中国アニメ映画のスチームパンクがすごい|『ナタ転生』『ヨウゼン』に見る東方パンクという発明


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中国の3DCGアニメ映画に、スチームパンクの意匠をまとった作品がある。『ナタ転生』と『新封神演義・楊戩(ヨウゼン)』。どちらも封神演義の神話を題材にしながら、蒸気と歯車の街を舞台にしている。ただし面白いのは、その世界観が物語の必然ではないという点だ。今日はこの二作を入口に、スチームパンクが「様式」として使われることの意味を考えてみたい。
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ): 日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの"ワクワクするところ"を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える"解説役"として登場することが多い。
中国神話とスチームパンクが同居している

最近、中国のアニメ映画がすごいって聞くけど、スチームパンクっぽい作品もあるの?

あるんだよ。しかも一本じゃなくて、同じ監督が続けて二本作ってる。『ナタ転生』と『新封神演義・楊戩』、日本語吹き替え版だと『ヨウゼン』ってタイトルの作品ね。

どっちも聞いたことない名前かも。どんな話?

どちらも『封神演義』が下敷きになってる。ナタも楊戩も、中国では誰もが知ってる神様なんだ。日本でいうとスサノオみたいな存在かな。

神話がベースなんだ。じゃあ、和風ならぬ中華風の時代劇?

それが違うんだよ。『ナタ転生』の舞台は、蒸気とネオンが混じった架空の都市。主人公はバイクに乗った青年で、宅配の仕事をしながら暮らしてる。

えっ、神話の神様がバイクに乗るの?

そう。三千年前にナタが竜の一族と戦って、それから転生を繰り返して、現代の東海市に生きているという設定でね。
『ナタ転生』(2021年)と『新封神演義・楊戩』(2022年)は、いずれも中国の古典『封神演義』を題材にしながら、スチームパンク的な世界観で描かれた3DCGアニメ映画。監督はどちらも趙霽、制作は追光動画。
1920年代の上海とマンハッタンを混ぜた街

その東海市って、どんな街なの?

監督によると、1920年代から30年代のマンハッタンと、中華民国時代の上海を織り交ぜて設計されたそうなんだ。

その二つを混ぜるんだ。想像つかないな。

プロダクションデザイナーの証言だと、1900年代初頭をイメージして、アールデコ様式を取り入れているらしい。そこに東洋と西洋、両方の美意識を組み合わせたと。

アールデコって、あのクラシックで幾何学的なやつだよね。

そう。だから画面が独特でね。租界時代の上海みたいな洋風建築が立ち並んでいて、そこに漢字の看板がひしめいていて、その隙間をバイクが走り抜ける。見たことのない絵になってる。

それは観てみたいかも。

もう一本の『楊戩』のほうは、また雰囲気が違ってね。こっちは仙人たちが落ちぶれた世界を描いていて、飛行艇が空を飛んでる。中国神話とスチームパンクとSFを混ぜたような、これも他では見ない世界観なんだ。
『ナタ転生』の舞台となる東海市は、1920〜30年代のマンハッタンと中華民国時代の上海を織り交ぜ、アールデコ様式を取り入れて設計された。『楊戩』では飛行艇の飛ぶ仙侠世界が描かれる。
ただし、蒸気は物語を動かしていない

そこまでスチームパンクなら、物語も蒸気が中心になってるの?

ここが今日いちばん面白いところなんだけど、実はそうじゃないんだ。

え、どういうこと?

物語の骨格は、あくまで封神演義の神話なんだよ。ナタと竜の一族の因縁、楊戩と甥の関係。蒸気機関が物語の鍵を握るわけでも、技術の発展が話を動かすわけでもない。

じゃあ、舞台を普通の現代都市にしても話は成立しちゃう?

極端に言えば、そうなんだよね。前に紹介した『ディファレンス・エンジン』は違ったでしょ。あれは蒸気式のコンピュータが完成した世界だから、社会のあり方そのものが変わっていた。技術が物語の前提になってる。

たしかに、あれは蒸気がないと話が始まらない。

でもこの二作は、スチームパンクが物語の必然としてではなく、見た目の様式として使われてる。世界観がスチームパンクなのに、物語はスチームパンクではない。

それって、失敗ってこと?

いや、そこがね。調べてみたら、どうも意図的なんだよ。
両作はスチームパンク的な世界観を持つが、物語の骨格は封神演義の神話であり、蒸気技術が物語を駆動しているわけではない。スチームパンクは必然ではなく様式として選ばれている。
監督が目指したのは「東方パンク」

意図的って?

趙霽監督が語っているんだけど、この作品で挑戦したのは「西洋のパンク要素と中国の伝統文化をどう融合させ、中国人自身の東方パンクを創造するか」だったそうなんだ。

東方パンク。中国版のパンクってこと?

そう。しかもここでいう「パンク」は、蒸気とか機械とかの話じゃなくて、反骨精神のほうなんだよ。

あ、そっちのパンクか。でもスチームパンクの「パンク」も、もともとそういう意味だよね?

よく覚えてたね。前に話した通り、「スチームパンク」って言葉自体が、サイバーパンクをもじって生まれたものでしょ。あっちは管理社会への反抗心が根っこにあった。だから語尾のパンクには、最初から反骨っていう意味が乗ってるんだ。

じゃあ、その部分を引き継いでるってことか。

引き継いだうえで、拡大解釈してるんだと思う。ナタってもともと、父にも天にも逆らった神様でね。中国では反逆のシンボルなんだ。その反骨的な性格を目に見える形にするために、パンクの美学を持ってきた。プロダクションデザイナーも、建築にナタの反骨精神を反映させるためにスチームパンクやディーゼルパンク、サイバーパンクの要素を入れたと言ってる。

あー、なるほど。世界観の説明じゃなくて、キャラクターの性格の表現なんだ。

そういうこと。蒸気技術という設定としてではなく、反骨という精神のほうを視覚的に翻訳した。だから蒸気が物語を動かさなくても、それでいい。あの街並みは、ナタという神様の「らしさ」を目に見える形にしたものなんだよ。

機能じゃなくて、人格を表すための美術か。面白い使い方だな。
趙霽監督は「中国人自身の東方パンク」の創造を目標に掲げていた。「スチームパンク」の語尾にもともと含まれる反骨精神という含意を拡大解釈し、蒸気技術の設定としてではなく、ナタという反逆の神の人格を表す視覚的な様式として用いている。
なぜ今、中国でスチームパンクなのか

でも、なんで今になって中国でこういう作品が出てきたんだろう。

これは僕の推測が入るんだけど、世代の話じゃないかと思ってる。

世代?

スチームパンクって、世界的に大きく盛り上がった時期があってね。2012年から2013年あたり。IBMが50万件以上のネット上の投稿を分析して「スチームパンクが小売業界を席巻する」と予測したり、アメリカのモデルオーディション番組がスチームパンク回をやったり。ゲームの『バイオショック インフィニット』が出たのも2013年。

ちょうどその頃、私も名前を聞くようになった気がする。

で、趙霽監督は中国のメディアで「80後」、つまり1980年代生まれと紹介されてるんだ。

2012年頃だと、まだ20代後半か30代前半くらい?

そう。しかも『白蛇:縁起』を作ってた頃、チームの平均年齢は26、27歳だったと監督自身が語ってる。つまり制作現場の中核は、あの流行を10代後半から20代で浴びた世代なんだよ。

あ、そうか。当時ファンだった人たちが、今ちょうど作る側にまわってるんだ。

断言はできないけどね。ただ、流行が起きてから、それを浴びた世代が実際に作品を作れる立場になるまでには、どうしても10年くらいかかる。2012年の熱が、2021年の映画になって出てきたと考えると、時間の辻褄は合うんだよね。

文化って、そういうタイムラグで動くのか。
スチームパンクの世界的なピークは2012〜2013年頃とされる。趙霽監督は1980年代生まれで当時20代後半、制作チームの平均年齢も20代半ばだった。流行を浴びた世代が制作側にまわるまでの時間差が、現在の中国作品に表れている可能性がある。
観るときの注意点がひとつある

これ観てみたいんだけど、どこで観られるの?

『ナタ転生』はNetflixが中国以外の全世界の配信権を持っていて、日本でも観られる。『ヨウゼン』は日本語吹き替え版が2025年に劇場公開されて、配信でも観られるはずだよ。

わりと手軽に観られるんだ。

ただ、ひとつ注意があってね。『ナタ』という名前の中国アニメ映画は、まったく別のものがもう一本あるんだ。

え、ややこしい。

『ナタ 魔童の大暴れ』っていう作品でね。これは餃子監督の別シリーズで、制作会社も違う。しかもこっちはアニメ映画の世界歴代興行収入1位という、とんでもない記録を出した作品なんだ。

じゃあ検索したらそっちが出てきちゃうかも。

実際、間違えて観てしまう人が多いらしい。どちらも封神演義のナタが主役だから、余計に紛らわしくてね。今日話しているのは、2021年公開でNetflixにある『ナタ転生』のほう。原題は「新神榜:哪吒重生」。この違いだけ覚えておいてもらえたら。
『ナタ転生』(2021年、追光動画)と『ナタ 魔童の大暴れ』(2025年日本公開)は制作会社も監督も異なる別作品。前者はNetflixで配信されている。

今日の話、なんか新鮮だったな。スチームパンクって物語の設定だと思ってたけど、そうじゃない使い方があるんだ。

そうなんだよね。世界観として作り込むやり方もあれば、キャラクターの性格を表現する視覚言語として使うやり方もある。中国の作り手は後者を選んで、それを「東方パンク」と名づけた。

借りてきたものじゃなくて、自分たちのものにしようとしてるんだ。

そこがいいと思うんだ。スチームパンクってもともと西洋の、それも19世紀イギリスを下敷きにした文化でしょ。それを中国の神話と混ぜて、上海の租界と混ぜて、まったく別のものにしてしまった。

ジャンルって、そうやって広がっていくんだね。

気になったら、まず『ナタ転生』から観てみてほしいな。物語より先に、あの街並みに驚くと思うから。
よくある質問
Q. 『ナタ転生』はどんな作品ですか?
A.中国の古典小説『封神演義』の少年神ナタが現代に転生し、竜の一族との因縁に決着をつける3DCGアニメ映画です。2021年公開、監督は趙霽、制作は追光動画。1920〜30年代のマンハッタンと中華民国時代の上海を織り交ぜた架空都市を舞台に、スチームパンクとサイバーパンクの要素を含む世界観で描かれます。Netflixで配信されています。
Q. 『ナタ転生』と『ナタ 魔童の大暴れ』は同じ作品ですか?
A.別作品です。どちらも『封神演義』のナタを主役にしていますが、制作会社も監督も異なります。『ナタ転生』は追光動画・趙霽監督(2021年)、『ナタ 魔童の大暴れ』は餃子監督(2025年日本公開)で、後者はアニメ映画の世界歴代興行収入1位を記録した作品です。
Q. 「東方パンク」とは何ですか?
A.趙霽監督が『ナタ転生』の制作にあたり掲げた概念で、西洋のパンク要素と中国の伝統文化を融合させ、中国独自のパンク表現を生み出そうとする試みを指します。もともと「スチームパンク」という言葉自体、1980年代に反体制的な感性を持つ「サイバーパンク」をもじって生まれたもので、その語尾には反骨精神という含意があります。『ナタ転生』はその「パンク」の部分を、蒸気技術の設定としてではなく、父にも天にも逆らった神・ナタの反逆性を表す視覚的な様式として拡大解釈し、街並みや建築のデザインに落とし込んでいます。
Q. 『新封神演義・楊戩』とはどんな作品ですか?
A.『ナタ転生』と同じ趙霽監督・追光動画による「新神榜」シリーズ第2作です。封神の戦から1500年後、賞金稼ぎとなった楊戩が甥の沈香を探す旅を描きます。飛行艇の飛ぶ独特の世界観が特徴で、第19回中国アニメ金龍賞の最優秀長編アニメーション賞金賞を受賞。日本では2023年に字幕版、2025年に吹き替え版『ヨウゼン』が公開されました。
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文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
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