【第17回】横浜ドッグヤードガーデン——歴史と未来が交わる場所
- 日本スチームパンク協会
- 2 日前
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更新日:1 日前

喫茶『蒸談』へようこそ
ここは蒸気と記憶、そして時間が交差する広場
苔むした石、静かに沈むドック、そしてその上を照らす
現代の灯り失われた機械の気配に、未来の空想が重なっていく
今回は、横浜に残る造船所跡「ドッグヤードガーデン」をめぐりながら
スチームパンクと歴史の場所の、静かな親和性を語ります──
横浜ドッグヤードガーデン
ライブ、コンサートから各種プロモーションなどに対応する屋外スペース。日本に現存する商船用石造りドックとしては最も古い「旧横浜船渠第2号ドック」を後世に伝えるべき資産として復元して生まれたのが「DOCKYARD GARDEN(ドックヤードガーデン)」。 引用:みなとみらい21
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
◆ドッグヤードガーデンって知ってる?◆


ツダさん、横浜のドッグヤードガーデンって知ってる?

ん? 初めて聞いたな。なんか名前からして、港とか造船所関係の場所っぽいけど…。

そうそう! もともと造船所だった場所を活かしたエリアで、今はイベントスペースや飲食街になってるんだって。ちょっと気になって調べてみたんだけど、船を作っていた場所の形がそのまま残ってるっていうのが面白いのよ。

へぇ、それは珍しいな。普通、こういう場所って再開発されて跡形もなくなることが多いけど、造船所の形をそのまま残してるのはいいね。

だよね! しかもイベントなんかも開催されてるみたい。雰囲気的に、歴史ある場所で現代的なイベントをやるのって、ちょっとロマンがある感じがする。

たしかに。じゃあ、ちょっと詳しく見てみようか。
◆ドッグヤードガーデンの歴史と今◆


調べた感じ、ドッグヤードガーデンは横浜ランドマークタワーのすぐそばにあるらしいね。造船所として使われてた頃の姿をそのまま残してるみたい。

横浜って、もともと港町だから、造船所があったのは納得だな。造船所っていうと、大きなクレーンとか、リベットが打たれた鉄骨の構造が思い浮かぶけど、ここは石造りのドックなんだな。

そうみたい。船を作っていた時の「修理ドック」らしくて、船が入るスペースがそのままイベント会場になってるんだって。で、地下には飲食店街もあるらしいよ。

造船所跡が飲食街に? なんかギャップが面白いな。船を作ってた場所で、今は人が食事してるっていうのは、時代の流れを感じるね。

この感じ、ちょっとスチームパンクっぽくない? 歴史ある場所に新しい機能を追加するのって、「過去の遺産を活かす」っていうスチームパンクの考え方と合う気がする。
◆歴史ある場所とスチームパンクの親和性◆

そうだな。スチームパンクって、基本的に「過去の技術が発展し続けていたら?」っていう世界観だから、こういう「歴史ある場所を現代に活かす」っていうのは、かなり相性がいいと思う。

しかも、造船所って機械とか鉄のイメージが強いから、蒸気機関とか巨大な歯車のあるスチームパンクな空間とすごく合いそう。

うん、たとえば昔の造船所のクレーンをそのまま使った巨大なオブジェとか、蒸気管をイメージしたライトアップとか、そういう演出があったら雰囲気が出そうだな。

夜になると、ドッグの周りにスチームが噴き出す装置があったりすると、もう完璧だね。

イベント会場として使ってるなら、いっそのこと「スチームパンクフェス」とかやってみても面白いかもな。
◆もしスチームパンクの世界にあったら?◆

じゃあ、もしこのドッグヤードガーデンがスチームパンクの世界にあったら、どんなふうに使われてると思う?

やっぱり「飛行船の整備ドック」だろうな。船の代わりに、巨大な飛行船がここに格納されて、メンテナンスを受けてる感じ。

うわ、それめちゃくちゃいい! 飛行船を係留するための巨大なアームとか、整備用の足場が張り巡らされてるのとか、想像するだけでワクワクする。

で、飛行船のエンジンをチェックするために、整備士たちが蒸気圧ゲージを確認してたり、オートマタが歯車の調整をしてたりする。

イベントスペースとして使うなら、普通のマーケットじゃなくてさ……たとえば、昔ここで飛行船を作ってたんだけど、今はもう使われてなくて。 でも、あちこちに部品とか工具とかが残ってて、それを勝手に持ち寄って売る“スチームパンク闇市”みたいになってる──って設定、どう?

いいね、それ。廃ドックの中に、飛行船のエンジンや装飾部品、蒸気管なんかが転がってて、そこに仮設の屋台がぽつぽつ立ち並んでる。 整備士上がりのおじさんが、「これは昔、王室船で使われてたバルブだ」とか言ってて、何の部品かわからないジャンクが山積みになってるとか。

で、そういうパーツを拾って、勝手に機械を組み立ててるやつもいるの。「これ、夜になると動くんだぜ」とか言って、ガラガラと謎の装置が動き出したりして。 もう、整備っていうより“発明の実験場”になってる。

それ最高だね。誰が作ったのかわからないオートマタがうろうろしてたり、煙を吐きながら飛ぶかどうか分からない飛行ユニットの試運転が始まったり。 技術者たちが“安全基準”とか完全に無視して、ひたすら面白いモノを生み出してる場所。

ちゃんと売るつもりもないのに、「これ売ってくれない?」って聞いたら「いや、まだ未完成だから」って断られるやつ(笑)。 でもその未完成品が一番かっこよかったりするんだよね。
◆結局、こういう場所でイベントやったら面白そう◆

こういう歴史ある場所を活かしたイベントって、もっと増えてもいいよな。ただの広場じゃなくて、場所そのものにストーリーがあるのが面白いし。

うん、特にドッグヤードガーデンみたいに、「もともと機械的な用途があった場所」をイベント会場にするのって、特別感があるよね。

そうだな。歴史的な遺産の上に、新しい文化を重ねるっていうのは、まさに「過去と未来の融合」だからな。

スチームパンク的なイベントをやるなら、こういう場所でやるのが一番しっくりくるね。
コラム:過去の構造物は、未来の想像力を支える
石積みの壁、かつて船を支えた鋼のアーム、そして今ではそこに人の賑わい。役目を終えた構造物には、ただ“残された”以上の意味がある。
かつて世界を動かしていた技術や構造。それらを現代の中に見つけたとき、人はそこにもう一つの物語を重ねたくなる。「もし、まだここが現役だったら?」「もし、蒸気の時代が終わっていなかったら?」
ドッグヤードガーデンのような場所は、そうした“もしも”のための最高の舞台になる。廃墟でも博物館でもない、想像力が入りこむ余地のある空間。
スチームパンクとは、過去を懐かしむだけのジャンルじゃない。過去の構造を材料にして、“なかったかもしれない未来”を建て直す遊び。
そしてそれは、案外いまの現実にこそ必要な視点かもしれない。

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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