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なぜ古い機械は直せて、新しい機械は直せないのか|「修理できる設計」が生まれた日と、失われた100年

  • 執筆者の写真: 日本スチームパンク協会
    日本スチームパンク協会
  • 3 時間前
  • 読了時間: 10分
スチームパンク対談シリーズ「喫茶蒸談(STEAMOGRAPHY)」のシリーズ共通カード。第79回喫茶蒸談 今回は修理についてを扱う

喫茶蒸談へようこそ


革靴のソールを張り替える。デニムに当て布をする。旧いバイクの部品を探して組み直す。古いものを選ぶ人は、たいてい「直しながら使う」ことも選んでいる。


ところが現代の製品の多くは、そもそも直すことを想定して作られていない。この違いはどこから来たのか。辿っていくと、産業革命期に生まれたある発明に行き着く。



■この対談に登場するふたり


MaRyの発言アイコン

MaRy(マリィ):  日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの"ワクワクするところ"を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。


ツダイサオの発言アイコン

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える"解説役"として登場することが多い。


「直せるもの」と「直せないもの」がある

緑のセーターの子どもが、工具箱いっぱいのレンチやボルトを手に取り整理している作業場の様子

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この前、10年くらい使ってた掃除機が動かなくなって修理に出そうと思ったら、「もう部品がないので直せません」って言われちゃって。


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あー、よく聞く話だね。それ、実はかなり根深い問題に繋がってるんだ。


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根深い?


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考えてみてほしいんだけど、100年前の機械って、今でも動くものがけっこうあるでしょ。この前話したアメリカの蒸気トラクターとか、日本の発動機運転会に集まる石油発動機とか。


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あ、100年前の機械に火を入れて動かしてる人たちの話だ。


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そう。一方で、10年前の家電やパソコンが壊れたとき、部品を取り寄せて直せることってどれくらいあると思う?


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……さっきの掃除機がまさにそれか。


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不思議じゃない?技術は明らかに進歩してるのに、100年前の機械は直せて、10年前の機械は直せない。



100年前の機械が今も稼働している一方で、10年前の家電は部品供給が終わり修理できないことが多い。技術の進歩と修理可能性は必ずしも比例しない。


ねじの規格が「直せる」を発明した


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なんでそんなことになるの?


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ここで話は19世紀に戻る。産業革命の時代、機械を組み立てるのに欠かせなかったのがねじなんだけど、当時は困った状況があってね。


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どんな?


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ねじの規格が、メーカーごとにバラバラだったんだ。各社が自社の機械に合わせて独自の直径やピッチのねじを発注してた。だから、ある機械のねじが壊れても、他所で作られたねじは使えない。


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えー、それは面倒くさい。じゃあ壊れたらどうしてたの?


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職人に作り直してもらうんだよ。もちろん昔から、壊れたものを直すという行為はずっとあったからね。鍛冶屋が金具を打ち直したり、その機械を作った本人が現物に合わせて部品を削り出したり。


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あ、そうか。あたりまえだけど直すこと自体は昔からできたんだ。


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うん。ただそれって、腕のいい職人がいないと成り立たないでしょ。しかも一点ずつ現物合わせだから、時間もお金もかかる。


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たしかに、誰にでもできることじゃないね。


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そこに現れたのがジョセフ・ホイットワースという技術者でね。1841年、彼はねじ山の角度を55度にするという規格を提案して、バラバラだったねじの標準化に取り組んだ。


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それって、そんなに画期的なこと?


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とんでもなく画期的なんだよ。この規格ができたことで、どこの工場で作られたねじでも問題なく使えるようになった。ボルトとナットの互換性が大幅に改善されて、修理や部品交換が一気に簡単になったんだ。


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あ……職人に作ってもらわなくても、部品を買ってきて替えればよくなったんだ。


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そういうこと。修理が、限られた職人の技能から、誰にでも手の届く作業に変わった。ホイットワースねじはイギリスの機械と一緒に世界中へ輸出されて、事実上最初の国際規格になった。今のJISやISOも、この流れの先にある。



1841年、ジョセフ・ホイットワースがねじ山の角度を55度とする規格を提案。どの工場のねじでも使えるようになり、それまで職人による現物合わせに頼っていた修理が、部品を交換するだけの作業へと変わった。


産業革命は、二つのものを同時に生んだ


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産業革命って、大量生産のイメージが強かったけど。


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そこが面白いところでね。産業革命は「同じものを大量に作る」仕組みを生んだ。でも同時に、「壊れたら部品を替えて直す」仕組みも生んだんだよ。


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あ、そうか。規格が揃ってるってことは、量産もできるし、交換もできるってことだ。


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まさに。しかも当時の機械は、動力の伝わり方が目で見えるでしょ。蒸気機関のロッドとか、発動機のはずみ車とか。仕組みが見えるということは、どこが壊れているかも分かるということなんだ。


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見えるから、直せる。


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そう。規格化された部品と、目に見える機構。この二つが揃っていたから、19世紀の機械は持ち主自身の手でも直せた。そして今も直せる。



産業革命は大量生産の仕組みと同時に、規格化された交換部品による修理の仕組みも生んだ。機構が目に見えることも、修理可能性を支えていた。


「直せない」はいつ始まったのか


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じゃあ、いつからそれが変わったの?


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意外と最近なんだ。1950年代の欧米だと、テレビや冷蔵庫が家庭に普及したけど、当時の製品は構造がシンプルで、修理マニュアルも公開されてた。工具と知識があれば自分で直せたし、街には修理屋さんがたくさんいた。


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昭和の日本もそうだったって聞くね。町の電器屋さんが直してくれた、って。


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うん。転機は1990年代から2000年代。マイクロチップやソフトウェア制御が入ってきて、電子機器が高度化した。そうなると修理には専用ツールや診断ソフトが必要になる。


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素人には手が出せなくなったんだ。


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それだけじゃなくてね。メーカーが意図的に修理を制限するようになった、という指摘もある。特殊な形のねじを使ったり、部品を接着してしまったり、部品や修理情報を外部に出さなかったり。


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ホイットワースが規格を揃えて「誰でも直せる」ようにしたのと、真逆のことをしてる……。


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気づいちゃったね。160年かけて、逆方向に来てしまったとも言える。



1950年代の家電は構造がシンプルで修理マニュアルも公開されていたが、1990〜2000年代の電子化により専用ツールが必要になった。メーカーによる意図的な修理制限も指摘されている。


揺り戻しは、もう始まっている


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なんか暗い話になってきたな……。


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いや、ここからが今日いちばん伝えたいところで。実は今、世界的に揺り戻しが起きてるんだ。「修理する権利」って聞いたことある?


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ない。なにそれ。


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英語だと Right to Repair。メーカーを通さず、自分や好きな修理業者で直せるようにしよう、という運動でね。2010年代にアメリカで広まって、今では法制化が進んでる。


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法律になってるの?


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うん。EUでは2026年7月末から「修理する権利」の指令が適用開始になった。メーカーに、合理的な価格での修理や、部品・修理情報の提供を義務づける内容でね。欧州議会での採決は584票対3票、ほぼ全会一致だった。


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どういうこと?


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最初は「作りがいい」とか「今はもう作れない生地だ」っていう、モノ自体の理由で値段がついてたわけでしょ。でも高騰が続くと、だんだん「高いから価値がある」「値上がりするから買う」に変わっていく。価値が価値を生むループに入っちゃうんだよね。


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先月からじゃん。しかも圧倒的な賛成。


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アメリカでも2025年時点で、50州すべてで関連法案が可決または審議されている状況。Appleみたいな企業も、純正部品や修理マニュアルを一般に開放するプログラムを始めてる。


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流れが変わってきてるんだ。


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もちろん課題も多いし、実効性はこれからだけどね。ただ、「直せる方がいい」という価値観が、環境問題という後押しも受けて、社会の側から戻ってきている。19世紀に生まれた考え方が、一周まわって支持されはじめてる。



2026年7月末、EUで「修理する権利」指令が適用開始。米国でも全50州で関連法案が可決または審議されており、修理可能性を重視する流れが戻りつつある。


古いものを選ぶことは、懐古趣味だけではない


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こうやって聞くと、古い機械を大事にしてる人たちって、けっこう先を行ってたんだね。


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そう思う。革靴をソール交換しながら10年以上履くとか、デニムをリペアしながら育てるとか、旧車を部品を探して直し続けるとか。もちろん、直せるから選んだ人ばかりじゃないと思うけどね。見た目が好きだったとか、質感に惹かれたとか、きっかけはいろいろでしょ。


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わたしも、かわいいから買っただけ、みたいなの多いかも(笑)。


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それでいいんだと思う。ただ結果として、そういうものを選んだ人は「直しながら使う」という選択肢も一緒に手に入れてる。懐古趣味と言われがちだけど、実はけっこう実利的な側面もあるんだよね。


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好きで選んだものが、たまたま長く使えるものだった、みたいな。


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うん。そして直せる道具って、直すたびに愛着が増していくでしょ。ソールを張り替えた靴、当て布をしたデニム、自分で整備した機械。手をかけた分だけ、自分のものになっていく感覚がある。


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あー、それはすごく分かる。


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スチームパンクがDIYを大事にするのも、根っこは同じだと思うんだ。既製品を消費するんじゃなくて、自分の手で作ったり直したりする。そこに時間と愛着が蓄積していく。



古い道具を選ぶ動機は人それぞれだが、結果として「直しながら使える」という選択肢も手に入ることになる。手をかけた分だけ愛着が増すという感覚は、DIY文化とも通底している。


着地


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ねじの規格の話から、こんなところまで来るとは思わなかった。


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1841年にホイットワースがねじの角度を55度に決めたとき、たぶん彼は「修理する権利」なんて言葉は思いつかなかったはずでね。でも、部品が共通なら誰でも直せる、という発想は、そこから始まってる。


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今わたしたちが議論してることの原型が、19世紀にあったんだ。


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スチームパンクが19世紀を舞台にするのって、単にレトロだからじゃないと思うんだよ。あの時代、機械は人間が理解できて、手を入れられるものだった。その感覚を、もう一度取り戻したいという気持ちが、たぶんどこかにある。


MaRyの発言アイコン

今度なにか壊れたとき、すぐ買い替える前に、まず開けてみようかな。


ツダイサオの発言アイコン

それ、いちばんいい結論だと思う。



よくある質問


Q. 「修理する権利」とは何ですか?


購入した製品を、メーカーや指定業者だけでなく、購入者本人や第三者の修理業者が修理できるようにすべきという考え方です。英語では Right to Repair と呼ばれ、2010年代にアメリカで広まりました。EUでは2026年7月末から関連指令が適用され、メーカーに合理的な価格での修理や部品・修理情報の提供が義務づけられています。


Q. なぜ昔の機械は修理しやすかったのですか?


A.部品が規格化されていたことと、機構が目に見えたことが大きな理由です。それ以前も修理は行われていましたが、職人が現物に合わせて部品を作り直す必要がありました。1841年にジョセフ・ホイットワースがねじの規格を提案したことで、どの工場で作られた部品でも互換性を持つようになり、部品を交換するだけで直せるようになりました。また蒸気機関のように動力の伝達が目視できる構造は、故障箇所の特定も容易にしました。


Q. いつから製品は修理しにくくなったのですか?


A.1950年代の家電は構造がシンプルで修理マニュアルも公開されていましたが、1990年代から2000年代にかけてマイクロチップやソフトウェア制御が普及し、修理に専用ツールや診断ソフトが必要になりました。あわせてメーカー側が部品や修理情報の提供を制限する動きも指摘されています。


Q. 修理しながら使うことにはどんな意味がありますか?


A.廃棄物の削減という環境面の意義に加え、手をかけた分だけ道具への愛着が増すという側面があります。革靴のソール交換やデニムのリペア、旧い機械の整備などは、懐古趣味と受け取られることもありますが、結果として「直しながら長く使える」という実利的な選択にもなっています。


100年前の機械が今も動く話


実際に火を入れて動かされている機械たちの話は、こちらの記事で詳しく扱っています。




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一般社団法人スチームパンク協会理事ツダイサオのプロフィール画像

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)


スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中

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