ。

なるほど、出ること自体が次の原動力になるんだね。

うん。イベントに出るたびに、自分の作るものが少しずつ変わっていく。“続けたい”と思えたら、それがもう成功なんだ。
3:出店は「人に会いに行く日」

イベントって、やっぱり人とのつながりなんだね。

そう。出店って、“売るための日”じゃなくて**“人に会いに行く日”**なんだと思う。お客さんだけじゃなく、隣の出展者、スタッフ、通りすがりの人。その一人ひとりとのやり取りが、ものづくりを豊かにしてくれる。
2:次につながる一歩

たぶん一回出ると、もう“出てみないと分からないこと”だらけだね。

まさにそれ。どんなに準備しても、完璧なんてない。でもその「うまくいかなかった部分」が次へのヒントになる。だからこそ、イベントは経験するたびに楽しくなるんだ。

なるほど、最初の出店はゴールじゃなくて、スタートなんだね。

出てみることが、次の自分を作る一歩になる。

なんか聞いてたら、出てみたくなってきた。

それがいちばん大事。「いつか」じゃなく、「次に」。自分の机の上に、あなたの世界を並べてみよう。

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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