服の話をする前に、輪郭を見てほしい──「シルエット」だけでキャラクターはここまで伝わる
- 日本スチームパンク協会

- 2025年12月24日
- 読了時間: 10分
更新日:5 日前

喫茶蒸談へようこそ
スチームパンクのファッションというと歯車やゴーグルといった装飾が思い浮かびがちです
でも、街で人を見たとき最初に感じ取っているのはもっと単純なものかもしれません
遠くから見た立ち姿、帽子と肩のライン、全体の輪郭。
今回の対談では色や素材の話はいったん置いて、「シルエット」だけを手がかりにファッションから見えてくるキャラクターの印象を見ていきます
気軽に「自分ならどう感じるか」そんな目線で眺めてみてください
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
シルエットってとっても重要

ねえツダさん、スチームパンクの服装って、細かい装飾ばっかり語られがちだけどさ

うん

実は一番最初に目に入ってるのって、歯車とかゴーグルじゃなくて「シルエット」なんじゃないかなって思って

ああ、それはかなり核心かもしれないね

たとえば、遠くから人影を見たときに、「あ、あの人なんかクラシックだな」とか「職人っぽいな」とか、先に感じるものってあるよね

あるある。で、その第一印象のほとんどは、服の“輪郭”で決まってる。だから今回は色とか素材とかディテールの前に、「シルエットだけ」を見てみようと思う

なるほど、影だけで考える感じ?

そう。顔も装飾も見えない状態で、「この人、何者っぽい?」って考える
キャラクターデザインにおいてシルエットは最初の自己紹介です。
色や表情が見えなくても輪郭だけで「どんな人物か」が伝わる。それが良いキャラクターの条件のひとつです。
ファッションも同じで装飾を足す前から方向性はなんとなく伝わっています。
シルエットだけで見てみよう


じゃあ今回は、まずこのシルエットから見てみよう。顔も服のディテールもなし。帽子と肩から下の輪郭だけ

うん。この時点で、もう印象がだいぶ違う

一見すると、全部似たような人影なんだけどね。でも、帽子から肩にかけてのラインを見ると性格まで違って見えてくるのが面白い
角×角 シルエット1

まず1番。帽子も角ばっていて、肩も角ばってる

なんかもう、硬いよね。カチッとしてる

うん。規律とか、形式とか、「ちゃんと決まってる人」って感じがする融通はきかなそうだけど、
任せた仕事はきっちりやる。そんな印象
角×丸 シルエット2

次は2番。帽子は角ばってるけど、肩は丸い

これ、1番より一気に人間味が出る

真面目そうなんだけど、話しかけたら意外と優しそう

そう。ルールは守るけど、現場では融通きかせてくれるタイプ
丸×角 シルエット3

3番は逆だね。帽子は丸いけど、肩が角ばってる

これはちょっと不思議な感じ第一印象は柔らかいのに、近づくと「芯が硬い」みたいな

見た目より頑固?

そうそう。穏やかそうに見えて、自分の考えは曲げないタイプ
丸×丸 シルエット4

最後は4番。帽子も肩も丸い

一番とっつきやすいね

安心感ある。敵に回したくないというより、そもそも敵がいなさそう

場を和ませる人。調整役とか、聞き役とか

面白いのはさ、まだ服の話全然してないのに性格の話まで行っちゃってるところだよね

シルエットって、情報量が少ない分印象がダイレクトに届く。スチームパンクの服装ってつい装飾に目が行きがちだけど、その前に「どういう輪郭で立ってるか」がもうキャラクターを作ってる
直線的なシルエットは、役割が前に出る


じゃあ、ここからはこの画像のシルエットを、もう少し丁寧に見ていこう

うん。さっきのは「印象の違い」を見る回だったけど、これは一体を分解して読む感じだね

まずパッと見て思うのは、全体がかなり直線的

そう。帽子から肩、胴体、足元まで、ほとんど曲線がない直線が多いシルエットって、それだけで感情を表に出さなそうに見える

理性的、というか、仕事モードが常にオンな感じ

次に注目したいのが肩。ここ、しっかり張ってる

肩幅が強調されてるね

肩が張っていると、胸を張って立っている印象になる

自信満々というより、「この場にいる理由がはっきりしてる人」って感じがする

そうそう。自分の役割を理解していてそれを崩さない人

あと、意外と大事なのが腰の位置かな

このシルエット、腰が高く見える。腰が高いと動きが軽そうに感じる

じっと構えてるというより、すぐ動ける人っぽい

指示を待つより、「次、何しましょうか?」って言いそうだね

ここまでくると、性格もなんとなく見えてくる

礼儀正しい。感情をあまり前に出さない。でも、冷たいわけじゃない。
人と接するのが仕事だと分かってるタイプ

ああ……ホテルマンっぽい

このシルエットが似合うのは、ホテルマン、フロアマネージャー、美術館の案内係、舞台の進行スタッフ、駅員みたいな感じかな

全部「場をスムーズに回す人」だ。逆に、あんまり合わなさそうなのは?

農家、鍛冶屋、工場作業員、消防士

体を使う仕事だけど、もっと丸みとか、重心の低さが欲しい感じだね

ここで面白いのは、まだ服の素材も色も、スチームパンク的な装飾も一切入れてないこと

帽子と肩と腰だけで、ここまで伝わるんだね

シルエットって、それだけでキャラクターを語れる

スチームパンクかどうか以前に、「どういう人に見えるか」なんだ
ボックス感が強いと、場を支配する存在になる


じゃあ次は、このシルエット。さっきのより、さらに箱っぽいね

全体のボリュームが、ほぼ一直線

縦に長いというより、下に重たい感じがする

それ、かなり重要。このシルエット、重心が低い

重心が低いと動きは少なそうに見える

アクティブというより、その場にいる感じ

積極的に動く人じゃなくて、必要なときだけ動く人

しかも、その「必要」が本人の判断じゃなくて、状況とか役割から来てそう

この人、装飾も感情もあんまり外に出てないよね

うん。シルエットがすごく単純で、単純な形って個性を削ぎ落としてる印象になる

自分を主張しない感じ

無口、もしくは必要最低限しか喋らない

もし動くとしたら、どんな動き方しそう?

速くはないね、でも「必要だから動く」感じ

感情で動く人じゃない

判断が先にあって、動きは結果

このシルエット、何もしてなくても存在感あるね

それは、体積の問題もある。横に広がらない代わりに「縦の塊」として立ってる

立ってるだけで、場の空気が変わりそう

このシルエットが似合うのは、伯爵、銀行の頭取、監督官って感じかな

ああ、納得

あとは、金庫番、館の主

全部、「守る側」「管理する側」だね。逆に合わないのは?

さっきと同じで農家、鍛冶屋、工場作業員、消防士

動きが多くて、感情や勢いが外に出る仕事だね
丸みと下半身の広がりは、郊外の空気をつくる


じゃあ次は、このシルエット。さっきまでと比べると、いきなり柔らかくなったね

うん。まず全体に丸みがある

帽子も肩も、カクッとしてない

どこか一箇所だけじゃなくて、全体的に角が取れてる感じだね。丸みのあるシルエットってそれだけで警戒心を下げる

近づきやすい感じがする、さっきの「箱」タイプが「そこにいるだけで圧」だったとしたら、これは「自然にそこにいる」感じ

場を支配するというより、場に溶け込むタイプだね

この人、よく歩きそう

重心がやや低めで安定してるけど、止まってる感じがしない。必要があれば迷わず歩いて行く

アクティブだけど、忙しそうではない。あと、下が広いよね

そこが一番の特徴かもしれない。腰から下にボリュームがあると安定して見える

都会的というより郊外とか田園のイメージ

このシルエットは管理する人というより見守る人

前に出て指示するというより、様子を見てる感じだね

温厚そうで話しかければ、ちゃんと立ち止まって聞いてくれそう

じゃあ、似合うのは?

カントリージェントルマン、荘園主。あとは伯爵家の三男、農場監督って感じ

現場を知ってるけど最前線ではない人たちだ、逆に合わないのは?

銀行家、陸軍将校、刑務所長、法廷弁護士

緊張感とか、上下関係が前に出る仕事だね
角のないシルエットは、黙って世界を支える


じゃあ、このシルエットが最後だね。ここまでの中でいちばん静かかもしれない

まず全体に丸みがあって、角がほとんどない

主張が少ない感じがする

そう。シルエット自体が、前に出てこない。でも消えてるわけじゃなくてちゃんと「いる」

目立たないけどいなくなると困る人、って感じ。でも感情はあまり表に出なさそうだね

外に出さないだけで中には溜めていそう、怒鳴ったりはしないけど黙って耐えるタイプ

寡黙、って言葉がしっくりくる

このシルエットで一番大事なのはやっぱり重心の低さ

下半身に重さが集まってる

地面にしっかり立ってる、長時間同じ場所で作業することに向いてる感じ

この人命令する側には見えないね

見えない。むしろ従う側、でもそれは弱さじゃなくて役割を受け入れてる強さ

淡々と仕事を続ける人

このシルエットが似合うのは、郵便配達人、工場労働者、大工あとは、
宿屋の番人、洗濯係って感じかな

日常を回してる人たちだ、逆に合わないのは?

警察官、銀行家、監督官、将校

現場を知ってるけど最前線ではない人たちだ、逆に合わないのは?

銀行家、陸軍将校、刑務所長、法廷弁護士

前に立って指示する役割だね
シルエットだけでも、キャラクターは成り立つ

こうやって考えてみると、シルエットだけでだいぶキャラクターが立つよね

立つね。装飾も色もなくても「どんな人か」はもう伝わってくる

しかもこれ特別な衣装の話じゃなくて輪郭の話なんだよね

だからこそ普段のファッションにもそのまま応用できる。たとえばドロップショルダーのジャケットに
ボーラーハットを合わせるとする

一気に雰囲気変わるよね

肩が落ちることで直線が減って印象が柔らかくなる。しかもそのボーラーハット自体も実は形にかなり差がある

丸いのもあれば、意外と角ばってるのもあるよね

海外のボーラーハットなんかは、思ったより丸みが少ないものも多い

同じボーラーって括りなのに、「柔らかい人」にも
「きっちりした人」にも見える


じゃあ、ここで最後にこのシルエットたちを見てみよう

1番はロリータファッションでもよく見るシルエットだね

ウエストが絞られて下が広がる。可愛さや非日常感が前に出る形

2番と3番は、そこから少しずつ重さや落ち着きが足されていく

4番はもう、マントを羽織ってるみたい

存在感がすごいよね

5番になると、急に和服っぽく見えてくるね

直線が多くて前に出ない
最後に

色々話してきたけど正解を決めたいわけじゃなくてさ

うん

この並びを見て「自分はどう感じるか」それを一回考えてみてほしい

たぶん感じ方は人によって少しずつ違う

でも「何も考えずに着てた服」が実はちゃんと印象を作ってたってことには気づけると思う

スチームパンクっぽいかどうか以前にまずは「どう見えるか」

キャラクターは歯車をつける前にもうシルエットで始まってるんだね

だから次に服を選ぶときは色や装飾の前に輪郭をちょっとだけ意識してみてほしい

それだけでいつもの服が少し違って見えるかもしれないね
あわせて読む
スチームパンクの「形」ではなく「考え方」から知りたい人向けに、『蒸気の力、機械の美』 という本も書いています。
今回の話が少し面白かったら、その続きとしてどうぞ。

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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