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「歯車を貼るのが楽しい!」その先へ。もっと作品に愛着がわく、スチームパンクデザインのコツ

  • 執筆者の写真: 日本スチームパンク協会
    日本スチームパンク協会
  • 2 日前
  • 読了時間: 10分

更新日:1 日前

喫茶蒸談第62回タイトルバナー 知れば知るほどスチームパンクが楽しくなると書かれている

喫茶蒸談へようこそ


歯車をつけて、ゴーグルをつけて、真鍮色に塗る。 スチームパンクを始めたばかりの頃、あのワクワク感は本当に特別ですよね。


でも、しばらく続けていると「あれ、なんとなく自分の作品が他の誰かと似てきてしまったかも?」と感じる瞬間がくることはありませんか?


実はそれ、誰もが通る大切なステップ。 今回は、「歯車ペタペタ」のその先にある、ちょっと面白い世界のお話。


スチームパンクの核心にある「機能の表出」という考え方をヒントに、あなたの作品にもっと「自分だけの物語」を宿す方法を、一緒に掘り下げてみませんか?



■この対談に登場するふたり


MaRyの発言アイコン

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。


ツダイサオの発言アイコン

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。


みんな最初は歯車を貼る


白背景にランダムに配置された、様々な形状とサイズの真鍮色(ゴールド)の歯車パーツ。

ツダイサオの発言アイコン

スチームパンクを始めるとき、最初に何をやった?


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歯車とゴーグルを足せばいいのかなって。とりあえず真鍮色にしてみたり。


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それ、完全に正解の入り口だよ。歯車とゴーグルと真鍮色、この三点セットで「スチームパンクっぽく見える」のは本当のことで、まずそこから入るのが一番自然だと思う。


MaRyの発言アイコン

でも続けてると、なんか全部似てきちゃうんだよね。自分のも、他の人のも。


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「歯車ペタペタ問題」って勝手に呼んでるんだけど、長くやってる人はみんな一度はそこを通る。入り口として正しいんだけど、そこで止まると少しずつ息が詰まってくる。


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次に何をすればいいかわからなくて、とりあえず歯車を増やしてみるとか。


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そう(笑)。そこで「素材をもっと足す」じゃなくて、「なぜスチームパンクがそう見えるのか」という理屈の方に一歩踏み込むと、世界がかなり広がる。


「機能が見える」ということ


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理屈って、どういうこと?


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スチームパンクのデザイン哲学の核心は「機能の表出」にある。通常は内部に隠される仕組み、歯車、クランク、配管を意図的に露出させることで、エネルギーがどこから生まれてどこへ伝わるかという「動力の系譜」を視覚化する。


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動いてる様子が想像できるかどうか、ってこと?


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そう。静止してても「今にも動き出しそうな生命感」があるかどうか。歯車ペタペタの段階で気づきにくいのが、歯車が何かと噛み合っていない、どこにも力を伝えていないように見えると、それが「歯車の絵」になってしまうってこと。


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あー、言われてみると。歯車がたくさんついてるのに全部バラバラに浮いてる感じのやつ、確かにある。


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そこに気づいた瞬間が、たぶんスチームパンクの面白いところに入っていく分岐点。「飾りとしての歯車」から「機能を表出している歯車」へ。見た目は似ていても、届き方がまったく変わってくる。


なぜ今、「見える機械」が重要なのか


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でも、スチームパンクが生まれた時代から考えると、だいぶ状況が変わってきてるよね。


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それがすごく重要な話で。スチームパンクって最初は「産業革命の技術が別の方向に進んでいたら」というフィクションの文脈から生まれた。でも今、その「機能の表出」という要素だけを取り出してみると、全然違う意味を帯びてくる。


MaRyの発言アイコン

どう違ってくるの?


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現代の技術って、どんどん「見えなく」なってるじゃない。スマートフォンの中に何があるか、直感的にはわからない。サーバーの向こうで何が起きてるか、確かめる術がない。で、AIが出てきてからは、それが一気に加速してる。


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確かに。「なぜその答えが出たのか」がブラックボックスになってる。


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しかも判断が速くなればなるほど、人間が「その過程を追う」機会が削られていく。気づいたら結果だけが手元にある、という状態になっていく。


MaRyの発言アイコン

それ、なんか怖いな


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スチームパンクが今これだけ支持されてる理由の一つに、たぶんこの「見えないことへの不安」への反応がある。意識的かどうかはともかく。


「観察者」になるということ


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でも、デザインとしてのスチームパンクが「AIへの抵抗」になるっていうのは、ちょっと飛躍してない?


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直接的な抵抗じゃなくて「感覚の維持」の話だと思ってる。


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感覚の維持?


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機能が見えるものに触れることで、見る人は「消費者」から「観察者」に変わる。歯車が噛み合う構造を目で追うとき、人間はその機械の理(ことわり)を理解しようとする。複雑なマイクロチップと違って、歯車やバルブは人間のスケールで追える「知の象徴」として機能する。


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「なぜ動くのか」を自分で考えようとする、ってこと?


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そう、それこそ、AIが出力した結果をそのまま受け取り続ける状態に対して、人間が保っていられる感覚に近いと思う。「なぜそうなるのか」を問い続ける回路。


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スチームパンクのデザインに囲まれることが、その回路の訓練になるってことか。


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大げさに聞こえるかもしれないけど、美学って環境として機能するんだよ。何を見て、何に囲まれて生きるかは、思考の型を作る。


「実存」としての機能表出


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「実存」って言葉を使いたくなるのはどのへんから?


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AIが生成したものって、プロセスが抜き取られてるじゃない? 結果だけがある。でも手で作られたもの、機能が見えるものは、「どうやってここに至ったか」がかたちとして残る。


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過程が見える、ってことね。


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それって「この物体は、ここに存在している理由がある」ということと同じで。スチームパンクのデザインが持つ「物語の凝縮」使い込まれた痕、修理の跡、時間の堆積は全部、その物体がここに至るまでのプロセスを体に刻んでいる。


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パーツ一つひとつが「私はこういう経緯でここにある」って言ってる感じ。


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うん。で、AIが「プロセスのない結果」を大量に生成する時代になったとき、「プロセスを持つもの」の価値は逆説的に上がっていく。


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希少性が変わってくるんだね。


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昔は「上手く見えること」が希少だった。でも今は「上手く見えること」はAIに任せられる。だから「この仕事に、ちゃんと人がいた」という痕跡が、デザインの意味の一部になってくる。


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それがスチームパンクの「物語の凝縮」とつながってる。


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最初からそういう美学を持っていたわけじゃないけど、時代が追いついてきた感じはある。


3つの質感、実際に作るときの軸


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じゃあ実際にデザインするとき、どこから考えればいい?


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3つで整理してみると。「機能の表出」「素材の重層性」「物語の凝縮」。


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機能の表出はわかった。素材の重層性って?


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真鍮や鉄の無骨な金属に、経年した革や木材を組み合わせること。冷たい工業製品に、人間の手が触れてきた温もりを加える対比。金属だけだと「機械」になるし、温かい素材だけだと「手工芸」になる。その境界線に立つのがスチームパンク。


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物語の凝縮は、さっき言ってた「過程が見える」やつ?


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そう。「この機械は長い旅を経てきた」「ここに修理の痕がある」という歴史を、見た目だけで伝えられるかどうか。真鍮の酸化による色むら一つでも、そこに意図があれば物語になる。


立方体から始める練習


リベット留めの金属フレームと配管が施された、スチームパンク風の赤い収納ボックスのイラスト。立方体の箱の側面に油圧シリンダーや歯車が取り付けられている。
立方体アレンジ例

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頭ではわかったけど、手を動かすとなるとまだぼんやりしてる。


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一番シンプルな練習が「立方体の変形」で。シンプルな箱をスチームパンクの遺物に変えていく3ステップがある。


MaRyの発言アイコン

箱から?


ツダイサオの発言アイコン

まず角や接合部に補強パネルを配して、リベットを打ち込む。「この物体は内部の圧力に耐えている」という構造的な説得力を出す段階。


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「丈夫そうに見える」ってことね。


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次に、錠前や取っ手をつけて「目的を定義する」。ただの箱じゃなくて「高圧蒸気室を備えた収納ボックス」という道具に変わる瞬間。


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名前がつくと変わるんだね。「なんかスチームパンクっぽいもの」じゃなくて「この機械は○○するためのものだ」って。


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最後に側面に油圧シリンダーや配管を配置して、エネルギーの循環を表現する。ここで初めて「機能の表出」が完成する。


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流れが見える状態にする、か。


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この3ステップ「構造の説得力→目的の定義→エネルギーの循環」は、そのままスチームパンクの物語の構造にもなってる。「なぜ丈夫なのか」「何のためにあるのか」「何が流れているのか」この3つに答えられると、デザインに実存が宿る。


「何に使うか」より「なぜここにあるか」


スマートフォンをスチームパンク風に再構築した架空のデバイスのイラスト。レトロな画面、蓄音機のホーン、配管、アナログメーターが複雑に組み合わさったデザイン。
スマホをスチームパンク化

MaRyの発言アイコン

現代のものをスチームパンク化するときはどう考えればいい?


ツダイサオの発言アイコン

「不可視を可視化する」がキーワード。スマートフォンで言えば、Wi-FiやBluetoothという目に見えない通信を、信号を導く支柱や外部配管として可視化する。指紋センサーをリベット打ちされた重厚なフレームの一部として装飾化する。


MaRyの発言アイコン

「この機能をアナログの目で見える形に変えるとどうなるか」って置き換えか。


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そう。その置き換えが「なぜここにあるのか」という問いへの答えになる。ヴンダーカンマーの話で出てきた「何に使うのかよりも、なぜここにあるのか?と問いかけたくなる存在であること」とも根っこが重なってくる。


MaRyの発言アイコン

つながってたんだね。


ツダイサオの発言アイコン

好奇心を刺激する美学はどれも、その問いを持ってると思う。答えを先に渡さない。見る人が自分で問いに向かいたくなるような構造を作る。


MaRyの発言アイコン

AIが答えを先に渡してくる時代に対して、スチームパンクは「問いを先に置く」美学なんだね。


ツダイサオの発言アイコン

その言い方、すごくいい。





コラム:「過程」が消えていく時代に


結果が速くなればなるほど、過程が見えなくなる。


AIが生成したものには、プロセスが宿らない。 そこには「なぜそこへ至ったか」の痕跡がない。 あるのは出力だけだ。


スチームパンクの美学が持つ「機能の表出」は、 つくりものがどうやってここに至ったかを、かたちとして残す試みだ。 噛み合う歯車、管を流れる圧力、リベットの打たれた接合部それはすべて、「ここに存在する理由」の証拠として目の前にある。


見る人が消費者にとどまらず、観察者として立てる場所を、 デザインが作り出せるかどうか。


それがこれからの時代に、スチームパンクが問い直している何かかもしれない。





この記事を読んだら、次はこちらも


「機能の表出」を現実の空間で確かめたい人へ


「機能が見える」とはどういうことか、それを街中でリアルに体験できる場所がある。東京・汐留の日テレ大時計は、剥き出しの歯車、可動する人形、圧力を感じる構造が一つの空間に詰まった、スチームパンクデザインの教科書だ。今回の話の「理屈」を目で確かめるのに、これ以上の場所はない。



「ゴーグルはなぜスチームパンクの象徴なのか」が気になった人へ


歯車と並んでスチームパンクを代表するアイテム、ゴーグル。「なんとなくつける」じゃなく、なぜゴーグルがこの美学の核心に置かれているのかを歴史から掘り下げた一本。「素材の意味」を知ることで、自分のコーディネートが変わってくる。



「デザインの哲学をもっと深く知りたい」人へ


今回の対談のベースになった書籍『蒸気の力、機械の美』の著者を迎えた回。「機能の表出」「素材の重層性」「物語の凝縮」それぞれの概念がどんな考えから生まれたのかを、著者本人の言葉で掘り下げている。デザインの理屈をさらに一段深く知りたいなら、ここが入口になる。



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一般社団法人スチームパンク協会理事ツダイサオのプロフィール画像

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)


スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中

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