蒸気都市に生まれた傑作『快傑蒸気探偵団』という夢の話
- 日本スチームパンク協会

- 1 日前
- 読了時間: 10分

喫茶蒸談へようこそ
スチームパンクという言葉が日本にまだほとんど浸透していなかった頃、すでにその世界観を高い完成度で漫画として描いていた作品がある。
麻宮騎亜先生の『快傑蒸気探偵団』。
白い蒸気に包まれた都市、少年探偵・鳴滝、そして個性的な仲間たち。あの独特の世界が初めて誌面に現れたのは1994年のことだ。
今回の蒸談は、ふたりにとってもとりわけ思い入れの深い作品についての、ちょっとコアなフリートーク。
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ): 日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの"ワクワクするところ"を見つけ出すのが得意。SFフリマの主催者でもあり、麻宮騎亜先生ともイベントを通じて交流がある。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。歴史や文化の観点からスチームパンクを語るのが得意。麻宮先生にはSFフリマのメインビジュアルを描いていただいたこともある。
あの漫画と出会った話


蒸気探偵団って最初どこで知った?

リアルタイムで読んでたよ。『ウルトラジャンプ』連載のやつ。

私はアニメから入ったんだよね。1998年のテレビ東京のやつ。そこからコミックスも読んで。

アニメと漫画、印象違った?

結構違う!アニメは一話完結で入りやすくて、テンポよく世界観に引き込まれる感じ。でも漫画読んだら書き込みの密度に圧倒されて、「こんなに違うのか」ってなった。

漫画とアニメって、それぞれ違う魅力があるよね。漫画はページを止めてじっくり見られるし、アニメは動きとして表現されるものがある。

先生はアニメーターでもあるから、アニメでしか出せない動きの気持ちよさみたいなのも、ちゃんと意識して作られてると思う。でもアニメはアニメで強力(ごうりき)が動いてるのが見られるのが嬉しくて。あのガシっとした感じが映像でわかる。

声もついてキャラクターのイメージが固まった、って感じる人も多いと思う。先生自身もドラマCD先行でキャラクターのイメージを確定させる手法を意識的に取ってたくらいだから、声と音があることをすごく重視してたんだよね。

そういう意図があったんだ。確かに鳴滝も鈴々も声のイメージが今でも頭に残ってる。

最初読んだとき、なんか変な漫画だなって思ったんだよね。いい意味で。

わかる!雰囲気が他の少年漫画と全然違うんだよね。なんか「異物感」がある。

そう。街が白い霧というか蒸気に常に覆われてて、その中に機械があって、ちょっとレトロで、でも未来的でもあって。「これって何時代の話なんだろう?」ってなる。

舞台が「蒸気都市(スチーム・シティ)」で、時代も場所も曖昧にしてるのが絶妙だよね。
「蒸気都市」という発明の話

あの世界設定、改めてすごいと思う。蒸気機関が支配してる架空都市で、電気文明とは違う方向に発展した世界。

蒸気で動く機械が街に溢れてて、でもどこか人情があって。

ヴィクトリア朝的な雰囲気もあるけど、日本の下町的な感じも混ざってるよね。あの独特の「近さ」。

鳴滝くんたちの事務所も、なんかこじんまりしてて庶民的でさ。大きい陰謀と闘いながらも、日常がちゃんとある。

そこが少年漫画として面白いところで。スチームパンクって壮大な世界観になりがちなんだけど、蒸気探偵団は等身大の少年の目線で描かれてる。

鳴滝くんが「ちゃんと子どもっぽい」のが好きだった。頑張りすぎないというか。

あと鈴々(りんりん)ね(笑)

鈴々!あのキャラクターは本当に印象的だよね。
キャラクターの話

鈴々って、少年漫画のヒロインとしてかなり特殊な存在だと思う。

看護師なんだけど、実は第1話では鳴滝くんを騙した黒幕側だったっていうね。ファンタムに操られてたとはいえ。

そうそう!最初は依頼者として登場するんだけど、実は事件の黒幕で。でも根は善人で、真相が明かされてから鳴滝くんと和解して助手になる。

その経緯があるから、鈴々って単純に「守られるヒロイン」じゃないんだよね。自分の意志で動いて、鳴滝くんと一緒に戦う。

強力のデザインがまた。でかくて、蒸気で動いてて、でもどこか愛嬌がある。

麻宮先生のメカデザインって独特の説得力があるんだよ。「なんでそこにパイプが通ってるのか」みたいな理屈が通ってる気がする造形。

歯車やパイプの「見た目のための嘘」じゃなくて、「ちゃんと動いてそうな嘘」というか。

それ、スチームパンクデザインの核心の話なんだよね。機能が見えること。蒸気探偵団のメカはまさにそれで、「このパーツはこのために動いてる」っていう説得力がある。

言われてみたら確かに!読んでて「嘘くさい」って思ったことが一度もなかった。

ロボットとか機械が出てくる漫画って、かっこよくても「デザインとして成立してるけど物体として嘘」なものが多い。でも麻宮先生のはなんか……工学的な真実がある感じがする。
「スチームパンク」という言葉が広がる前の話

これ改めて確認したいんだけど、蒸気探偵団って1994年の連載開始だから。

うん。

「スチームパンク」って言葉が日本の一般層にある程度浸透し始めたのって、2000年代後半くらいからだと思うんだよね。映画の影響とかで。

じゃあ先生が描き始めた時点では、その言葉自体ほとんど使われてなかった?

英語圏でも1980年代に生まれたばかりの言葉だったから。日本語で「スチームパンク」って言葉で認識されてる読者はほぼいなかったはず。

それなのに、あれだけスチームパンクな世界観を描けてたってこと?

先生の中に「こういう世界が描きたい」っていうビジョンが先にあって、ジャンルの名前より、世界観の欲求が先だったんじゃないかな。

それって本物のクリエイターって感じがするよね。分類に当てはめて作るんじゃなくて、作ったら分類が後からついてきた。

そういう作品ってたいてい長く残るよね。
SFフリマと麻宮先生の話


先生とは直接お話したことあるじゃない。SFフリマで。

ほんと有難いことに、メインビジュアルも描いてもらったし、ご本人も出店してくれたし。

あのビジュアル、めちゃくちゃよかった。蒸気探偵団のテイストで描いてもらったやつ。

お会いしてみると、すごく気さくな方で。

でもやっぱり機械とかメカの話になると目が変わるよね。好きなんだなって。

それは伝わる。あと、自分が描くものへの解像度がものすごく高い。「このパーツはこういう理由でここにある」っていう説明が、ちゃんとある。

絵の力だけじゃなくて、設定の力がある人なんだね。

それが蒸気探偵団の世界の説得力に直結してると思う。
冒険活劇としての面白さの話

漫画としての面白さの話もしたいんだけど。怪人との戦いとか、謎解きとか、ちゃんとエンタメとして面白いじゃない。

そう、世界観が先行してるようでいて、ちゃんとページをめくる手が止まらない作りになってる。

怪人のデザインもすごくて。単純に「悪い人間」じゃなくて、蒸気都市の歪みを体現してるような存在。

蒸気都市っていう設定があることで、怪人の造形に説得力が生まれてる。あの都市だから、ああいう怪人が生まれる、っていう必然性。

舞台と事件が切り離せないんだよね。同じ話を現代都市に置き換えたら成立しない。

そこがスチームパンク漫画として完成されてるポイントだと思う。世界観がただの「衣装」じゃなくて、物語の骨格になってる。

すっごくよく言語化してくれた。

ちょうど今整理できた(笑)。
今読んでも古びない話

蒸気探偵団ってさ、古い作品なのに全然古びない感じがするんだけど。なんでだろう。

架空の時代を舞台にしてるから、「古さ」の基準が現実の時代に縛られないんだよね。蒸気都市は最初から「現実の過去」じゃないから。

確かに。「90年代の漫画っぽいな」じゃなくて、「蒸気都市の漫画っぽい」って感じる。

それと、麻宮先生の絵そのものの強度。線の密度とか、メカの書き込みとか、今見てもちゃんと圧がある。

書き込みの量、やばいよね。ページ開くとまず情報量で来る。

でも読みにくくない。情報の整理の仕方が上手いんだと思う。

何度も読み直したくなる漫画ってそういう作品だよね。読むたびに気づくことがある。

久しぶりにコミックス引っ張り出したくなってきた(笑)。

今回の蒸談のための予習という名目で(笑)。
日本のスチームパンク黎明期の話

改めて、日本のスチームパンク史における蒸気探偵団の位置づけって、本当に特別だと思う。

ジャンルが確立する前に出てきて、ジャンルの定義を作ってしまった作品、って感じがする。

そう。日本語で「これがスチームパンク漫画の入り口だ」と言えるものを探したとき、ほぼ最初に名前が出る。

逆に言うと、あれだけのものが1994年に描けてたっていう事実が、先生のすごさの証明でもある。

SFフリマに出てきてくれたりメインビジュアルを描いてくれたりっていうのも、スチームパンクコミュニティとの縁を大切にしてくれてるからだと思うし、それが本当に嬉しい。

ファンとして、同じイベント空間に先生がいてくれるって、すごく特別なことだよね。

作品が「歴史」になってる人が、今も現役でコミュニティと繋がってるって、なかなかないことだと思う。

そういう繋がりがあるから、蒸気探偵団を「傑作だった」じゃなくて「今も生きてる作品」として語れる気がする。

それ、すごくいい言い方だね。

まだ読んだことない人には、今からでも全然遅くないって言いたいよね。

そうそう。しかも今は読みやすくなってて、『真・快傑蒸気探偵団』がピッコマとかLINEマンガで読めるんだよ。

えー、それ知らなかった!じゃあスマホで気軽に読めるじゃない。

アニメから入った人も、漫画まだという人も、電子で入れるのは間口が広がって嬉しいよね。

しかもスチームパンクって「まず世界観に触れる」のが大事な気がするから、試し読みで雰囲気だけでも体感してほしい。

蒸気都市に一歩踏み込んだら、あとは自然に引き込まれるから。そういう作品だよね。
コラム:白い蒸気の記憶
『快傑蒸気探偵団』を初めて読んだとき、多くの読者が感じることがある。「この世界、どこかで見た気がする」——でも、当然ながらそんな場所は存在しない。
麻宮騎亜先生が描いた蒸気都市は、現実の都市でも、どこかの国の街でもない。 それはただ、あの蒸気と機械と冒険のための場所として描かれた。
でも不思議と、懐かしい。
架空の場所なのに、帰りたい場所として記憶に残る。 それがスチームパンクという美学の持つ不思議な力であり、 あの漫画が30年以上たった今も語り継がれる理由かもしれない。
この記事を読んだら、次はこちらも
『真・快傑蒸気探偵団』を実際に読んでみたい人へ
蒸気都市の空気感は、説明より体験が早い。ピッコマ・LINEマンガで配信中なので、まず1話だけ開いてみてほしい。巻ごと読みたい人にはKindle版もあります。蒸気に霞む帝都と、鳴滝くんの最初の事件がそこにある。
▶ ピッコマで読む
SFフリマがどんな場か知りたい人へ
対談に出てきた「SFフリマ」は、スチームパンクをはじめとするSF・ファンタジー系の創作者と愛好者が集まるイベント。麻宮騎亜先生も出店したあの場の空気感を、この回で伝えている。
スチームパンクなアニメをもっと知りたい人へ
蒸気探偵団をアニメから入った人に、次に観てほしい作品を語った回。『スチームボーイ』から近年の『クラユカバ』まで、映像作品としてのスチームパンクの系譜をたどっている。
スチームパンクの世界観をゲームで体感したい人へ
漫画・アニメの次は、ゲームという入口もある。スチームパンクの世界観をゲームでどう表現するか、どんな作品が入門として最適かを語った回。
スチームパンクの世界を、日々更新中。
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文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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