【第24回】心揺さぶる機械美の世界へ:『蒸気の力、機械の美』著者と巡るスチームパンクの奥深さ
- 日本スチームパンク協会
- 7月30日
- 読了時間: 8分
更新日:8月1日

喫茶『蒸談』へようこそ
蒸気の向こうに、ふと顔を出すのは、あのラッコ
……ではなくスチームパンク協会の本、『蒸気の力、機械の美』
歯車のきらめき、蒸気の匂い、そして“機械が楽しかった時代”の記憶。
スチームパンクを語るとき、どこから始めたらいいか。
そんな迷いに、静かに寄り添ってくれる一冊です。
今日はその本をめくりながら、蒸気と記憶を少し旅してみましょう。
『蒸気の力機械の美「スチームパンクデザイン入門」』とは
『蒸気の力機械の美「スチームパンクデザイン入門」』は、ツダイサオが執筆し、日本スチームパンク協会によって2025年3月9日に初版が発行された、「スチームパンクデザイン」を深掘りする解説書です。本書は、19世紀のヴィクトリア朝時代や産業革命の技術を土台にしつつ、未来的な想像力とファンタジーが融合したスチームパンクの世界観を、初心者にも分かりやすい形で紹介することを目的としています
■この対談に登場するふたり

モクゾウ:のんびりだけどメカに詳しいスチームパンクなラッコ。話の途中でも毛づくろいを始めるクセがあり、感情の起伏がぬるっと伝わってくる愛嬌ある存在。ツダイサオとの対談では、読者目線に近い立場から素朴な疑問を投げかけたり、蒸気の香りを感じさせるような言葉で語り合いにゆるさを添える。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談では“解説役”として登場することが多い。
◆蒸気の力、機械の美——ってどんな本なのですぞ?◆


ツダさんの本、ちゃんと読んだのですぞ! タイトルからしてモクモクしたのです、「蒸気の力、機械の美」…もうそれだけで毛並みが逆立つのです!

おお、それは嬉しいな。どこから読んだ?

ええと、最初から順番に…いや、途中で気になるところから読んでしまったのです。たとえば、工場の話とか…あの「機械が楽しかった時代」っていうのが、なんだか懐かしいような、でも見たことないような不思議な気持ちになるのですぞ。

うん、それは僕もこの本で一番伝えたかったところかもしれない。「便利」とか「速い」じゃない機械のあり方だね。

ふむふむ…つまり、今の機械は“見えない”ところで頑張ってるのですけど、昔の機械は「ほら、ここが回ってる!」って、働きっぷりを自分で見せてくるのですな?

そうそう。だからこそ、人はそこに“意味”とか“生き物みたいな魅力”を感じる。「機能が見えるデザイン」の概念だね。スチームパンクデザインの象徴的な魅力の一つは、『機械の仕組みそのものを見せる美学』にあるんだ。通常隠されるはずの歯車、クランク、バルブ、配管といったメカニズムが大胆に露出して、装飾の一部になっている。動力の流れや仕組みが視覚的に表現されることで、機械が「生きている」かのような躍動感を生み出すんだよ。

むむ! たとえば、古い蒸気機関車なのですか? リベットで固定された鉄製の外殻、噴き出す白い蒸気、連動するクランクシャフトの動き…あれらは単なる動力装置じゃないのですな!

その通り。あれは見てるだけでその力強さや機能美に感動を覚える、まさに『動きが語る芸術』だよ。そういうデザインは、仕組みを理解する楽しさや、技術そのものへの尊敬をもたらしてくれる。ある種の探究心をくすぐる体験なんだ。

なるほどなのです! ぼく、宮崎駿監督の作品も大好きなのですけど、あれもまさしくそういう機械がいっぱい出てくるのですな!

よく気づいたね! 宮崎駿監督は、かつて『天空の城ラピュタ』の企画原案で「機械がまだ機械としての楽しさを持っていた時代」という言葉を残しているんだ。劇中に登場する飛行船タイガーモス号なんかは、ディテールまで描き込まれた機械構造や、蒸気を吐き出し、歯車が精密に動く様子が、まるで本物の機械を目の前で見ているかのようなリアルさだよね。

ぼく、いつも釘付けになって見てしまうのです! 『ハウルの動く城』もそうなのです!

そうだね。あの動く城もまた、ゴツゴツした外観とぎこちない動き、その中に感じられる優雅さと温かさ。 まるで命を宿したかのように、機械が物語の一部として生きている。スチームパンクの世界では、機械は単なる道具ではなく、物語の中心で輝く存在であり、物語を語る装置としても扱われているんだ。
◆いまのジャンルでは分けきれない楽しさがあるのですぞ◆

あと、この本を読んで思ったのですけど、「スチームパンク」って言葉で全部くくれない楽しさがあるのですな。なんか、もっとモクモクといろんなことが見えてくる世界というか…。

そこはまさに考えていたところだね。ジャンルとして「これはスチームパンク、これは違う」って線を引くと、面白さが狭まっちゃうから。もっと感覚で捉えるというか、「この機械、なんか好き」っていうところから入ってほしいんだ。スチームパンクのデザインってね、「機能の美しさ」「時を経た質感」「飾りとしての美しさ」っていう、主に3つの要素が組み合わさって、見る人の好奇心や想像力を刺激して、独特の世界観を作ってるんだ。特に「細部へのこだわり」がすごく大事で、そこに物語が宿ってるんだよ。古びた懐中時計の針が静かに動く姿とか、アンティーク風のゴーグルについてる小さな望遠鏡みたいなパーツとか、そういう一つ一つが物語を語るようにデザインされてるんだ。

ふむ、「この世界には名前がまだついてないけど、確かにある」って感じなのですな! たとえば、工場の天井から吊るされたクレーンの動きとか、錆びた配管が美しく見えるとか…。

うん、そういう“まだ名前のついていない感覚”も、ぜんぶ含めてこの本で拾いたかったんだ。だからこそ、スチームパンクってDIY文化とすごく相性がいいんだよ。市販のアイテムに歯車やチェーンを加えてカスタムしたり、古い革ジャケットを改造したり…そうやって自分の個性をめいっぱい表現できる。これはまさに「自分だけの物語を作り出す力」でもあるんだ。「こんな道具があったらいいな」「こんな未来があったら楽しいだろうな」っていう想像を形にすることで、自分自身が物語の主人公になれるんだよ。

どこかで誰かが「これはスチームパンクじゃないかもしれない」って思っても、「いや、それでもいいんだよ」と言える本にしたくてね。本書の最終章でも触れてるんだけど、スチームパンクって誰かが見つけてくれるのを待つ「完成品」じゃないんだ。むしろ、みんなの手で新しい一歩を刻む「未完成の地図」みたいなものなんだ。
◆「正解」はなくても、好きなものを見つけるための本◆

あと、モクモクしてしまったのは…真鍮の話なのですぞ! きらびやかじゃないのに、なんだか見とれてしまうのですぞ…ふしぎですなあ。

真鍮はね、銅と亜鉛を混ぜてできた合金なんだ。丈夫で加工もしやすくて、あの温かい金色が魅力だね。そして、モクゾウが言う「きらびやかじゃないのに惹かれる」っていうのは、まさに「エイジングの美しさ」ってやつなんだ。

えいじんぐ?

そう。使い込むほどに風合いを増して、時間が経つとちょっと色が深くなって、落ち着いた雰囲気になっていくんだ。それが真鍮にグッと深みを与えて、手に馴染むような温かみを感じさせるんだよね。この独特の色の変化が、まるで物に命が宿っているかのような、なんとも言えないアンティークな趣を醸し出すんだ。使い込まれた真鍮のアイテムって、その物が歩んできた時間を語るような傷や色の変化が刻まれていて、まるで過去の物語を聞かせてくれるような気がしない?

くぅ…これはモクモクするのです! ぼくの歯車コレクションも、ちょっとくすんだぐらいが一番好きなのですぞ。…ちょっと、ととのえるのです。くしくし(毛づくろい)

はは、それも立派な“美”の感じ方だよ。そうやって「歴史を感じる」ことが、物に愛着を深めさせて、特別な意味を与えてくれる。エイジングの美しさって、スチームパンクの「時を刻む」っていうテーマにもぴったりで、真鍮はその象徴みたいな素材なんだ。
◆締めくくりに◆

なんだか、読んだはずなのに、また最初から読んでみたくなってきたのですぞ。

読んだ人がそう言ってくれるのが、いちばん嬉しいね。本書の「はじめに」でも書いたんだけど、この本はスチームパンクデザインの奥深い魅力を初心者にも分かりやすく紹介して、読者がスチームパンクの世界に触れることで「新たな創造の種が芽生えたり、普段の生活がちょっとワクワクするものになったりする」ことを目指しているんだ。

ふむふむ!

答えを伝えるというよりは、“入り口”をつくるようなつもりで書いたからね。「創造の手法」の章では、スチームパンクらしいデザインを形にするステップを詳しく解説している。リベットや歯車一つひとつに込められた物語を紡ぎ、作品を「ただのオブジェクト」から「魅力的な世界観を持つアート」へと変える手助けができると嬉しいな。

そうそう、入り口のドアがいっぱいある感じなのです。ぼくは今度、真鍮のページからまた入ってみるのですぞ!

そうだね。スチームパンクは、世界中の人々の手によって作られる「終わりなき冒険」のようなものなんだ。過去から学び、未来を描き、今を楽しむための魔法の鍵。この本が、スチームパンクデザインという新たな冒険の扉を開き、特別な作品が生まれるお手伝いができれば、僕も最高に嬉しいよ。

ふむ、ここまで読んでくださったのなら…ぜひサンプル版も見てみてほしいのですぞ! BOOTHで無料配布しておるので、ふらりとのぞいてみるのです~。 「これは…モクモクするやつですぞ…!」なんて思ってもらえたら嬉しいのです!
▼BOOTHにてPDFサンプル版を配布中、ぜひご覧ください▼

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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