電気ブランとは?浅草・神谷バーが生んだ、文明開化のハイカラな酒
- 日本スチームパンク協会

- 2 日前
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喫茶蒸談へようこそ
浅草を歩いていると、雷門の近くに、大きく「神谷バー」と掲げたレトロな角のビルがあります。その店の看板メニューが、明治生まれの「電気ブラン」。名前は聞いたことがあるけど、結局あれは何のお酒なのか。
今日はその電気ブランを入口に、明治の浅草と、わたしたちの好きなスチームパンクが実は地続きだ、という話をします。
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ): 日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの"ワクワクするところ"を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える"解説役"として登場することが多い。
浅草で見かける、あの看板


浅草の駅を出てすぐのところに、すごくレトロな角のビルあるよね。大きく「神谷バー」って掲げてあるやつ。あそこの名物が電気ブランって聞いたんだけど、電気…ブラン? そもそも何のお酒なの?

あー、神谷バーね。あのビル、もう浅草のランドマークみたいになってるよね。電気ブランは、その店の看板メニュー。ひとことで言うと「ブランデーをベースにしたカクテル」なんだ。明治のころに、あの店で生まれた。

カクテルなんだ。じゃあバーでその場で混ぜてくれるやつ?

それがね、瓶で売ってる完成品なんだ。ブランデーに、ワインとかジンとか薬草とかをブレンドして、あらかじめ仕上げてある。しかもそのレシピ、今も秘伝で公開されてない。

えっ、秘伝(笑)。100年以上ずっと?

そう、ずっと。だから「電気ブランの完全な再現レシピ」っていうのは、世の中に存在しないことになってる。それも含めて、ちょっと魔法っぽい酒なんだよ。
なんで「電気」なの?

でもさ、いちばん引っかかるのそこなんだよ。なんで「電気」ブランなの? ビリビリするから?

半分正解(笑)。元の度数が45度もあってね、飲むと舌がビリリとしびれる。その感じが「電気みたい」っていうのは確かにある。でも本当の理由はもうひとつあって、そっちが面白いんだ。

もうひとつ?

これが広まった明治の中ごろって、ちょうど文明開化のまっただ中で。電気とか、舶来の新しいもの、モダンでハイカラなものが、どんどん入ってきてた時代なんだ。それで当時の人たちは、目新しくてイケてるものに「電気○○」ってつけるのが流行ってた。

あー、なるほど。「電気」が「最先端」「かっこいい」の代名詞だったんだ。

そういうこと。今でいう「スマート○○」とか「ネオ○○」みたいなノリだね。だから「電気ブラン」って、当時の感覚だと「めちゃくちゃ新しくてイケてるブランデー」っていう、すごく前のめりな名前なんだよ。

かわいい(笑)。名前に、その時代の興奮がそのまま入ってるんだ。
作ったのは、洋酒に賭けた明治の起業家

その電気ブランって、誰が考えたの?

神谷傳兵衛っていう人。この人の人生がまた、ちょっとした物語でね。もともと横浜で、フランス人がやってた洋酒の醸造所に雇われて働いてたんだけど、過労で倒れて、医者にも見放されるくらい弱っちゃう。

えー、そんなに。

そう。そのとき雇い主のフランス人が、見舞いに葡萄酒を持ってきてくれて。毎日少しずつ飲んでたら、だんだん元気になって回復したんだ。それで彼、「いつか日本人のための洋酒を、自分の手で作りたい」って思うようになる。

その体験から始まるんだ。いい話だね。

でね、1880年、明治13年に浅草で小さな酒屋を始める。最初は濁り酒の一杯売りだったんだけど、そこから甘味葡萄酒を作ったり、電気ブランを生み出したり。さらには茨城の牛久に、本格的なワイン醸造所まで作っちゃう。今の牛久シャトーだね。

お酒の人、っていうより…なんか発明家っぽい。

まさに。輸入に頼るしかなかった洋酒を、日本人の口に合う形に「改造」して、自分の手で作り直した人なんだ。ありものを受け取るだけじゃなくて、自分でいじって新しいものにする。この姿勢、どこかで聞き覚えない?

あー、わかった。それ、わたしたちがいつも言ってるやつだ。
ここがスチームパンクと地続きなんだ

そう。スチームパンクって、「もし技術が違う形で進化していたら」っていう、もうひとつの歴史を想像する世界観でしょ。その土台になってるのが、ヴィクトリア朝とか産業革命とか、西洋が蒸気と電気に夢を見ていた時代なんだ。

うんうん、蒸気の時代に電気の夢を見てた、みたいな。

その「西洋版の近代」に、ちょうど対応する日本の出来事が、明治の文明開化なんだよ。西洋から一気に押し寄せた技術や文化を、日本人が必死に吸収して、自分たちなりに作り変えていった時代。電気ブランって、その空気を一杯の酒に閉じ込めたみたいな存在なんだ。

名前が「電気」っていうのも、もう完全にそうだもんね。新しい時代にワクワクしてる感じが、味より先に名前に出てる(笑)。

そうなんだよ。しかも中身は、ブランデーにジンに薬草に、っていう、いろんな素材を混ぜ合わせた秘伝のブレンド。既製品をそのまま出すんじゃなくて、作り手の理想を全部詰め込んで組み立てた一杯。歯車を組むみたいに、味を組み立ててるんだ。

あー、スチームパンクのガジェットと同じ作り方だ。いろんなパーツを組んで、自分だけの物語にするやつ。

色も琥珀色でね。真鍮のエイジングみたいな、あの古びた金色。グラスに注いだ瞬間、ちょっとスチームパンクなんだよ、これが。
今も浅草で飲める、という奇跡


でさ、これが一番すごいと思うんだけど、電気ブランって今でも飲めるんだよね?

飲めるどころか、生まれた場所そのもので飲める。神谷バーは今も浅草の同じ角地で営業してて、建物は大正時代のもの。国の登録有形文化財になってる。

100年前の建物で、100年前の酒を飲めるってこと?

そういうこと。明治の人が「これが最先端だ」ってワクワクしながら飲んでた酒を、令和のわたしたちが同じ場所で飲める。過去と未来が出会う、っていうのを、こんなに地でいってる場所もなかなかないよ。

それもう、スチームパンクの聖地じゃん(笑)。

でね、行く前にひとつ豆知識。今の電気ブラン、実は2種類あるんだ。カタカナの「デンキブラン」と、漢字の「電氣ブラン〈オールド〉」。

え、名前で書き分けてあるの? 何が違うの?

度数が違う。発売当初は45度もあったんだけど、時代が下るにつれて飲みやすく度数を下げていって、今の定番が30度の「デンキブラン」。で、あとから「やっぱりあの強いのがいい」っていう声に応えて、発売当時のラベルを復刻した40度の「電氣ブラン〈オールド〉」が出たんだ。

あー、マイルドな現行版と、ガツンとくる復刻版なんだ。

そういうこと。カタカナか漢字か、で見分けられる。漢字の〈オールド〉のほうが、明治の45度に近い“本来のビリリ”を味わえるってわけ。初めてなら30度のデンキブラン、慣れてきたら〈オールド〉、って感じかな。

それ、めちゃくちゃスチームパンクっぽい選び方だね(笑)。復刻版のほうが“当時のしびれ”に近いって。

飲み方も渋くてね。度数が高くて甘いから、ストレートでいって、ビールをチェイサーにして交互にやるのが通の飲み方。ただ、けっこう効くから飲みすぎ注意(笑)。太宰治なんて『人間失格』で、酔いの回る早さは電気ブランの右に出るものはない、みたいに書いてるくらいだから。

文豪のお墨付き(笑)。ちなみにこれ、家でも飲めるの? 瓶で売ってたりする?

売ってるよ。今は合同酒精が作ってる普通の市販品だから、酒屋さんや通販で瓶も買える。ただ、扱ってる店が意外と限られててね。普通に酒屋に並んでることもあれば、置いてない店も多くて、探すとけっこうレアなんだ。

あー、見かけたらラッキーな感じなんだ。じゃあやっぱり、まずは本場の神谷バーに飲みに行こうよ、取材ってことで。

いいね。ご近所だしね(笑)。
着地
「電気」という名前に、新しい時代へのワクワクをまるごと込めてしまう。ありものの洋酒を、自分の手で日本人のための一杯に作り変えてしまう。
電気ブランは、明治の浅草が見ていた「もうひとつの未来」が、琥珀色の液体として今も残っているような酒です。
スチームパンクは遠いイギリスの話、と思われがちだけど、その感覚はこんなに近く、浅草の角地のグラスの中にもあります。次に浅草を歩くとき、あの赤い看板の前で少し足を止めてみてください。
きっと、いつもと違う時間の流れが見えてきます。
よくある質問
Q. 電気ブランとは何ですか?
A.ブランデーをベースに、ワインやジン、薬草などを秘伝の配合でブレンドした、明治時代生まれのカクテルです。浅草の神谷バーで誕生し、今も同店の看板メニューとして親しまれています。
Q. なぜ「電気」ブランという名前なのですか?
A.文明開化のころ、目新しくモダンなものを「電気○○」と呼ぶ風潮があったためです。度数の高さからくる、舌がしびれるような刺激的な飲み口も「電気」のイメージに重なったとされます。
Q. 電気ブランはどこで飲めますか?どこで買えますか?
A.発祥の地である浅草の神谷バー(東京都台東区浅草1-1-1)で飲めます。建物は国の登録有形文化財で、生まれた場所そのもので味わえるのが魅力です。瓶は合同酒精が製造する市販品で、酒販店や通販でも購入できますが、常時扱っている店は限られ、見かけないことも多いお酒です。
Q. 「デンキブラン」と「電氣ブラン〈オールド〉」は何が違いますか?
A.度数とコンセプトが違います。カタカナの「デンキブラン」は飲みやすく仕上げた現行の定番でアルコール30度、漢字の「電氣ブラン〈オールド〉」は発売当時のラベルを踏襲した復刻版で40度。初めてなら30度、強い飲み口を味わいたいなら〈オールド〉がおすすめです。
Q. スチームパンクとどう関係するのですか?
A.電気ブランが生まれた明治の文明開化は、スチームパンクの土台であるヴィクトリア朝・産業革命と同じ「近代の幕開け」にあたります。新技術への高揚を名前に込め、舶来の酒を自分の手で作り変えた点が、スチームパンクの精神と重なります。
もう一杯、変わった酒の話を
電気ブランにも入っている「ジン」。そのジンの中でも飛び抜けた変わり者の一本が、ヴィクトリアンな世界からやってきています。
「電気」に夢を見た時代を、もっと
明治の浅草が「電気」にワクワクしていたころ、海の向こうのヴィクトリア時代も電気の夢を見ていました。その交差点の話です。
スチームパンクそのものが気になった人へ
蒸気機関が発展し続けた“もうひとつの歴史”から生まれた世界観。定義から楽しみ方まで、まずは入口から。
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文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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