蒸気機関はなぜ内燃機関に負けたのか|今も世界を動かしている「見えない蒸気」の話

更新日:8月26日

喫茶蒸談へようこそ
スチームパンクの主役といえば蒸気機関だ。けれど「実際のところ蒸気機関ってどういう仕組みで、なぜ現代では使われなくなったの?」と聞かれると、意外と答えに詰まる。今日は内燃機関との違いを軸に、蒸気機関の強さと弱さ、そして「実は今も現役で世界を動かしている」という話までを追いかけてみる。
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ): 日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの"ワクワクするところ"を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える"解説役"として登場することが多い。
そもそも蒸気機関って、なんで消えちゃったの?


素朴な疑問なんだけど、蒸気機関ってどうして使われなくなっちゃったの?あんなに世界を変えた技術なのに。

いい問いだね。ざっくり言うと、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン、つまり内燃機関に置き換わったからなんだけど。おもしろいのは、蒸気機関が「弱かったから負けた」わけじゃないってこと。

え、そうなの?性能で負けたんじゃないんだ。

むしろ、ある一点においては蒸気機関の方が圧倒的に優れてた。そこを知ると、蒸気機関の見方が変わると思う。
蒸気機関が内燃機関に置き換わったのは、性能で全面的に劣っていたからではない。
まず「外で燃やす」か「中で燃やす」か

そもそも蒸気機関と内燃機関って、何が違うの?名前からしてピンとこない。

シンプルだよ。燃料を燃やす場所が、機関の外か中か。蒸気機関はボイラーで石炭を燃やして、その熱でお湯を沸かして、できた蒸気の力でピストンを動かす。燃焼はシリンダーの外で起きてるから「外燃機関」

やかんのお湯が沸いて、蓋がカタカタ持ち上がるやつの、すごい版?

まさにそれ(笑)水は蒸気になると体積がものすごく膨らむんだけど、その膨張力を動力にしてる。一方の内燃機関は、シリンダーの中に直接ガソリンを送り込んで、そこで爆発させてピストンを押す。燃焼が機関の内側で起きるから「内燃機関」

あー、燃やす場所の違いなんだ。それだけ聞くと、内側で燃やす方が効率よさそうに聞こえるけど。

その直感は正しい。でも、その「効率のよさ」と引き換えに、内燃機関にはひとつ厄介な弱点が生まれるんだ。
蒸気機関は機関の外で燃料を燃やす外燃機関、ガソリン・ディーゼルエンジンは内側で燃やす内燃機関。この違いが、両者の性格を分ける。
蒸気機関車には、なぜクラッチもギアもないのか

ここが今日いちばん話したいところなんだけど。MaRy、自転車のギアってあるでしょ。坂道で軽いギアに落とすやつ。

あるある。あれがないと坂道つらいよね。

じゃあ、なんであれが必要なんだと思う?

うーん、考えたことなかったな。重いギアのままだと踏み込めないから、っていう感覚的な理解しかないかも。

まさにそこなんだ。止まった状態から重いものを動かすときって、大きな力が要る。だから力を増幅する仕組みが必要になる。車のギアも同じ理屈でついてるんだよ。

あー、自転車と同じことを車もやってるんだ。

そう。で、なんでそれが必要かというと、内燃機関には決定的な弱点があってね。止まった状態、つまり回転数ゼロの状態からは、そもそも力を出せないんだ。

え、動いてないと力が出ないの?

うん。エンジンって、シリンダーの中で燃料を爆発させてピストンを押してるでしょ。あれ、吸入、圧縮、燃焼、排気っていうサイクルが回り続けてないと成立しないんだ。だから完全に止まった状態からは、自分の力で動き出せない。最初の一回転だけは、外から誰かに回してもらう必要がある。

あ、それで思い出した。車のキーを回すと「キュルキュル」って音がするやつ、あれって何なの?

まさにそれがセルモーター。エンジンを始動させるためだけに積んである、電気モーターなんだよ。

えっ。エンジンを動かすために、別のモーターが要るの?

そうなんだ。ここ、けっこう象徴的だと思わない?世界を動かしてる内燃機関が、自分ひとりでは目覚められない。バッテリーと電気モーターの助けを借りて、やっと最初の一回転を始められる。

言われてみると、なんだかかわいい弱点だな(笑)。

しかもセルモーターが普及したのは1912年、キャデラックが搭載したのが最初でね。それ以前は、車の前に回り込んでクランク棒を差し込んで、人力でエンジンを回してた。

手回しでエンジンを始動してたんだ。大変そう……。

大変どころか危険でね。コツが要るうえに、エンジンが逆回転してクランク棒に巻き込まれる事故が起きて、大怪我をしたり、亡くなる人までいたんだ。だからセルモーターは当初「女性でも安全に始動できる装備」として売り出されて、それが自動車が一般に広まるきっかけのひとつになった。

エンジンの弱点を克服したから、車が普及したのか。

そういう側面はあると思う。あと補足すると、トルクの出方にも得意な回転数の範囲があって、そこから外れると力が落ちる。だから走り出したあとも、常に美味しい回転域を保つようにギアを切り替えてやる必要がある。

だからクラッチでエンジンを切り離して、空回りさせておくのか。

まさにそれ。エンジンは回したままにしておいて、動き出すときにギアで力を増幅しながら繋いでいく。あの複雑な仕組みは、全部「止まった状態から力を出せない」という弱点を補うためにあるんだ。

エンジンの弱点を、ギアとクラッチで補ってるってことか。

その通り。で、蒸気機関はどうかというと、そもそも設計の考え方が根本から違うんだ。エネルギーを作る場所と、力を取り出す場所が完全に分かれてる。

分かれてる?

ボイラーで石炭を燃やして水を沸かして蒸気を溜めておく。これがエネルギーの貯蔵庫ね。で、その蒸気をシリンダーに送り込んでピストンを押す。この二つが独立してるんだよ。

あ、分けてあるってことは……蒸気を溜めたまま、機械は止まっていられるんだ。

そこに気づいてくれると嬉しい。ボイラーには使う準備の整ったエネルギーが、いつでも待機してる。だから機関が完全に停止していても、バルブを開いた瞬間にフルパワーの蒸気がシリンダーに流れ込んで、ピストンをぐっと押す。助走がいらないんだよ。

あ、じゃあ蒸気機関にはセルモーターみたいなものは要らないんだ。

要らない。自分で目覚められるんだよ。蒸気さえ溜まっていれば、バルブひとつで動き出せる。エンジンを始動するために別のモーターを積んでいる内燃機関とは、そこが決定的に違う。

エネルギーを別のところに貯めておけるから、ゼロからいきなり動ける。

そう。だから変速機がいらない。
分けたことで失ったもの、一体にしたことで得たもの

じゃあ蒸気機関の方が優秀ってこと?

そこが面白いところで、この「分ける」設計には代償もあるんだ。ボイラーと燃料と水を、全部積まなきゃいけない。どうしても大きく重くなる。

あー、たしかに機関車ってあんなに大きいもんね。

逆に内燃機関は、シリンダーの中で燃やすから、エネルギーを作る場所と力を出す場所が同じ。一箇所で完結するぶん、圧倒的にコンパクトにできた。だから車にもバイクにも積める。

たしかに、蒸気機関でバイクを走らせるのは大変そう……あ、でも待って。蒸気機関のバイク、実際に作った人いるよね?

さすが(笑)。いるんだよ。オランダのカスタムショップが作った「ブラックパール」なんて、火室まで積んだ本物の蒸気バイクでね。ロシアのビルダーが作ったやつは、ボイラーにガスを充填して走らせてる。蒸気機関車みたいな主連棒が動く様子が動画で公開されてて、これが最高にかっこいい。

やっぱりやる人はやるんだ(笑)。

スチームパンク好きの本気ってすごいよね。ただ、そういう作品を見てると、逆に蒸気機関の性格がよく分かるんだ。あれだけの機構を積んでも、走り出しはゆっくりで、速度もそんなに出ない。

ガソリンのバイクみたいに、ひょいと走り出す感じにはならないんだ。

そういうこと。だからこそ、量産される乗り物としては内燃機関が勝った。でも「作れないから存在しない」んじゃなくて、「作れるけど産業には向かなかった」だけなんだよね。実際に作って走らせてる人たちがいるのが、その証拠。

分けると大きくなるけど自分で目覚められる。一体にすると小さくできるけど誰かに起こしてもらう必要がある。

まさにそこ。内燃機関は小型化と引き換えに「常に動き続けなければならない」制約を背負って、蒸気機関は大きく重い代わりに「止まったままでも力を蓄えておける」自由を手に入れた。どっちが優れてるかじゃなくて、設計思想が違うんだよね。

さっき「だから変速機がいらない」って言ってたけど、それってつまり……えっ、蒸気機関車ってギアが入ってないの?

入ってない。クラッチもない。シリンダーのピストンが、ロッドで動輪を直接ぐいぐい押してる。あの外に丸見えになってる棒、あれがそのまま動力伝達の全部なんだよ。

うわ、あれ飾りじゃなくて、あれで全部動かしてるんだ……。

機構としては、ものすごく素直なんだよね。実際、鉄道にディーゼルエンジンを載せようとしたとき、この「発進時に力が足りない」問題が大きな壁になって、実用化には長い年月がかかってる。トルクを増やす装置を別に積まなきゃいけなかったから。

蒸気機関、意外と強いじゃん。
内燃機関はエネルギーを作る場所と力を取り出す場所が一体のため小型化できたが、動き続けなければ力を出せず、クラッチと変速機が必須になる。対して蒸気機関はボイラー(エネルギーの貯蔵)とシリンダー(駆動)が分離しているため、停止状態でも蒸気を溜めておけて、バルブを開いた瞬間から力を出せる。変速機の有無は、この設計思想の違いから生まれた結果である。
じゃあ、なぜ負けたのか

そこまで強いのに、なんで置き換わっちゃったの?

勝負がついたのは、性能じゃなくて効率と手間なんだ。まず熱効率。蒸気機関車の熱効率は10パーセント程度と言われてる。対してディーゼル機関車は35パーセント程度。

3倍以上違うんだ。燃料のほとんどを捨ててることになるのか

そう。それに加えて、使うまでの手間が桁違いでね。蒸気機関は火を入れてお湯を沸かして、蒸気が溜まるまで動かせない。大型のものだと準備に何時間もかかる。

ディーゼルはキーを回せば動くもんね。

そこなんだよ。あと水と石炭を絶えず補給しなきゃいけないし、走らせるには機関士と、石炭をくべる機関助士の二人がかり。効率が悪くて、手間がかかって、人手も要る。産業として見たら、これは勝てない。

技術の優劣というより、経済の話なんだ。

まさに。蒸気機関は「力は強いけど、燃費が悪くて準備に時間がかかって人手が要る」機械だった。だから引退した。でも、負けたからといって消えたわけじゃないんだよ。
蒸気機関が退場した理由は熱効率の低さ(蒸気10%対ディーゼル35%程度)、始動までの時間、水と石炭の補給、必要な人手の多さ。性能ではなく運用コストで敗れた。
アメリカでは今も、100年前の機械に火が入る

消えてない、ってどういうこと?

アメリカに行くと、今でも蒸気トラクターが集まる大きなイベントがいくつもあるんだ。アイオワ州の「Midwest Old Threshers」とか、ミネソタ州の「Western Minnesota Steam Threshers」とか。どちらも毎年100台以上の蒸気トラクションエンジンが集まる規模でね。

100台!博物館の展示じゃなくて?

全部動くんだよ。ペンシルベニア州の「Rough and Tumble」なんて1948年から70年以上続いてて、保有してる2ダース以上のエンジンのほとんどが稼働状態で維持されてる。イベントでは実際に火を入れて、昔ながらの脱穀作業を実演するんだ。トラクターのパレードもあるし、「スチーム・トラクションエンジン・ロデオ」なんてものまである。

ロデオ(笑)。楽しそうだなあ。

しかも興味深いのが、こういうイベントの出展者の平均年齢が、以前より若くなってるって話でね。エンジンを所有して展示する新しい世代が育ってきてる。

受け継がれてるんだ。100年前の機械を、若い人が。

それでね、実は日本にも似た文化があるんだよ。動力は蒸気じゃなくて内燃機関だけど、「発動機運転会」っていうイベントが各地で開かれてる。

発動機?

昔、農家や工場で使われてた据え置き型の石油発動機のこと。大きな鉄のはずみ車がついてて、ポンポンポンって独特の音を立てながら回る。かつては脱穀機や揚水ポンプを動かしてた、日本の産業を支えた機械なんだ。

あー、なんか昭和の映像で見たことあるかも。

静岡県石油発動機愛好会とか、三重県発動機保存会とか、全国に愛好会があってね。納屋で錆びついてた発動機を探し出して、修理して、また動くようにして、運転会で並べて回すんだ。会員の中には200台以上保管してる人もいるらしい。

200台!すごい情熱だな……。

焼玉エンジンなんかもそう。明治から昭和にかけて作られて、ポンポン船の動力にもなった機械なんだけど、今も愛好家が稼働状態で守ってる。用途としての役目は終わってるのに、動かすこと自体が目的になって受け継がれてる。

アメリカの蒸気トラクターと同じことが、日本でも起きてるんだ。

そうなんだよ。国も動力の種類も違うけど、「役目を終えた機械に、もう一度火を入れて動かす」という営みは共通してる。しかも無料で見学できるイベントも多いから、興味があれば意外と気軽に見に行けるんだよね。

日本でも見られるんだ。それは行ってみたいかも。

ぜひ。どちらの国のイベントも、商業的な現役かというと違うんだ。アメリカの農業はもうコンバインの時代だし、日本の発動機も現場では使われてない。でも「火を入れれば今も動く」し「動かせる人が世代を超えている」。これって、機械としてはすごく幸福なあり方だと思わない?

わかる。使われなくなった機械って普通は朽ちていくのに、ちゃんと生きてるんだ。
アメリカでは今も蒸気トラクターが集まる大規模イベントが各地で開催され、100台規模の機械が稼働状態で維持されている。日本にも石油発動機を修復して運転する「発動機運転会」が各地にあり、国は違えど「役目を終えた機械にもう一度火を入れる」という営みが受け継がれている。
そして、あなたの部屋の電気も蒸気で作られている

それでね、もっと驚く話をしていい?今この瞬間、MaRyの家の電気も、たぶん蒸気で作られてる。

え?うち、普通に電力会社から買ってるだけだよ。

火力発電所って、何をしてるか知ってる?石炭やガスを燃やして、その熱で水を沸かして、できた蒸気でタービンを回して発電してる。

……あれ?それって、蒸気機関と同じじゃない?

同じなんだよ。しかも原子力発電も、まったく同じ。核分裂で出た熱で水を沸かして、蒸気でタービンを回してる。この方式、まとめて「汽力発電」って呼ばれてる。電力会社自身が「水を沸かして蒸気でタービンを回すしくみは、原子力も火力も同じです」って説明してるくらいでね。

待って。人類の最先端みたいな顔してる原子力発電所の中身が、要するに巨大なやかんってこと?

(笑)身も蓋もない言い方だけど、原理としてはそういうこと。ウランは「お湯を沸かすための、とんでもなく高性能な燃料」なんだよ。動力の取り出し方そのものは、19世紀のワットの時代から本質的には変わってない。

えー、なんかすごい。蒸気機関、負けてないじゃん。

しかもね、さっき話した「エネルギーを作る場所と、力を取り出す場所が分かれてる」っていう外燃機関の特徴、これが発電所では究極まで突き詰められてるんだよ。

あ、たしかに。燃やす場所とタービンが別なんだ。

そう。分離してるからこそ、燃料が石炭でもガスでもウランでも、極端に言えば何でもいい。熱さえ作れれば、そこから先の「蒸気でタービンを回す」部分は同じ仕組みが使える。内燃機関だとこうはいかない。ガソリンエンジンにウランは入れられないでしょ。

あー!だから原子力発電が成立するのか。エネルギー源を差し替えられる自由があるんだ。

まさにそこ。外燃機関の「分けてある」という設計が、19世紀の石炭から現代の原子力まで、まったく違う燃料を受け入れられる懐の深さを生んだんだよ。

じゃあ蒸気機関って、負けて消えたんじゃなくて、居場所を変えただけなのかな。

そういうことだと思う。乗り物からは退場したけど、電気を作る側にまわって、今も世界中を動かしてる。姿が見えなくなっただけで、蒸気の時代はまだ終わってないんだ。

スチームパンクって「蒸気機関が発展し続けた、もうひとつの世界」を描くジャンルじゃない。でも今日の話を聞いてたら、なんか現実の方も、けっこう蒸気のままだったんだなって。

うん、僕もそこが好きでね。スチームパンクの魅力って「仕組みが見えること」だと思うんだ。歯車もパイプもむき出しで、どう力が伝わってるのかが目で追える。蒸気機関車のロッドなんて、その最たるものでしょ。

たしかに、発電所の蒸気は見えないもんね。同じことをやってるのに。

そこが決定的な違いかもしれない。現代の技術は、便利になるほど仕組みを隠していく。スチームパンクが惹きつけるのは、たぶんその逆をやってるからなんだよね。

見えないものを、もう一度見えるようにする感じか。

今度どこかで蒸気機関車を見る機会があったら、動輪のロッドの動きを目で追ってみてほしい。あれが今も、形を変えて世界を回してるんだと思うと、ちょっと違って見えると思うよ。
火力発電も原子力発電も、熱で水を沸かし蒸気でタービンを回す「汽力発電」。エネルギー源と駆動部が分離した外燃機関の構造だからこそ、石炭からウランまで燃料を差し替えられる。動力を取り出す原理は蒸気機関と同じで、現代の電力の多くは今も蒸気によって生み出されている。
よくある質問
Q. 蒸気機関と内燃機関の違いは何ですか?
燃料を燃やす場所が異なります。蒸気機関は機関の外(ボイラー)で燃やした熱で水を沸かし、蒸気の膨張力でピストンを動かす「外燃機関」。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンは、シリンダー内部で燃料を燃焼させる「内燃機関」です。
Q. 蒸気機関車に変速機がないのはなぜですか?
A.蒸気機関はエネルギーを作る場所(ボイラー)と力を取り出す場所(シリンダー)が分離しているためです。ボイラーに蒸気を溜めておけるので、機関が停止していてもバルブを開いた瞬間から力を出せます。一方の内燃機関はシリンダー内で燃焼させる構造上、動き続けていないと力を出せず、クラッチと変速機が必要になります。鉄道へのディーゼル機関導入が長らく難航したのも、この問題が理由の一つでした。
Q. なぜエンジンにはセルモーターが必要なのですか?
A.内燃機関は吸入・圧縮・燃焼・排気のサイクルが回り続けることで動力を得るため、完全に停止した状態からは自力で動き出せず、最初の一回転を外部から与える必要があるからです。1912年にキャデラックが電気式スターターを搭載する以前は、車体前部のクランク棒を人力で回して始動しており、逆回転による巻き込み事故で死傷者が出ることもありました。一方、蒸気機関はボイラーに蒸気が溜まっていればバルブを開くだけで動き出せるため、始動用の別動力を必要としません。
Q. 内燃機関と外燃機関、それぞれの利点は何ですか?
A.内燃機関はエネルギーを作る工程と力を出す工程が一体化しているため小型軽量にでき、自動車やバイクへの搭載を可能にしました。外燃機関である蒸気機関は、ボイラーとシリンダーが分離しているぶん大型になりますが、エネルギーを蒸気として蓄えておけるため、停止状態からでも即座に大きな力を出せるという利点があります。
Q. 蒸気機関はなぜ使われなくなったのですか?
A.性能ではなく効率と運用コストが理由です。熱効率が10%程度とディーゼル(35%程度)に大きく劣り、始動までに長時間の準備を要し、水と石炭の補給や複数人の乗務員も必要でした。
Q. 現代でも蒸気機関は使われていますか?
A.形を変えて使われています。火力発電も原子力発電も、熱で水を沸かして蒸気でタービンを回す「汽力発電」であり、蒸気から動力を取り出す原理は蒸気機関と同じです。またアメリカでは蒸気トラクターを稼働状態で保存し、実演するイベントが各地で開催されています。
Q. 日本で昔の機械が動くところを見られるイベントはありますか?
A.「発動機運転会」があります。かつて農業や工場で使われた石油発動機や焼玉エンジンを、愛好家が修復して稼働させるイベントで、静岡県石油発動機愛好会や三重県発動機保存会など全国各地に団体があります。無料で見学できるものも多く、独特の排気音とはずみ車が回る様子を間近で見ることができます。
蒸気の時代の機械をもっと見たい人へ
実際に「仕組みが見える」機械たちの話も、これまで何度か取り上げてきました。
スチームパンクそのものが気になった人へ
蒸気機関が発展し続けた“もうひとつの歴史”から生まれた世界観。定義から楽しみ方まで、まずは入口から。
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文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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