サイバーパンクとは?「ハイテク×ローライフ」で描かれる、もう一つの未来
- 日本スチームパンク協会
- 2 日前
- 読了時間: 13分

喫茶蒸談へようこそ
「サイバーパンク」という言葉は、アニメや映画のジャンル名としてよく見かける。けれど、その中身をきちんと説明できる人は意外と少ない。
今日は特定の作品の話題に寄せず、まずはこの言葉そのものがどう生まれ、何を描くジャンルなのかを、基礎からゆっくり話していきたい。
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ): 日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの"ワクワクするところ"を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える"解説役"として登場することが多い。
何度も口にしてきたのに、実は説明したことがなかった


ねえ、気づいちゃったんだけど。私たち、この喫茶蒸談で「サイバーパンク」って言葉、けっこう当たり前に使ってきたよね。アジアンゴシックと比べた回もあったし。

あー、言われてみると(笑)。スチームパンクを説明するときの「対になるもの」として、何度も引き合いに出してきたね。

なのに私、「サイバーパンクって、そもそも何?」って正面から考えたこと、一度もなかったかも。スチームパンクの話をするときに、なんとなく反対側にあるもの、くらいの感覚で口にしてただけで。

その感覚のままだと、サイバーパンク好きの人に怒られるやつだよ(笑)「いや、こっちが本家で、スチームパンクのほうが後から出てきたんだろ」って。

え、そうなの?どっちが先とかあるんだ。

そこ、今日の後半でちゃんと決着つけようか。実はこの「どっちがどっち」問題、一冊の小説がきれいに答えを出してくれてるんだ。まずは基礎からいこう。名前からいくと、これ「サイバネティクス(cybernetics)」と「パンク(punk)」を組み合わせた造語なんだ。

パンクって、あの反骨精神のパンク?

そうそう。管理された社会への反抗心とか、体制へのアウトサイダー的な視点が名前に込められてる。この「パンク」の部分、実はスチームパンクと共通してるんだけど、そこは後で効いてくるから覚えておいて。
ハイテクなのに、暮らしはローライフ

サイバーパンクを一言で表すなら「ハイテク・ローライフ」という言葉が有名でね。技術そのものは極端に進んでいるのに、そこで暮らす人々の生活は決して豊かじゃない、というギャップが核心にある。

便利になったはずなのに、なんか息苦しそうなイメージ。

まさにそれ。巨大企業が国家より力を持っていたり、街には広告のネオンと雑踏があふれていたり。技術の恩恵は一部に集中して、多くの人はその隙間で生きている、みたいな構図がよく描かれるんだ。

技術革新=明るい未来、じゃないんだ。

そう、そこがポイント。テクノロジーの進歩を手放しで祝う物語じゃなくて、進歩の副作用や歪みに目を向けるのがサイバーパンクの姿勢なんだよね。
どこから生まれた言葉なのか

この呼び方自体は、いつ頃からあるの?

言葉自体は1980年代前半、アメリカのSF作家ブルース・ベスキが発表した短編小説のタイトルが最初と言われている。それを編集者たちが、似た雰囲気を持つ一群の作品を指すジャンル名として広めていった。

もともとは一本の小説のタイトルだったのが、ジャンル名に化けたんだ。

そう。決定的だったのが1984年、ウィリアム・ギブスンの小説『ニューロマンサー』。ここで「サイバースペース」という言葉が世に広まって、電脳空間を舞台にした物語の原型ができあがった。

電脳空間っていう発想自体、そこが起点なんだ。

あと忘れちゃいけないのが映画『ブレードランナー』。1982年公開で、雨に濡れたネオン街とか、企業が支配する未来都市の映像イメージは、今でもサイバーパンクの代名詞になってる。
代表作から見る、共通する空気

具体的にどんな作品がサイバーパンクって言われてるの?

さっき話した『ブレードランナー』や『ニューロマンサー』が海外の源流。日本だと大友克洋さんの『AKIRA』が世界的にすごく影響力があった作品で、あとは電脳やサイボーグ技術を真正面から扱った作品群も、日本のサイバーパンクを代表するラインナップとしてよく名前が挙がるね。

日本発の作品も、ジャンルの中心にいるんだ。

うん、むしろ日本のクリエイターが海外に与えた影響もかなり大きいジャンルなんだよね。このあたりは、また改めてじっくり一本掘り下げる回を用意しようと思ってる。
スチームパンクとは、機械への向き合い方が真逆

ちなみに、うちのサイトが扱ってるスチームパンクとは何が違うの?

いい質問。両方とも「機械と人間の関係」を描くジャンルだけど、機械との距離の取り方が対照的なんだ。スチームパンクは、基本理念にもある通り「隠すのではなく、見せる」。歯車やパイプをあえて露出させて、人間と機械はあくまで別の存在として、機械を装飾のように身にまとう。

たしかに、ゴーグルとか歯車の小物とか、機械を「着る」感じだもんね。

一方でサイバーパンクは、機械と人間の境界そのものを溶かしにいく方向。義体や電脳って、機械を身にまとうんじゃなくて、身体の内側に入り込んで一体化しちゃうものでしょ。

「見せる」スチームパンクと、「溶かす」サイバーパンク。

うん、この対比は覚えておくと、これから両方のジャンルの作品を見るときの補助線になると思う。
ちょっと脱線、サングラスの話をさせてほしい


ここでちょっと脱線していい?さっき「機械を着るスチームパンク」の象徴としてゴーグルの話をしたでしょ。実はサイバーパンクにも、目もとを覆うアイテムの象徴があるんだ。ミラーシェード、鏡みたいに反射するサングラスね。

あー、サイバーパンクのキャラって、たしかにサングラスかけてるイメージある。

これがね、ただのファッションじゃないっていう見方があって。日本にサイバーパンクを紹介した第一人者で、巽孝之さんっていう批評家がいるんだ。慶應の名誉教授で、『サイバーパンク・アメリカ』っていう本を書いた人。

その人が、サングラスに注目してるの?

ミラーシェードって、サイバーパンクを語るうえで象徴的なアイテムとしてよく取り上げられるんだよ。実際、このジャンルを代表するアンソロジーのタイトルそのものが『ミラーシェード』だったりする。何が面白いって、鏡面のサングラスをかけると、相手からはこっちの目が見えない。逆に相手には、自分の姿が映って返ってくるだけなんだ。

あ、たしかに。目が見えないと、何考えてるか読めなくて、ちょっと怖い。

そこなんだよ。目って「心の窓」ってよく言うでしょ。その窓を鏡で塞いでしまう。表情も、感情も、内面も、ぜんぶ反射でシャットアウトする。これって、サイバーパンクが描く「人間が機械寄りになっていく世界」を、すごく端的に表してるんだよね。目を隠すことで、人間らしさをあえて消していく。

スチームパンクのゴーグルとは、逆の意味なんだ。

そこが対比として効いてくるんだよ。スチームパンクのゴーグルは、機械いじりの作業とか、冒険の道具としての「顔を彩る」小物でしょ。人間の営みに寄り添う装飾。でもサイバーパンクのミラーシェードは、人間の内面を隠して、匿名の存在になっていくための仮面。同じ「目もとを覆う」でも、向いてる方向が真逆なんだ。

ゴーグルは人間に近づく道具で、ミラーシェードは人間から遠ざかる仮面か。脱線って言ったけど、めちゃくちゃ本筋の話じゃん(笑)。

バレたか(笑)でも、こういうアイテム一個の意味を知ってると、作品を観るときの解像度が変わってくるからね。
そもそも、まったく別の場所で生まれていた

さっきの話に戻るんだけど。サイバーパンクとスチームパンク、どっちが先で、どっちが本家なの?

そこ、実は一段階遡って話す必要があってね。スチームパンクの世界観そのもの、蒸気機関とか歯車とかヴィクトリア朝の雰囲気って、そもそもの下地を作ったのが誰かっていうと、ジュール・ヴェルヌとかH・G・ウェルズなんだ。『海底二万里』とか『タイムマシン』とか。

あ、それ聞いたことある作品だ。すごい昔の話じゃない?

19世紀だからね。しかも当時は「スチームパンク」なんて言葉はまだなくて、「サイエンティフィック・ロマンス」って呼ばれてた。「SF」って言葉すら存在しない時代の話だから。

えっ、じゃあ名前もジャンルの括りも、今とは全然違ったんだ。

そう。今でこそヴェルヌやウェルズの作品は、広い意味でスチームパンクの源流として扱われることが多いんだけど、当人たちは自分の作品が100年後にそう呼ばれるなんて想像もしてなかったわけで。サイバーパンクが生まれた1980年代からすると、その1世紀近く前の話なんだよね。

じゃあ、この二人はスチームパンクの「ご先祖様」みたいな存在なんだ。
名前は兄弟、ディファレンス・エンジンでは双子

うん、まさにそういう距離感。で、ここから時代がぐっと進んで、名前の方の話。ジャンルとして名前が定着した順番で言うと、サイバーパンクの方が先なんだ。「サイバーパンク」って言葉自体は1980年代前半、1984年の『ニューロマンサー』のあたりでジャンル名として広まった。

あ、そこはちゃんと順番あるんだ。

うん。で、ここからが面白いんだけど、「スチームパンク」って言葉が生まれたのは1987年。SF作家K・W・ジーターが、業界誌への投書の中で冗談半分に作った言葉なんだ。しかもこれ、「サイバーパンク」をもじって「スチームパンク」って言ったのが由来。

え、スチームパンクって名前自体が、サイバーパンクへの言葉遊びだったの!?

そう。だから名前の系譜で言えば、サイバーパンクが先輩で、スチームパンクの名前はそこからの駄洒落。ここは兄弟に近い関係だね、生まれた順番がはっきりある兄弟。

ヴェルヌが先祖で、名前の上ではサイバーパンクが兄、スチームパンクが弟ってことか。

そういうこと。で、ここに『ディファレンス・エンジン』が出てくる。この小説を書いたのが誰だったか、覚えてる?

ギブスンとスターリング、サイバーパンクの二大巨頭だった。

そう。名付け親はジーターだけど、スチームパンクを世に知らしめて、ジャンルとしての厚みを作ったのは、サイバーパンクを作った当人たちが書いた一冊。しかもその中身は、さっき話したヴェルヌたちの「ご先祖様」の血筋、バベッジの階差機関が実現した世界を舞台にしてる。ご先祖様の血筋と、兄弟の片方の手が、この一冊の中で合流したんだよ。

先祖の代から続くスチームパンクの血と、サイバーパンクの作家の手が、一箇所に納まったんだ。

そう。だからこの瞬間だけ見ると、双子みたいに一つの作品の中で同じ姿をしてる。
でも、双子のままでは終わらなかった

じゃあ結局、双子ってことでいいの?

それがね、話はそこで終わらないんだ。『ディファレンス・エンジン』って、実は「情報を誰が握るか」で社会の権力が決まる、っていう管理社会寄りのテーマも持ってる作品でね。階差機関っていう情報処理装置が、社会をがっちり支配してる設定なんだ。

あ、それ、まさにさっき話したサイバーパンクの匂いだ。

そうなんだよ。でも、そこから後のスチームパンクは、その管理社会的な暗さをそのまま引き継がなかった。むしろ、ご先祖様であるヴェルヌやウェルズが持ってた「冒険心」とか「未知への好奇心」の方を、どんどん前面に出すようになっていったんだ。

あ、それこそ、うちの基本理念にある「もう一つの歴史への想像力」とか「DIY精神」みたいな話だ。

まさに。生まれた瞬間は双子っぽかったけど、育つ過程で片方はご先祖様の性格を強く受け継いで、もう一方とは別の道を歩いていった、っていうのが正確なところだと思う。

整理すると、名前で言えば兄弟、ディファレンス・エンジンの瞬間は双子、でも遡るとヴェルヌっていう先祖がいて、そっちの気質を受け継いで今の形になった。一言で言えないくらい、ちゃんと歴史があるんだね。

そういうこと(笑)だから「兄弟」も「双子」も、正確に言えばどっちも一面でしかない。ちなみに小ネタだけど、この『ディファレンス・エンジン』の由来になった階差機関を考えたバベッジって、実は国際スチームパンクデー、6月14日の由来にもなってる人なんだ。そのへんはまた別の機会に話そう。

なんとなく別ジャンルだと思ってたけど、こんなに深いところで繋がってたんだね。先祖は同じじゃないのに、名前は兄弟で、一瞬だけ双子みたいになって、そこからまた別の道を歩いていった。

そうなんだよ。輪郭がはっきりすると、対比としてのスチームパンクもより鮮明に見えてくる。片方を知ることが、もう片方を深く知ることにつながるんだよね。実はこの後、日本のサイバーパンクを代表する作品を一本しっかり掘り下げる回を控えてるから、今日の話を頭に入れておいてもらえると、次はもっと楽しめると思う。

予習完了ってことか。楽しみにしとく。
よくある質問
Q. サイバーパンクとは何ですか?
A.高度に発達した技術社会を舞台にしながら、そこで暮らす人々の生活は決して豊かではない、というギャップを描くSFのジャンルです。「ハイテク・ローライフ」という言葉で表現されることが多く、企業の支配や電脳空間、身体の機械化などがよく描かれます。
Q. サイバーパンクの代表作にはどんなものがありますか?
A.海外では映画『ブレードランナー』(1982年)や小説『ニューロマンサー』(1984年)が源流とされます。日本では大友克洋の『AKIRA』が世界的に大きな影響を与えた作品として知られています。
Q. サイバーパンクとスチームパンクの違いは何ですか?
A.どちらも「機械と人間の関係」を描く点は共通していますが、スチームパンクは機械を装飾のように「見せる」方向、サイバーパンクは機械と身体の境界を「溶かす」方向へ向かう点が対照的です。技術が別の形で進化した「もう一つの世界」を想像する根っこは共通しており、その舞台を未来に置くか過去に置くかの違いとも言えます。
Q. スチームパンクとサイバーパンクは、どちらが先に生まれたのですか?
A.世界観の下地で言えば、スチームパンクの方が古い起源を持ちます。19世紀のジュール・ヴェルヌやH・G・ウェルズの作品(当時は「サイエンティフィック・ロマンス」と呼ばれた)が源流とされ、広い意味でスチームパンクの祖とされています。一方、ジャンルの「名前」としてはサイバーパンクが先で、1980年代前半に定着しました。「スチームパンク」という言葉自体はその4年ほど後の1987年、作家K・W・ジーターが「サイバーパンク」をもじって作った造語です。両者は小説『ディファレンス・エンジン』(1990年)で一度合流しますが、その後スチームパンクは管理社会的なテーマよりも、ヴェルヌの時代が持っていた冒険心を前面に出す方向へ進んでいきました。
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文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
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