「歯車を貼るのが楽しい!」その先へ。もっと作品に愛着がわく、スチームパンクデザインのコツ
- 日本スチームパンク協会

- 2 日前
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更新日:1 日前

喫茶蒸談へようこそ
歯車をつけて、ゴーグルをつけて、真鍮色に塗る。 スチームパンクを始めたばかりの頃、あのワクワク感は本当に特別ですよね。
でも、しばらく続けていると「あれ、なんとなく自分の作品が他の誰かと似てきてしまったかも?」と感じる瞬間がくることはありませんか?
実はそれ、誰もが通る大切なステップ。 今回は、「歯車ペタペタ」のその先にある、ちょっと面白い世界のお話。
スチームパンクの核心にある「機能の表出」という考え方をヒントに、あなたの作品にもっと「自分だけの物語」を宿す方法を、一緒に掘り下げてみませんか?
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
みんな最初は歯車を貼る


スチームパンクを始めるとき、最初に何をやった?

歯車とゴーグルを足せばいいのかなって。とりあえず真鍮色にしてみたり。

それ、完全に正解の入り口だよ。歯車とゴーグルと真鍮色、この三点セットで「スチームパンクっぽく見える」のは本当のことで、まずそこから入るのが一番自然だと思う。

でも続けてると、なんか全部似てきちゃうんだよね。自分のも、他の人のも。

「歯車ペタペタ問題」って勝手に呼んでるんだけど、長くやってる人はみんな一度はそこを通る。入り口として正しいんだけど、そこで止まると少しずつ息が詰まってくる。

次に何をすればいいかわからなくて、とりあえず歯車を増やしてみるとか。

そう(笑)。そこで「素材をもっと足す」じゃなくて、「なぜスチームパンクがそう見えるのか」という理屈の方に一歩踏み込むと、世界がかなり広がる。
「機能が見える」ということ

理屈って、どういうこと?

スチームパンクのデザイン哲学の核心は「機能の表出」にある。通常は内部に隠される仕組み、歯車、クランク、配管を意図的に露出させることで、エネルギーがどこから生まれてどこへ伝わるかという「動力の系譜」を視覚化する。

動いてる様子が想像できるかどうか、ってこと?

そう。静止してても「今にも動き出しそうな生命感」があるかどうか。歯車ペタペタの段階で気づきにくいのが、歯車が何かと噛み合っていない、どこにも力を伝えていないように見えると、それが「歯車の絵」になってしまうってこと。

あー、言われてみると。歯車がたくさんついてるのに全部バラバラに浮いてる感じのやつ、確かにある。

そこに気づいた瞬間が、たぶんスチームパンクの面白いところに入っていく分岐点。「飾りとしての歯車」から「機能を表出している歯車」へ。見た目は似ていても、届き方がまったく変わってくる。
なぜ今、「見える機械」が重要なのか

でも、スチームパンクが生まれた時代から考えると、だいぶ状況が変わってきてるよね。

それがすごく重要な話で。スチームパンクって最初は「産業革命の技術が別の方向に進んでいたら」というフィクションの文脈から生まれた。でも今、その「機能の表出」という要素だけを取り出してみると、全然違う意味を帯びてくる。

どう違ってくるの?

現代の技術って、どんどん「見えなく」なってるじゃない。スマートフォンの中に何があるか、直感的にはわからない。サーバーの向こうで何が起きてるか、確かめる術がない。で、AIが出てきてからは、それが一気に加速してる。

確かに。「なぜその答えが出たのか」がブラックボックスになってる。

しかも判断が速くなればなるほど、人間が「その過程を追う」機会が削られていく。気づいたら結果だけが手元にある、という状態になっていく。

それ、なんか怖いな

スチームパンクが今これだけ支持されてる理由の一つに、たぶんこの「見えないことへの不安」への反応がある。意識的かどうかはともかく。
「観察者」になるということ

でも、デザインとしてのスチームパンクが「AIへの抵抗」になるっていうのは、ちょっと飛躍してない?

直接的な抵抗じゃなくて「感覚の維持」の話だと思ってる。

感覚の維持?

機能が見えるものに触れることで、見る人は「消費者」から「観察者」に変わる。歯車が噛み合う構造を目で追うとき、人間はその機械の理(ことわり)を理解しようとする。複雑なマイクロチップと違って、歯車やバルブは人間のスケールで追える「知の象徴」として機能する。

「なぜ動くのか」を自分で考えようとする、ってこと?

そう、それこそ、AIが出力した結果をそのまま受け取り続ける状態に対して、人間が保っていられる感覚に近いと思う。「なぜそうなるのか」を問い続ける回路。

スチームパンクのデザインに囲まれることが、その回路の訓練になるってことか。

大げさに聞こえるかもしれないけど、美学って環境として機能するんだよ。何を見て、何に囲まれて生きるかは、思考の型を作る。
「実存」としての機能表出

「実存」って言葉を使いたくなるのはどのへんから?

AIが生成したものって、プロセスが抜き取られてるじゃない? 結果だけがある。でも手で作られたもの、機能が見えるものは、「どうやってここに至ったか」がかたちとして残る。

過程が見える、ってことね。

それって「この物体は、ここに存在している理由がある」ということと同じで。スチームパンクのデザインが持つ「物語の凝縮」使い込まれた痕、修理の跡、時間の堆積は全部、その物体がここに至るまでのプロセスを体に刻んでいる。

パーツ一つひとつが「私はこういう経緯でここにある」って言ってる感じ。

うん。で、AIが「プロセスのない結果」を大量に生成する時代になったとき、「プロセスを持つもの」の価値は逆説的に上がっていく。

希少性が変わってくるんだね。

昔は「上手く見えること」が希少だった。でも今は「上手く見えること」はAIに任せられる。だから「この仕事に、ちゃんと人がいた」という痕跡が、デザインの意味の一部になってくる。

それがスチームパンクの「物語の凝縮」とつながってる。

最初からそういう美学を持っていたわけじゃないけど、時代が追いついてきた感じはある。
3つの質感、実際に作るときの軸

じゃあ実際にデザインするとき、どこから考えればいい?

3つで整理してみると。「機能の表出」「素材の重層性」「物語の凝縮」。

機能の表出はわかった。素材の重層性って?

真鍮や鉄の無骨な金属に、経年した革や木材を組み合わせること。冷たい工業製品に、人間の手が触れてきた温もりを加える対比。金属だけだと「機械」になるし、温かい素材だけだと「手工芸」になる。その境界線に立つのがスチームパンク。

物語の凝縮は、さっき言ってた「過程が見える」やつ?

そう。「この機械は長い旅を経てきた」「ここに修理の痕がある」という歴史を、見た目だけで伝えられるかどうか。真鍮の酸化による色むら一つでも、そこに意図があれば物語になる。
立方体から始める練習


頭ではわかったけど、手を動かすとなるとまだぼんやりしてる。

一番シンプルな練習が「立方体の変形」で。シンプルな箱をスチームパンクの遺物に変えていく3ステップがある。

箱から?

まず角や接合部に補強パネルを配して、リベットを打ち込む。「この物体は内部の圧力に耐えている」という構造的な説得力を出す段階。

「丈夫そうに見える」ってことね。

次に、錠前や取っ手をつけて「目的を定義する」。ただの箱じゃなくて「高圧蒸気室を備えた収納ボックス」という道具に変わる瞬間。

名前がつくと変わるんだね。「なんかスチームパンクっぽいもの」じゃなくて「この機械は○○するためのものだ」って。

最後に側面に油圧シリンダーや配管を配置して、エネルギーの循環を表現する。ここで初めて「機能の表出」が完成する。

流れが見える状態にする、か。

この3ステップ「構造の説得力→目的の定義→エネルギーの循環」は、そのままスチームパンクの物語の構造にもなってる。「なぜ丈夫なのか」「何のためにあるのか」「何が流れているのか」この3つに答えられると、デザインに実存が宿る。
「何に使うか」より「なぜここにあるか」


現代のものをスチームパンク化するときはどう考えればいい?

「不可視を可視化する」がキーワード。スマートフォンで言えば、Wi-FiやBluetoothという目に見えない通信を、信号を導く支柱や外部配管として可視化する。指紋センサーをリベット打ちされた重厚なフレームの一部として装飾化する。

「この機能をアナログの目で見える形に変えるとどうなるか」って置き換えか。

そう。その置き換えが「なぜここにあるのか」という問いへの答えになる。ヴンダーカンマーの話で出てきた「何に使うのかよりも、なぜここにあるのか?と問いかけたくなる存在であること」とも根っこが重なってくる。

つながってたんだね。

好奇心を刺激する美学はどれも、その問いを持ってると思う。答えを先に渡さない。見る人が自分で問いに向かいたくなるような構造を作る。

AIが答えを先に渡してくる時代に対して、スチームパンクは「問いを先に置く」美学なんだね。

その言い方、すごくいい。
コラム:「過程」が消えていく時代に
結果が速くなればなるほど、過程が見えなくなる。
AIが生成したものには、プロセスが宿らない。 そこには「なぜそこへ至ったか」の痕跡がない。 あるのは出力だけだ。
スチームパンクの美学が持つ「機能の表出」は、 つくりものがどうやってここに至ったかを、かたちとして残す試みだ。 噛み合う歯車、管を流れる圧力、リベットの打たれた接合部それはすべて、「ここに存在する理由」の証拠として目の前にある。
見る人が消費者にとどまらず、観察者として立てる場所を、 デザインが作り出せるかどうか。
それがこれからの時代に、スチームパンクが問い直している何かかもしれない。
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文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
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