【第35回】イベントに出店してみよう1:まずはイベントへ行ってみるところから
- 日本スチームパンク協会
- 3 日前
- 読了時間: 9分

喫茶蒸談へようこそ
脱サラしてそば屋を開いたのに、客が来ない。
ネットに作品を並べたのに、誰も見てくれない。
うまくいかない理由は、味でもクオリティでもない。
欠けているのは、“人とのやり取り”
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
イベントの世界を覗いてみよう


ハンドメイドの作品ってSNSでよく見かけるよね。写真がきれいで、世界観もすごく整ってる。

そうだね。Instagramとかで見てると、「自分もこんなの作ってみたいな」って思う人、多いと思うよ。

でも意外と、「イベントに行ったことがない」って人も多いんじゃない?

うん、それ、ほんとによく聞くんだよね。しかも意外なことに、「出店したい」と思ってるのに、まだ一度もイベントに行ったことがない人が結構多いみたいなんだ。

あ、たしかに! SNSで作品を見るだけで、イベントの雰囲気を想像してる人、けっこういるかも。

そう。ネット上で見てると雰囲気はなんとなく分かるけど、“空気”までは伝わらないんだよね。

うんうん。実際に行ってみると、音とか匂いとか、人の熱気とか、五感で感じる情報がすごく多い。

たとえばブースの並び方ひとつでも、作家さんごとに個性が出るし、「ああ、この人はこういう世界観なんだな」って伝わってくる。

それを直接感じるのが楽しいんだよね。ネットだと“作品だけ”を見るけど、イベントだと“人”を見る感じ。

まさにそれ。イベントって、物を売る場所というより、“世界観を体験できる場所”なんだ。

たしかに。ディスプレイや名刺のデザイン、服装まで含めて、その人の作品世界が目の前にある感じ。

そう。だから、もし「いつか出てみたいな」と思ってる人は、まず一度、イベントに行ってみてほしい。

見るだけでもすごく刺激になるし、自分の“好き”の方向性が分かってくるよね。

うん。行く前と行った後で、たぶん世界の見え方が変わると思う。

じゃあまずは、“行ってみる”。それが最初の一歩だね。
現場のリアルから学べること

実際にイベントに行くと、思ってたよりもいろんなジャンルの人が出ててびっくりするよね。

うん、アクセサリーだけじゃなくて、雑貨とか革小物、服、造形物まで。ジャンルの幅はとても広い。

しかもブースごとに雰囲気が全然違う。おしゃれな雑貨屋さんみたいなところもあれば、理科室みたいな世界観のところもある。

そうそう。そこが面白いところで、作家さんが「どういう空間を見せたいか」がそのままブースに出る。作品だけじゃなく、机の上の並べ方や照明の色まで全部“表現”なんだよね。

へぇ、そう考えると、展示そのものも作品の一部なんだね。

まさに。だから、まずは「どんな風に見せてるか」をよく観察してみるといい。どんな布を使ってるとか、名刺の置き方とか、意外と細かいところにヒントがある。

あ、それ分かる! あと価格帯もすごく勉強になるよね。「このクオリティでこの値段なんだ」って感覚が掴める。

そう。ネットだけで見てると、価格の相場が見えにくいけど、イベントではリアルに“売れてる価格”が分かる。

しかも、お客さんの反応も見えるのがいいよね。どんなものに人が立ち止まるのかとか。

うん、あれは大きい。お客さんが手に取って、少し悩んで戻す…とか、じっと見てから話しかける…とか、そういう“空気”から学べることってすごく多い。

確かに、ネット販売ではそういうリアルな反応って見えないもんね。

そう。だからイベントに行くと、作る側としても「どういう見せ方をしたら伝わるか」っていう勉強になる。

見るだけでも、すでに学びだらけって感じだね。

そう。イベントを“観察する”っていうのも、立派な第一歩なんだ。
まずは作ってみる

イベントを見てると、なんか「自分も作ってみたいな」って気持ちになるよね。

うん、そこがすごく大事な感覚。見て刺激を受けたら、次は“手を動かしてみる”番だね。

でも、いざ何か作ろうと思っても、最初って何から始めていいか分からないんだよね。

そういう人は、まず“レシピ付きのキット”から始めてみるのがいい。たとえば貴和製作所とかパーツクラブには、材料が全部そろってて、作り方も分かりやすい。

あ、それならできそう! 工具も最低限でいいんだよね?

そう。最初のうちは専用工具を揃える必要もない。家にあるペンチやニッパーでも充分だよ。

完成したときのあの感動、いいよね。

うん。「作れた!」っていう喜びをまず感じてほしい。上手い下手よりも、“作る時間そのものを楽しむ”ことのほうが大事なんだ。

うん。「作れた!」っていう喜びをまず感じてほしい。上手い下手よりも、“作る時間そのものを楽しむ”ことのほうが大事なんだ。

そうそう。だから、最初のうちは「上手く作ろう」とか「売れるものを作ろう」とか考えなくていい。

そう言われるとちょっと気が楽になるなぁ。

スチームパンクの世界観もそうだけど、“正解がひとつじゃない”のが面白いところ。歯車をどこにつけるか、革ひもの色をどうするか、全部自分のセンスでいい。

なるほどね。自由でいいんだ。

そう。作っていくうちに、「こういう雰囲気が好き」とか「この素材が気になる」とか、自分の“好き”が少しずつ見えてくる。

それが次のステップにつながるってことか。

うん。最初は“誰かの真似”でもいい。でもそれを繰り返すうちに、自然と“自分らしさ”が混ざってくるんだ。

なるほど、まずはやってみる。考えるより、作ってみる。

そう。それが一番の近道。
オリジナルへ進むために

作ってるとだんだん、「次はこうしてみたい」とか「自分の色を出したい」って思ってくるよね。

うん、そこがすごく大事なタイミング。最初はレシピ通りでも、少しずつ“自分らしさ”を足していくと楽しくなってくる。

たとえば、同じアクセサリーでもパーツの色を変えたり、素材を少し違うものにしてみたり。

そうそう。そういう小さなアレンジから“自分のデザイン”は育っていくんだ。

でも、よく聞くけど…真似して作ったものをそのまま売るのはやっぱりダメなんだよね?

うん、それはとても大事なこと。他の人のレシピやデザインをそのまま使ったものは、自分用や練習用として楽しむもの。

売り物にはしないってことね。

そう。たとえ材料費がかかっていなくても、誰かのアイデアをそのまま“商品”として出すのは違う。販売するなら、自分の中で“どう変えたか”がちゃんとあるものを出してほしい。

なるほどね。真似して覚えるのは大事だけど、それをそのまま人に渡すのは違うんだ。

そう。真似は“学びの手段”であって、“ゴール”じゃないんだよ。作ってるうちに、「自分ならこうしたい」が出てくる。それを形にしていくのが、自分だけの作品になる。

それってちょっと勇気がいるけど、ワクワクもあるね。

うん、オリジナルを考えるって、最初は怖いけど楽しい。失敗もするけど、その失敗の中に自分らしさが見えてくる。

そっか。完璧を目指すより、自分の“好き”を見つけていく時間なんだね。

そう。それが一番大事。作品づくりは、“自分を知る旅”でもあるんだ。
リアルで売る意味を知る

最近はBASEとかminneで販売する人も多いけど、最初の販売ってやっぱりイベントのほうがいいのかな?

うん、僕はそう思う。ネット販売って手軽に始められるけど、最初にそこから入るとちょっと孤独なんだよね。

たしかに。ページを作っても、最初は誰も見てくれなかったりするもんね。

そう。お金がかかっていなくても、見られない時間が続くとけっこう精神的に疲れる。SNSで宣伝しても反応がなかったりして、思った以上にしんどいんだ。

うん、それ、分かる気がする…。

その点、イベントは“人の反応が目の前にある”。それが大きい。手に取ってくれる人がいて、「かわいい!」とか「どうやって作ってるんですか?」って話しかけてもらえる。あの瞬間に、“ああ、自分の作ったものがちゃんと届いた”って実感できるんだ。

それ、めちゃくちゃ嬉しいよね。誰かが自分の作品を選んでくれるって、ネットの「いいね」とは全然違う。

うん。しかも、イベントには“人と話す”っていうもうひとつの楽しみがある。実は、小さなお店や喫茶店が長く続く理由もそこにあると思う。

どういうこと?

たとえば住宅街にある喫茶店って、みんなコーヒーを飲みに来るだけじゃない。店主に会いに来るんだ。つまり、“人”に会いに来る商売なんだよ。

ああ、分かる。お気に入りの店って、商品より“雰囲気”とか“人”で行ってるところあるもんね。

そう。逆に言えば、脱サラして始めたそば屋さんが続かない理由も同じで、味や価格よりも“関係性”を築けるかどうかが大事なんだ。

なるほど…イベントもそれに近い感じなんだね。

そう。イベントって、“物を買う場所”でありながら、“人と出会う場所”でもある。会話を通して、「また会いたいな」「次も見たいな」って思ってもらえる。それが小さなつながりになっていく。

それって、コミケとかでもそうだよね。あの空気感って、人と人の交流でできてる。

まさに。イベント出店の本当の魅力は、“売れること”より“会えること”なんだ。人とつながる体験が、次の作品づくりにもつながっていく。

なるほどね。ネットで売る前に、まずリアルで“誰かに渡す”体験をしてみる。

そう。それが自信にもなるし、何より楽しい。イベントって、作品を通して人と話すための場所なんだ。
次のステップへ

なんか、話を聞いてたら「イベントに行ってみたい!」って気持ちになってきた。

うん、それが一番うれしい言葉だね。まずは会場の空気を感じてみてほしい。そこで何かを買わなくてもいいし、写真を撮るだけでもいい。

雰囲気を味わうだけでも刺激になりそう。

そう。イベントって、ハンドメイドの“文化祭”みたいなものだから、見るだけでも楽しいし、勉強にもなる。

たしかに。作る前に「こういう世界があるんだ」って分かるだけで、目標もできるよね。

うん。そして、気になる作家さんがいたら、少し話してみるといい。たぶん、想像してるよりずっと温かくて、優しい世界が待ってるよ。

うん、なんかワクワクしてきた。

次のステップは、“作ってみる”だね。見て感じたことを、自分の手で形にしてみる。

うん、それ、やってみたい! どんな材料を揃えたらいいかとか、最初に作るのにおすすめのアイテムとか、気になるな。

じゃあ次回はそこを話そう。はじめてのクラフト講座、“作ることを楽しむ”がテーマだね。

いいね。じゃあ今日は、“行ってみる勇気”を宿題にしようか。

うん、まずはそこから。会場の空気を吸って、ハンドメイドの世界を体で感じるところから始めよう。

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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