【第25回】蒸気の時代にきらめいた電気の夢──ヴィクトリア時代とスチームパンクの交差点
- 日本スチームパンク協会

- 8月6日
- 読了時間: 7分

喫茶蒸談へようこそ
「蒸気」と「歯車」が主役のスチームパンク。その世界観の根底には、実は「電気」の存在が深く関わっているのをご存知でしょうか? 今や当たり前になった電気自動車や無線技術は、ヴィクトリア時代の人々にとって、まるで魔法のように映ったはずです。ランプと馬車が走る街の片隅で、静かに未来の技術が芽吹き始めていた──。今回は、そんな19世紀の「電気の夢」にスポットを当て、スチームパンク文化の奥深さを探っていきます。
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
ヴィクトリア時代に電気自動車が走っていた?


ツダさん、最近読んだ記事で「ヴィクトリア時代にもう電気自動車があった」って見かけたんだけど……ほんと?

うん、ほんとだよ。19世紀末、1880年代から1900年代初頭にかけて、電気で走る乗り物は実際に作られてた。蒸気機関と同じくらい「未来の技術」として、電気は注目されてたんだ。

えっ、電気自動車って最近生まれたものじゃなかったの!? スマホみたいに。

多くの人がそう思ってるけど、実は歴史的には「ガソリン車より静かで扱いやすい」ってことで、都市部ではむしろ電気自動車のほうが人気だった時代もあるんだよ。たとえばアメリカの「ベイカー・エレクトリック」とかね。航続距離は50〜80kmくらいで、女性のドライバーに支持されていた記録もある。

それってつまり、ヴィクトリア時代って、私たちが思ってるよりずっと今っぽかったってこと?

そうそう。電気照明、電話、送電網、トロリーバス、地下鉄の電動化。実は19世紀末には「電気の時代」が静かに始まっていたんだ。ロンドンやパリでは、街灯の一部はすでに電球になっていたし、万国博覧会では電気で動く噴水や展示装置が人々を驚かせてた。

なるほど、それはスチームパンクともつながってくるね。過去を再現したいんじゃなくて、過去の“可能性”を今ここで感じてるというか。
蒸気と電気が共存した時代

なんか、「19世紀=ランプと馬車」のイメージ、崩れてきた(笑)

まあ、間違いではないんだけどね。でもその「馬車と電気自動車がすれ違う」感じこそが、スチームパンクにとってはすごく重要なんだよ。つまり、蒸気と電気が“共存”してた時代。

でもスチームパンクって、「蒸気の世界」じゃないの? 電気が入ってくると、なんか世界観が変わっちゃうような気もするけど

そこが面白いところでね。スチームパンクって、単に「蒸気だけの世界」ってわけじゃないんだ。正確には、「19世紀的な技術観で、未来がどう発展したか」を描く世界。だから、当時の人々にとって最先端だった電気技術も、当然スチームパンク的な想像の材料になる。

たしかに、ヴィクトリア時代の人が電気の力を「魔法」みたいに見てたって話も聞いたことある。触らずに動く機械とか、光る球とか、不思議だったろうな…。
「魔法」として映った電気の力

その感覚、大事だよね。実際、電気を扱う科学者はどこか「魔術師」みたいに見えていたんだ。マイケル・ファラデーの講義は、観客が息を呑むような“ショー”でもあったし。

電気って言えば、やっぱりニコラ・テスラも外せないよね?

ニコラ・テスラはもう完全に“魔法使い”枠だよね。彼が発明した高周波電流とかテスラコイルって、見た目からしてもうSFかファンタジー。雷みたいな放電を操る姿は、19世紀末の科学者というより、空想世界の魔導師に近い。

しかも彼、無線で電力を飛ばそうとしてたんでしょ? 今でも未解決っぽい夢を見てたっていうのが、またロマンあるなぁ。

そう、夢と現実のあいだを行き来してた人。テスラの実験装置とか研究所のビジュアルって、スチームパンクなアートにもよく引用されるよね。真鍮の円盤、銅線が巻かれた巨大なコイル、ガラス管から迸る光——あれは完全に「見せる科学」だよ。

そういえば、今の電気自動車の会社にも「テスラ」って名前のところがあるよね。やっぱり、ニコラ・テスラから来てるの?

そうだよ。イーロン・マスクの会社として有名なテスラは、ニコラ・テスラが交流モーターを発明した功績に敬意を表して名付けられたんだ。19世紀の「電気自動車」の夢を、現代の技術でさらに発展させようとしている、まさに夢の続きって感じだね。

へえ、昔の科学者の名前が、現代の最先端技術に使われてるなんて、なんだか感動するなぁ。
ファンタジーの世界と繋がる技術

最近のファンタジー作品でも、そういう「魔法のような技術」がよく出てくるよね。『ハリー・ポッター』のゴブリンが作る装置とか、魔法と機械の境界があいまいになってるやつ。

あるある。ドワーフの鍛冶場で作られる歯車仕掛けの鍵とか、ゴブリンの金庫のセキュリティ機構なんか、まさに“スチームパンク的な魔法技術”。ヴィクトリア時代の電気も、現実と幻想の境界を曖昧にしていたと思うよ。

つまり、あの時代の電気技術って、現代の感覚で言えば「ファンタジーに登場する技術文明」に近いってことかも?

まさにそれ。人間の手で作られた、でも理屈では完全に説明できない“ロマンのある技術”。だからこそ、スチームパンクという空想世界でも自然に溶け込んでるんだよ。

うーん、電気って、ちょっと未来っぽくて、でもレトロでもあって。スチームパンクの世界観にぴったりなんだね。

そう。蒸気も電気も、「人がエネルギーを操れるようになった時代の象徴」。そのワクワク感がスチームパンクの根底にあるんだと思うよ。

……うん。蒸気も電気も、人がエネルギーを操れるようになった時代の象徴だったんだね。そう思うと、スチームパンクって本当に奥が深いなぁ。

そうだね。見慣れた技術の裏に隠されたロマンや夢を覗いてみると、スチームパンクの世界はもっと面白くなる。 この対談を読んで「ヴィクトリア時代の電気って面白い!」と感じてくれたら、ぜひ他の記事も読んでみてほしい。それではまた次回お楽しみに。
コラム:電気仕掛けの空想
ヴィクトリア時代の人々にとって、電気は「見えない力」だった。 けれど確かに、明かりを灯し、機械を動かす不思議なエネルギー。それは、古くから語り継がれてきた魔法や精霊の力と、紙一重だったのかもしれない。
科学が発展した時代でありながら、未解明な部分が多かった電気は、人々の想像力を掻き立て、「もしこの力がもっと発展したら?」という空想の種を蒔いた。
スチームパンクは、そんな時代の空気感を現代に蘇らせる試みだ。 蒸気機関という目に見える力強さと、電気という神秘的な力が共存する世界。そこでは、歯車仕掛けの精緻な美しさと、稲妻のような放電が共鳴し、独特のレトロフューチャーな景観が生まれる。
そして、忘れてはならないのは、ヴィクトリア朝の人々が夢見た「電気の力」が、現代社会の基盤となっている事実だ。 ニコラ・テスラの交流電流のアイデアは、現代の電力網を支え、イーロン・マスク率いるテスラ社は、かつて夢物語だった電気自動車を現実のものとした。ヴィクトリア時代の空想は、時を超えて現代に息づいているのだ。
私たちは、このコラムで描かれたような、過去の人々の夢と、現代の科学技術の進歩、そして未来への想像力を繋ぐ旅を、スチームパンクというレンズを通して楽しんでいる。
スチームパンクとは、単なる懐古趣味ではない。それは、「見えない力」に胸を躍らせた人々のロマンを、現代に再び呼び起こすための装置。
そう、帽子が役割を変えるように、スチームパンクという世界観そのものが、私たちを過去の夢へと「変身」させてくれるのかもしれない。
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歯車の回る音が聞こえたら、またここでお会いしましょう。

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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