【第2回】工場のワクワク感—— 機械が楽しかった時代
- 日本スチームパンク協会
- 2月26日
- 読了時間: 5分
更新日:6月27日

喫茶『蒸談』へようこそ
ここは蒸気と機械、そして想像力が交差する場所
歯車が回るように、言葉を紡ぎながら
スチームパンクの世界をめぐるひとときを
さあ今日の話題は?
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
◆工場とか重機って、なんであんなにワクワクするんだろう?◆


ツダさん、私ずっと思ってたんだけど、重機とか昔の工場って、なんであんなにワクワクするんだろうね?

ああ、それ、すごく分かる。たぶん「機械が何をしてるか見えるから」じゃないかな。

ほう?

今の機械って、すごく高度になってるけど、外から見ると何が起きてるのか分からないことが多いでしょ? でも昔の工場とか重機って、歯車やピストンが動いてるのが見えるし、「今、ここが動いたから、次はここが動く」っていうのが直感的に分かるんだよね。

あー、たしかに。たとえば昔の蒸気機関車とか、動いてる部分が丸見えだもんね。シリンダーが上下して、連結棒が動いて、車輪が回るのが目に見えて分かる。

そうそう。見てるだけで「なるほど、こうやって動いてるのか」って納得できるのが、ワクワクにつながるんじゃないかな。
◆スチームパンクと工場の共通点◆

でも、それってスチームパンクにも共通する気がする。

うん、まさにそう。スチームパンクの機械って、「機能や機構が見えること」がすごく大事なんだよね。

確かに、スチームパンクのデザインって、むしろ「見せるための機械」みたいなところがあるよね。わざわざ外にパイプを出したり、歯車を見せたり。

そう。実用的なだけじゃなくて、「機械が動くことそのものが楽しい」っていう感覚がある。そこが、昔の工場とか重機に感じるワクワク感とつながるんじゃないかな。
◆機械が楽しかった時代◆

「機械が楽しかった時代」って、いい言葉だね。今は機械って、どちらかというと「便利なもの」っていう認識が強いけど、昔は「すごい! こんなことができるんだ!」っていう感動があった気がする。

まさにそう。たとえば、19世紀に蒸気機関が登場したときって、「これで人間は馬に頼らなくても済む!」っていう革命的な出来事だったわけだよね。

うんうん。産業革命の時代の工場もそうだよね。それまで全部手作業だったのに、「機械を使えば大量に作れる!」っていう発見があった。

そういう「機械が未来を切り開く」というワクワク感こそ、スチームパンクの根底にあるものかもね。
◆今の時代にスチームパンクが響く理由◆

じゃあ、今の時代にスチームパンクが人気なのって、やっぱり「そういう機械の楽しさをもう一度味わいたい」っていう気持ちがあるのかな?

それはあると思う。今の技術はすごいけど、スマートフォンみたいに「中身が見えない」ものが増えたからね。昔の機械みたいに、「どう動いてるのか分かる」ものに惹かれるのかもしれない。

なるほどねえ。そう考えると、スチームパンクって、ただのレトロ趣味じゃなくて、「機械を楽しむ心」を思い出させるものなのかも。

うん。それこそ、昔の工場や重機にワクワクするのと同じ感覚で、スチームパンクの世界を楽しめるんじゃないかな。

なんか、工場見学に行きたくなってきた(笑)。

いいね。実際に昔の機械を見て、「機能と機構が見える楽しさ」を体験するのは、スチームパンクを理解する上でもすごくいいと思うよ。

じゃあ今度、スチームパンクの目線で工場見学してみようかな。

ぜひぜひ。その視点で見ると、また違った発見があるかもしれないよ。
コラム:重機は、現代に残された“スチームパンクの遺伝子”かもしれない
あの油にまみれた鉄の塊が、ぎしぎしと軋みながら動き出す瞬間。腕のように伸びるショベル、油圧で持ち上がるアーム、むき出しのシリンダーが押し出される音。重機の動きには、どこか懐かしさと未来感が共存している。
重機は、スチームパンクの世界観における「見える機構」の理想形のひとつだ。それは、効率化や自動化が進んだ現代の機械が失いつつある、“動きの意味”が露わな機械。まるで「今、この部分が動いたから、次はこうなる」という因果が、一本の物語のように伝わってくる。
そして何より、重機には「操作する楽しさ」が今なお残っている。オペレーターはレバーやペダルを通じて、数トンもある鉄のアームを正確に動かす。そこにはコンピュータ制御では味わえない、機械を自分の手で操る確かな感触と喜びがある。
一見すると現実的な道具にすぎない重機だが、スチームパンクの視点で見ると、そのシルエットや構造、動きには物語が宿っていることがわかる。リベットが並ぶキャタピラの車体、パイプが絡む油圧ユニット、外付けされたライトと工具箱。
これらは、必ずしも「見せるため」だけに存在するのではなく、「使うため」だけにあるわけでもない。重要なのは、それが使われる様子をイメージさせ、「ここには何らかの理由がある」と感じさせることだ。「使われるため」に存在し、その結果として自然に「見せるため」の魅力をも宿しているのが、スチームパンク的デザインの核心ではないだろうか。
美は、機能と物語の交差するところに生まれる。この思想こそスチームパンクの本質であり、重機という存在が現代にもたらしてくれる貴重な感覚なのかもしれない。

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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