【第34回】スチームパンクと言ったらやっぱり時計
- 日本スチームパンク協会

- 10月8日
- 読了時間: 5分

喫茶蒸談へようこそ
時間を知るだけなら、スマホで十分。
それでも、ぜんまいを巻く仕草には、どこか特別な気配がある。
今回のテーマは「時計」。
スチームパンクにとって欠かせない、この小さな機械の話をしよう。
時計とは
時計は、時間の測定と表示を行う装置である。
古代の日時計や水時計を経て、14世紀頃に歯車を用いた機械式時計が登場し、
16世紀には携帯可能な懐中時計が、20世紀には腕時計が広く普及した。
近年ではクォーツ式やスマートウォッチなど電子的な方式が主流となっているが、
機械式時計はその精密な構造と職人的な美しさから、今も多くの人を惹きつけている。
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
腕時計離れとアナログの魅力


最近、腕時計をつける人って減ったよね。

うん、今はスマホで時間が分かるからね。わざわざ腕に巻かなくても、ポケットから取り出せばすぐ確認できる。

でもその代わりに、スマートウォッチをつけてる人は増えた気がする。通知も健康管理もできて、もはや“時計”ってより小さなコンピューターだよね。

そうそう。デジタルが進化すればするほど、“アナログの時計”の魅力が見直されてるのが面白い。

ああ、わかる。スマートウォッチが「便利さ」だとしたら、機械式の時計は「愛でるもの」って感じがする。

まさに。歯車が噛み合って、ぜんまいがほどけて、針が動く。あの仕組みが見えるってだけで、時間そのものが“生きてる”ように感じるんだ。

うん。音もいいよね。「カチ、カチ」って規則正しく響く感じ。デジタルにはない温度がある。

そう。時計って、ただ時間を知るための道具じゃなくて、“動く小さな機械”としての魅力があるんだよ。
時計の歴史は機械の小型化の歴史

時計の歴史って、実は“機械の小型化”の歴史でもあるんだよ。

へえ、小型化?

うん。最初の時計は教会の塔の上にあって、村中に鐘で時間を知らせてた。重りと歯車で動く巨大な装置だったんだ。

ああ、塔時計ってそういう仕組みなんだ。まさに「町の時間」って感じだね。

そう。ところが16世紀にぜんまい式が発明されて、一気に小型化が進む。懐中時計が登場して、“個人の時間”が生まれた。

なるほど、時間が「公共のもの」から「自分のもの」になったわけだ。

そう。懐中時計って、ただ便利だっただけじゃなくて、当時の人にとって“持ち運べる機械”そのものが特別だった。

たしかに。いつでも動く歯車が自分のポケットにあるって、なんかワクワクする。

その後、20世紀になると腕時計が普及して、機械はさらに小さく、精密になっていく。まさに「技術の圧縮」だね。

人が機械を持ち歩くどころか、身につけるようになったんだ。

そう。つまり時計って、“機械が人の生活に溶け込んでいく”象徴でもあるんだよ。
なぜスチームパンクに時計が欠かせないのか

そう考えると、時計ってスチームパンクにぴったりのモチーフだね。

スチームパンクって、機械の“構造が見えること”を大切にしてるでしょ? 時計はまさにそれを凝縮した存在なんだ。

たしかに。小さなケースの中に歯車がいくつも動いてるって、まるで小さな世界をのぞいてるみたい。

ほんの数センチの中に、動力も伝達も制御も詰まってる。あれだけ小さいのに、ちゃんとひとつの仕組みとして完結してるんだ。

なるほど。スチームパンクの服に懐中時計を合わせる人が多いのも、単に“当時っぽい”ってだけじゃないのね。

そうそう。歯車が見える時計を身につけることで、自分の世界にも“機械のリズム”を持ち込める。まるで、時間と一緒に歯車の鼓動を感じるようなものなんだ。

いい表現だね。たしかに、懐中時計を取り出して時間を見るしぐさって、ちょっと儀式的な美しさがある。

そうなんだよ。あの動作そのものが、スチームパンクの世界観に通じてる。効率とか実用性じゃなくて、“動かす意味”を感じる行為なんだ。

たしかに。スマホで時間を見るよりもずっと“時間を扱ってる”感じがする。

まさにそこ。時計は時間を「表示する」だけじゃなく、「演出する」機械なんだ。だからこそスチームパンクの象徴になったんだと思う。
現代における“時間を持つ”ということ

でも、今ってスマホやスマートウォッチがあれば、時計を持たなくても困らないよね。

そうだね。でもそれでも、機械式の時計を選ぶ人がいるのは、“時間を見る”という行為そのものを楽しんでるからだと思う。

スマホの画面をちらっと見るのとは違って、時計って、手首を見るだけで小さな世界が動いてるのを感じられる。

時間って本来は目に見えないものだけど、時計はそれを“かたちにした機械”なんだ。だから、スチームパンクの世界では特別な存在になる。

歯車の中を流れる時間を、手の中で確かめる感覚って、ちょっとロマンがあるね。

そう。便利さとは別のところに、機械を持つ意味があるんだと思う。動いている仕組みを知ることで、時間そのものを「感じる」ことができる。

時計って、時間を知るための道具じゃなくて、“時間と向き合うための機械”なんだね。

だからこそ、スチームパンクの人たちは歯車や時計を身につけるんだと思う。時間を飾るんじゃなくて、“時間と一緒に生きる”っていう感覚に近い。

いいな、それ。じゃあ私も、久しぶりにちゃんとした腕時計をつけてみようかな。

いいね。時間を見るたびに、機械が動く音が聞こえると思うよ。

それ、ちょっとワクワクするね。

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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