【第16回】スチームパンクなアニメを語る夜『スチームボーイ』から『クラユカバ』まで
- 日本スチームパンク協会
- 6月4日
- 読了時間: 13分
更新日:3 日前

喫茶『蒸談』へようこそ
ここは蒸気と物語、そして機械が息づく夢の入口 火花を散らす歯車、息づく蒸気、地下に眠るもうひとつの都市 画面の奥から聞こえてくるのは、機械たちの呼吸 今夜は、アニメで描かれた“スチームパンクの情景”をめぐる旅へ 一杯の珈琲とともに、設計図の向こう側へ──
スチームボーイ
クラユカバ
『クラユカバ』(KURAYUKABA)は、2024年4月12日公開の長編アニメーション作品。上映時間61分。大都市の地下世界を舞台に私立探偵と装甲列車が冒険を繰り広げる。 引用/ Wikipediaクラユカバ
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
◆正座して観たくなる、メカの美しさ◆


ツダさん、『スチームボーイ』久々に観返したんだけど…やっぱ冒頭の一輪自転車、あれすごすぎない? あんなにメカが“走る”だけのシーンなのに、ずっと目が離せなかった。

あのシーンはいいね。機械の存在感と、蒸気の圧が画面から伝わってくる。

特に好きなのは、追ってくるオハラ財団の蒸気マシン! 歯車むき出しの、いかにも“塊”って感じのメカでさ。よく見ると、ボイラーのまわりが木で巻かれてるの。あれ、19世紀前半の蒸気機関車のデザインを意識してるんじゃないかな。クラシックなのに、迫力があってすごく良い。

一輪で走るってだけでもすごいのに、蒸気で自走してるうえにペダルも漕いでるっていうね。電動アシストならぬ“蒸気アシスト自転車”。構造的に無茶だけど、「この世界では動く」って納得できちゃうんだよなあ。

そう、それ! なんかもう、出てきた瞬間からテンション上がりすぎて正座して観たくなったよ。

分かる。ああいうのって、一回落ち着いて仕組みを見直したくなるんだよね。あれは完璧に「機械が機械として動いてる」構図だね。全体が回転して、内側が逆回転して、加速する理屈がちゃんと分かる。しかも、あの暴れ方。見てるだけで汗かく。

ちょっとラピュタっぽい部分も感じるけど、印象はだいぶ違うよね。ラピュタの飛行機械って、滑らかに空を動く感じだけど、スチームボーイのはもっと地に密着してて、重たくて荒々しい。

ラピュタが「空と調和する機械」なら、スチームボーイは「地面と格闘する機械」。泥臭さというか、鉄の手触りがそのまま画面に出てる感じがあるよね。

でもさ、スチームボーイって、ところどころラピュタを思い出す場面があるよね。昔ツダさんがブログで「これはオマージュだ」って書いてたの、覚えてるんだ。

あったあった。構図のとり方とか、タイミングとか、妙に重なる部分があるんだよね。あれはたぶん意識してると思う。

例えば物語の最初のほうで、スチームボールを持って逃げるときに「蒸気機関車が道路を走って」追っかけてくるじゃない? ラピュタだと「ドーラ一家の車が線路を走って」追いかけてくるシーンがあるんだよね。視点の切り替えやカメラの動きに、どこか通じるものがある気がして。

そういう小ネタ、結構あるんだよね。スチーム城のアングルとか、あえて既視感を使ってるような場面もある。リスペクトしつつ、自分の土俵に引き込んでくる感じがうまい。

そうそう、乗り物のデザインにもそれ感じるんだよね。あえて“やりすぎてる”みたいなところがあって。戦車もそうだった! あの、ごちゃごちゃしててゴツゴツしてて、なんか“塊”って感じの車体。パーツがむき出しで、明らかに無駄が多いのに、そこがまたイイ。

それに、歯車むき出しの多脚戦車。ほんのちょっとしか出てこないのに、あの存在感はすごかった。

あーっ、分かる! あの、ガッチャガッチャ足踏みしたやつ! 動いてるだけでご褒美って感じだった。

あのへんの設計は本当に狂気じみてる。機構として成立してるかどうかなんてどうでもよくて、「こういう世界だから動くんです」って言い切れる説得力がある。ほらジョージ・ルーカスも言ってたでしょ。「俺の宇宙では出るんだよ(音が)」って。あれと同じで、大事なのは現実の理屈よりも、“この世界では本当に動いている”と思わせる力。リアルに見えることと、リアルであることって、必ずしも同じじゃないんだ。

うん、まさにそう! だから蒸気兵なんて、出てきただけで「きたこれ!」てなる。プレートアーマーに無理やり蒸気エンジン背負わせたような、不器用でゴツくて、でもすごく“らしい”感じ。のデザインにもそれ感じるんだよね。あえて“やりすぎてる”みたいなところがあって。戦車もそうだった! あの、ごちゃごちゃしててゴツゴツしてて、なんか“塊”って感じの車体。パーツがむき出しで、明らかに無駄が多いのに、そこがまたイイ。

そう、近未来じゃなくて、別の時間軸で進化した中世の兵器っていうかね。そしてもう一つ、あの飛行兵も印象的だった。背中にしょってたの、まるでリリエンタールのグライダーみたいだったよね。

あー! あの羽根! めちゃくちゃ好き。飛んでるというより、なんとか落ちずに踏ん張ってる感じがたまらない。

リリエンタールって、当時は飛行研究の最先端だったわけだけど、あれをそのまま軍事転用するって発想がもうスチームパンクなんだよね。しかも、飛行兵が背負ってるのは蒸気機関。重たくて、とても飛行に向いてないはずの動力を、グライダーとプロペラでなんとか浮かせてる。

うん、見た目からして無理してる感じがイイ!「飛べてる」っていうより「落ちずに済んでる」って印象。

そう、軽量化とは真逆の方向に行ってるのに、それで成立してるのがすごい。機構のリアリティじゃなくて、“世界観で成立させてしまう力技”って感じだね。

そのへんの描写が“偶然の産物”じゃないって、あのメイキング観ると分かるんだよね。初回DVD特典のやつ。

あれは本当にすごい。歯車の位置や煙の流れ、レバーの可動範囲まで、原画の段階でかなり細かく詰めてあるんだよね。それに音も、蒸気の噴き出す音や金属の軋みまで、サウンドデザインがものすごく緻密で、映像の“機械としての説得力”を下支えしてる。

うわ、それ聞いたらまた観たくなってきた…。アニメって本当は「省略の芸術」なのに、スチームボーイはむしろ“描きすぎ”て成立してるんだね。の描写が“偶然の産物”じゃないって、あのメイキング観ると分かるんだよね。初回DVD特典のやつ。

そう。あれはもはやアニメというより「動く設計図」。スチームパンク好きなら、あのメイキングは一度観ておくべき資料だよ。
◆他にもある、スチームパンクっぽいアニメたち◆

スチームボーイだけでもすごかったけど、ほかにも“スチームパンクっぽい”って言われてるアニメって結構あるよね。

あるある。たとえば『鋼鉄城のカバネリ』。蒸気機関がベースになってる兵器とか、装甲列車の描写はかなりスチームパンク的。ゾンビ×蒸気機関という無理やり感も含めてね。

あれ好きだったなー! 列車の中の暮らしとか、蒸気で動く装備とか、そういう設定だけでもうワクワクする。世紀前半の蒸気機関車のデザインを意識してるんじゃないかな。クラシックなのに、迫力があってすごく良い。

あとは『ラストエグザイル』。こっちは空中戦艦とクラシックな航空機が出てくるタイプ。世界観全体が“産業革命の空想版”って雰囲気で、こんな感じでビジュアルもかなりスチームパンク寄りだよ。

空を滑空していく船が、ほんとに“空の海賊”って感じでカッコよかった!

面白いのが、あの作品って村田蓮爾さんが『スチームボーイ』での小林誠さんのデザインを見て、「ラストエグザイルに参加してほしい」って声をかけたっていうエピソードがあるんだ。間接的にだけど、スチームボーイが次の作品につながっていったってわけだね。

えーっ、そんなつながりが!? なんか、それ聞いただけでグッときちゃう。スチームパンクって、作り手たちの憧れとか衝動が連鎖してる感じがあるよね。

あと、『レビウス』もあるね。蒸気駆動の義手で戦う格闘技っていう、かなり尖った設定。蒸気と肉体の融合っていうテーマ性があって、スチームパンク的な身体性を描いてる。

義手のギミックもカッコいいね!ぶしゅーって蒸気が出たり、力が入る感じが“生きた機械”って感じだった。

それでいくと『プリンセス・プリンシパル』も忘れちゃいけない。クラシックなロンドン風の街並みに、ギアで動く仕掛け、霧と陰謀のスパイもの。ちょっと変化球だけど、立派なスチームパンクの子孫だと思う。

うん、ガジェットの感じとか、服装もそうだけど、あの“曇った世界観”がたまらないよね。 ロゴも歯車とかついててアンティークな感じでかわいい。

最近の作品だと『アーケイン』。あれは一見するとファンタジー寄りだけど、街の上層と下層の技術格差や、蒸気と魔法が混ざったテクノロジーの描写がかなりスチームパンクに近い。

背景の細かさとか、工場の空気感がすごい! オシャレな絵柄の中にちゃんと機械の手触りがあるって、ほんと大事だね。

こうやって並べてみると、スチームパンクって「蒸気が動力で、ヴィクトリア風」っていう枠だけじゃなくて、“機械の存在感”とか“もう一つの歴史”っていう空気感があれば成立してる気がする。

うん、なんか「蒸気の匂いがする」ってだけで、もう立派な仲間入りって感じがしてきた!
◆クラユカバ/クラメルカガリ◆ 都市の深層にある“もうひとつの世界”

改めて紹介したいのが、アニメ『クラユカバ』とその続編『クラメルカガリ』。どちらも塚原重義監督による初の長編アニメーション作品で、2025年6月1日から2026年5月31日まで、各種配信サービスで定額制の動画配信が行われている。僕も、3Dモデリングとデザインワークスで参加しているんだ。

うん、それは知ってるよ。エンドロールに「日本スチームパンク協会」の名前もしっかり出てたしね。ちゃんと紹介しておかないと!

『クラユカバ』は、もともとパイロットフィルムとして制作されて、その独特な世界観が話題になって、クラウドファンディングを経て長編化された作品。制作はアニメスタジオ「ツインエンジン」。近年は配信作品にも強いけど、こういった“作り込み重視”の作品を地道に届けてくれるスタジオでもある。

あの街並みとか列車のデザイン、やっぱり“地に足がついた世界”って感じがしたなぁ。機械の匂いもするし、人の生活も感じる。塚原監督のメカって、なんか独特だよね。クラユカバでも思ったんだけど、あの世界では木炭が主な燃料なんだよね。蒸気っていうより、もっと“炊く”感じというか、下町の工房で作られた機械って感じがある。

うん、あれは化石燃料の代替として木炭が生き残ってる世界なんだよね。だからメカにも独特の下町感がある。どこか懐かしい、昭和の町工場がそのまま進化したような。蒸気パイプも歪んでて、歯車もむき出しで、でもそれが“ちゃんと動いてる”っていう説得力がある。

そのアナクロな感じがいいんだよね。メカが未来的すぎない分、人の感情が際立って見えるというか。民話みたいな語り口と、古びたバラックや町並み全体がまるで博物館の中みたいだった。

そう。塚原監督の作品って、いつもどこか“地下”に向かってる印象があってさ。クラユカバも、ずっと地下へ地下へと潜って、得体の知れないものを追い続けてる。だから逆に、今度は“上へ向かう物語”を見てみたくなるんだよね。

上へ? たとえば空に?

うん、でも単純な空飛ぶ冒険ってよりは、あの世界観のままで地下から地上、そしてその先を目指す話が見たい。都市構造が面白いから、下層から上層へと登っていくだけでもきっとドラマが生まれると思う。もちろん、あの技術感で空中都市まで描けたら、それもすごく見てみたい。

あの世界観って、やっぱり“地下”に特徴があるもんね。

クラユカバは“下に潜る”物語で、地下を走る鉄道の線路沿いに、闇市のような町が広がっている世界が舞台になっている。整った都市というよりは、日陰者たちが寄り集まって作った、雑多で不思議な空間。一方のクラメルカガリは、同じ世界の別の場所が舞台で、古い坑道を調査して地図を作る仕事が描かれる作品なんだ。あまり多くは語らないけれど、その調査の過程で、いろんなものが見えてくる。

どっちも地下だけど、空気の密度とか光の扱いとか、全然違う印象だった。クラユカバは人の生活の密度が高くて、クラメルカガリは空間が“余白”で語ってくる感じ。

実は塚原監督の過去作『ウシガエル』や『アームズラリー』とも、この世界とつながっているような気配があるんだ。公式に明言されてはいないけど、ディテールや世界の手触りが一貫していて、一つの広がりを持った“塚原ワールド”として見えてくる。

なるほど、それでどの作品も“どこかで見たことがあるようで見たことがない”っていう、不思議な既視感があるんだね。

そう、それが塚原監督の強み。街の構造や小道具の造形、登場人物の生活の仕草ひとつひとつが「この世界の法則」を語ってるんだよね。ナレーションや台詞で説明されなくても、そこに“ある”という説得力がある。

ちょうど配信も始まったし、これは今観ておかないと損だね。

劇場でも公開されたけど、ようやく配信で“届く場所が広がった”という感じ。こういう世界がしっかり構築された作品こそ、もう一度じっくり観てもらいたいと思うんだ。まだ観ていないなら、まずは『クラユカバ』から。きっと、その静かだけど確かな熱量に惹きこまれるはず。
コラム:スチームパンクと飛行機械 ―空を飛ぶことの夢
空を飛ぶ――それは人類がずっと憧れてきた夢だ。
スチームパンクの世界において、「飛行」は単なる移動手段ではない。むしろ、重力に抗うという行為そのものが、世界観に深みと詩情を与えている。
たとえば、映画『天空の城ラピュタ』に登場する「フラップター」や、『風の谷のナウシカ』に出てくる「メーヴェ」のような滑空機。どちらも軽やかに空を舞う姿で、「飛ぶこと」そのものが美しく描かれている。
一方で、『スチームボーイ』に登場する機械たちは、地面との格闘の末に、ようやく空を目指すような存在だ。 『ラピュタ』や『ナウシカ』が「空に浮かぶ軽やかさ」を描いているとすれば、『スチームボーイ』は「地上の重力と戦い続ける力強さ」を描いている。 同じ“空へのあこがれ”でも、そこに至るまでの道のりや、その手触りには、どこか異なるものを感じる。
スチームパンクの飛行機械には、よくあるSFのような超技術ではなく、歯車やリベット、蒸気の管といった、どこか「人力に近い」技術の名残がある。機械というより、空に浮かぶ工場のような――そんな矛盾した魅力がそこに宿っている。
実際、現実の技術史においても、「蒸気で空を飛ぶ」試みは存在した。1930年代、アメリカのベスラー兄弟が開発した「ベスラー・スチーム・エアプレーン」は、蒸気機関を搭載して実際に飛行したとされる数少ない航空機のひとつだ。
それ以前にも、ロシアのモジャイスキーによる蒸気機関機の試みなどがあったが、成功には至らなかったとされている。
だからこそ、スチームパンクの飛行機械は単なる空想ではない。「かつて本気で夢見られていたもうひとつの未来」としての説得力を持っている。重く、非効率で、いびつで、そして愛おしい機械たちが、ぎしぎしと音を立てながら空へと舞い上がる――それは、未来のためというより、夢のために飛ぶ姿だ。
スチームパンクにおける飛行とは、技術的進歩の象徴ではなく、人類の根源的な願望の結晶として描かれる。 蒸気、鉄、水――そして空。 その組み合わせの中に、私たちはいまもなお、「飛ぶこと」への憧れを見ている。

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
▼クラユカバの配信情報は下記公式サイトをご覧ください▼
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