スチームパンク小説おすすめ入門|まず読みたい海外の名作ガイド【海外編】
- 日本スチームパンク協会

- 5 日前
- 読了時間: 9分

喫茶蒸談へようこそ
スチームパンクの世界に触れる入口は、映画やゲーム、ファッションなどいろいろあるけれど、ジャンルの根っこにあるのはやっぱり小説だ。
今日は「スチームパンクの小説を読んでみたいけど、何から手をつければいいか分からない」という人に向けて、海外の名作を年代とタイプで整理しながら案内していく。
今回は海外編。日本編、SF新興国編は追って別の回で扱う予定なので、まずは大きな幹にあたる海外作品から。
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ): 日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの"ワクワクするところ"を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える"解説役"として登場することが多い。
そもそも「スチームパンク小説」ってどこから始まったの?

スチームパンクの小説っておすすめある?って聞かれること多いんだけど、いざ挙げようとすると、どこから話せばいいか迷っちゃうんだよね。

わかる。数も多いし、タイプもバラバラだからね。だから今日は「時代の流れ」と「作品のタイプ」で地図を描きながら話そうと思う。まず大事なのは、スチームパンクっていうジャンルには、名前がつく前の「ご先祖様」がいるってこと。

ご先祖様?

ジュール・ヴェルヌとH・G・ウェルズ。19世紀の作家だね。ヴェルヌの『海底二万里』とか、ウェルズの『タイムマシン』とか。当時は「スチームパンク」なんて言葉はなくて、「サイエンティフィック・ロマンス」って呼ばれてた。

あ、それ先週のサイバーパンクの回でも出てきた話だ。

そうそう。この2人が、蒸気と機械の時代の想像力の原型を作った。今のスチームパンク作品は、多かれ少なかれこの2人の子孫みたいなものなんだよ。だからまず読むなら、この源流に触れておくと、あとの作品の見え方が変わってくる。
スチームパンク小説の源流は、19世紀のヴェルヌとウェルズ。ジャンル名がつく前の「サイエンティフィック・ロマンス」がすべての出発点になっている。
「スチームパンク」という名前を生んだ3人衆

じゃあ「スチームパンク」って名前は、いつ誰がつけたの?

1987年、K・W・ジーターっていうSF作家が、業界誌への投書で使ったのが始まり。しかもこれ、当時流行ってた「サイバーパンク」をもじった言葉遊びだったんだ。

へえ、名前は冗談から生まれたんだ。

そう。で、そのときジーターが「自分たちの書いてる、古い時代を舞台にした作品群」として念頭に置いてたのが、3人の作家の作品なんだ。ジーター自身の『悪魔の機械』、ティム・パワーズの『アヌビスの門』、ジェイムズ・P・ブレイロックの『ホムンクルス』。この3つが、いわば「スチームパンク」と名づけられた最初の作品たち。

その3冊が原点ってことか。

厳密に言うとね。どれも19世紀を舞台にして、ヴェルヌやウェルズの空気を受け継いでる。とくにパワーズの『アヌビスの門』は、時間旅行と19世紀ロンドンを絡めた傑作で、今でも読み継がれてる。「名前のルーツを辿りたい」なら、このあたりが出発点になる。
「スチームパンク」の名は1987年にK・W・ジーターが命名。ジーター、パワーズ、ブレイロックの19世紀もの作品群が、その名の原点になっている。
金字塔と呼ばれる一冊、『ディファレンス・エンジン』

スチームパンク小説といえばこれ、みたいな代表作ってあるの?

まず名前が挙がるのが『ディファレンス・エンジン』。1990年の作品で、スチームパンクの金字塔ってよく呼ばれてる。バベッジの階差機関、つまり蒸気で動く機械式コンピュータが実際に完成しちゃった架空のヴィクトリア朝ロンドンが舞台なんだ。

それ、先週のサイバーパンクの回でめちゃくちゃ詳しく話したやつだ。

そう、書いたのがサイバーパンクの巨匠ギブスンとスターリングっていう話ね。あの回で作品の背景はたっぷり語ったから、ここでは繰り返さないでおく。気になる人は先週の回を読んでもらうのが一番早い。読み物としてはやや骨太だけど、スチームパンクの世界観を「これでもか」と浴びたいなら外せない一冊だよ。
スチームパンク小説の代表格は『ディファレンス・エンジン』(1990年)。詳しい背景は前回のサイバーパンク回で解説している。
冒険譚として楽しむなら、『リヴァイアサン』

もうちょっと肩の力を抜いて、物語として楽しめるのはある?

それなら『リヴァイアサン』シリーズ。第一次世界大戦前夜のヨーロッパを舞台に、遺伝子改造生物を操る陣営と、蒸気機械を操る陣営が対立する架空世界の冒険譚なんだ。巨大な飛行獣に乗った少年少女が世界を巡る話でね。

それ、うちの過去回でも取り上げたよね。

そう、以前しっかり一本使って語ったから、詳しくはそっちを見てほしい。とにかく「スチームパンクって難しそう」って身構えてる人に、一番すすめやすい入り口だと思う。冒険小説としてまっすぐ面白いから。
『リヴァイアサン』シリーズは冒険譚として読みやすく、スチームパンク小説の入門に最適。詳細は過去の専用回で紹介している。
ファンタジー寄りの異色作、『ペルディード・ストリート・ステーション』

ちょっと変わったやつも知りたいな。

じゃあチャイナ・ミエヴィルの『ペルディード・ストリート・ステーション』。これは歴史改変じゃなくて、完全に架空の異世界を舞台にしたスチームパンク。蒸気機械と魔法、いろんな種族が入り乱れる巨大都市を描いた大作で、クラーク賞なんかも受賞してる。

歴史ものじゃないスチームパンクもあるんだ。

そこがこのジャンルの面白いところでね。スチームパンクって「19世紀ヨーロッパもの」だけじゃなくて、その美学だけをファンタジー世界に持ち込んだ作品もどんどん出てきてる。ミエヴィルはその代表格。ただ世界観が濃密で、最初はちょっと入りにくいから、さっきのヴェルヌやリヴァイアサンで足慣らししてから挑むといいかな。
『ペルディード・ストリート・ステーション』は、架空世界を舞台にしたファンタジー系スチームパンクの代表作。歴史改変ものとは違う、もう一つの潮流を示している。
海外スチームパンク小説 早わかり一覧
ここまで挙げた作品に、本文で語りきれなかった定番も加えて、タイプと読みやすさで整理しておく。気になったところから手に取ってほしい。
作品 | 作者 | 年 | タイプ | 読みやすさ |
海底二万里/タイムマシン | ジュール・ヴェルヌ/H・G・ウェルズ | 19世紀 | 源流(サイエンティフィック・ロマンス) | ★★★ |
アヌビスの門 | ティム・パワーズ | 1983 | 命名の原点(時間旅行×19世紀ロンドン) | ★★ |
ホムンクルス | ジェイムズ・P・ブレイロック | 1986 | 命名の原点 | ★★ |
悪魔の機械 | K・W・ジーター | 1987 | 命名の原点(名づけ親の作品) | ★★ |
ディファレンス・エンジン | W・ギブスン/B・スターリング | 1990 | 金字塔(歴史改変・王道) | ★ |
黄金の羅針盤(ライラの冒険) | フィリップ・プルマン | 1995 | 冒険譚(真理計と飛行船・映画化) | ★★★ |
ペルディード・ストリート・ステーション | チャイナ・ミエヴィル | 2000 | ファンタジー系(架空世界) | ★ |
移動都市 | フィリップ・リーヴ | 2001 | 冒険譚(蒸気で走る都市・映画化) | ★★★ |
ボーンシェイカー | シェリー・プリースト | 2009 | 歴史改変(19世紀シアトル・ネオスチームパンク) | ★★ |
リヴァイアサン | スコット・ウエスターフェルド | 2009 | 冒険譚(入門に最適) | ★★★ |
アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う(英国パラソル奇譚) | ゲイル・キャリガー | 2009 | ロマンス系(吸血鬼・人狼×恋愛) | ★★★ |
二重人格探偵エリザ 嗤う双面神 | ヴィオラ・カー | 2015 | ミステリ系(ジキルとハイドの翻案) | ★★ |
年代順に並べてある。19世紀の源流から2010年代まで、途切れることなく新作が生まれ続けているのがわかると思う。読みやすさは★が多いほど初心者向けで、★1つは世界観が濃密な読み応え重視型。まずは★★★から入ると挫折しにくい。本文で語りきれなかった定番(黄金の羅針盤、移動都市、ボーンシェイカー、英国パラソル奇譚、二重人格探偵エリザ)もあわせて載せた。とくに『英国パラソル奇譚』は吸血鬼や人狼と恋愛を絡めたロマンス系で、「難しそうなSFはちょっと」という人の入り口にもなる一冊。
源流から金字塔、冒険譚、ファンタジー系まで。海外だけでもこんなに幅があるんだね。しかも一覧で並べてみると、19世紀からずっと途切れずに新作が出続けてるのがすごい。

そこ、気づいてもらえて嬉しいな。スチームパンクって「懐かしいもの」とか「一時期流行ったジャンル」って思われがちなんだけど、実際は今も現役で書かれ続けてる。しかもこれ、まだ入り口に過ぎないんだよ。日本にも独自のスチームパンク小説の系譜があるし、韓国や中国みたいなSF新興国からも面白い作品がどんどん出てきてる。そのへんはまた別の回で、じっくり案内するつもり。

海外編、日本編、新興国編。読む地図が広がっていく感じで楽しいな。

まずは今日挙げた中から、ピンときた一冊を手に取ってみてほしい。どれもスチームパンクっていう世界への、確かな入り口になるはずだから。
よくある質問
Q. スチームパンク小説は何から読むのがおすすめですか?
物語としての読みやすさなら『リヴァイアサン』シリーズ、ジャンルの源流に触れたいならジュール・ヴェルヌやH・G・ウェルズの古典、王道の世界観を味わいたいなら『ディファレンス・エンジン』が入り口になります。まずは興味を引かれた一冊から手に取るのがおすすめです。
Q. スチームパンクの名前の由来になった小説は何ですか?
A.1987年にSF作家K・W・ジーターが「スチームパンク」という言葉を作った際、念頭にあったとされるのが、ジーター自身の『悪魔の機械』、ティム・パワーズの『アヌビスの門』、ジェイムズ・P・ブレイロックの『ホムンクルス』です。いずれも19世紀を舞台にした作品です。
Q. 歴史ものではないスチームパンク小説もありますか?
A.あります。チャイナ・ミエヴィルの『ペルディード・ストリート・ステーション』のように、実在の歴史ではなく完全な架空世界を舞台に、蒸気機械の美学を取り入れたファンタジー系スチームパンクも大きな潮流の一つです。
代表作の背景を詳しく知りたい人へ
『ディファレンス・エンジン』が、なぜサイバーパンクの巨匠たちの手で書かれたのか。その意外な関係を掘り下げています。
スチームパンクそのものが気になった人へ
蒸気機関が発展し続けた“もうひとつの歴史”から生まれた世界観。定義から楽しみ方まで、まずは入口から。
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文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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