【第18回】昭和レトロとスチームパンク——時代は違うのに相性がいい?
- 日本スチームパンク協会
- 7 時間前
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喫茶『蒸談』へようこそ
ここは蒸気と記憶、そして時間が交差する広場。
裸電球が揺れる商店街、錆びたトタン屋根の向こうに響くラーメンの湯気。 時を超えて、むき出しの配線と歯車が同じ美しさを語りはじめる。 今回は、新横浜ラーメン博物館の昭和の街並みをきっかけに、 スチームパンクとレトロのあいだにある、不思議な共鳴について話してみました──
新横浜ラーメン博物館
新横浜駅北口から徒歩数分の距離に位置し、1994年3月6日にグランドオープンした。館長は岩岡洋志。日清チキンラーメンが発売開始された1958年(昭和33年)当時の街並みを再現したフードテーマパークの開業は、昭和初期の浪速の街並みを再現した梅田スカイビル内(大阪)の「滝見小路」(1993年オープン)と同じく、全国各地のフードテーマパークや、ショッピングモール等に店を厳選してのミニフードテーマパークなどが誕生するきっかけの一つとなった 引用:新横浜ラーメン博物館
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
◆ラーメンの本を見かけて思い出したんだけど◆


ツダさん、書店でラーメンの本を見かけたんだけど、それが新横浜にあるラーメン博物館についての本だったのよ。

ああ、新横浜のラーメン博物館か。いろんなご当地ラーメンが食べられるところだね。

そうそう! あそこの内装ってすごく昭和レトロな雰囲気だったじゃない? 昔の街並みを再現した感じがすごく良くて、ああいう雰囲気ってスチームパンクとも親和性がある気がするんだよね。

たしかに、あの空間は単にラーメンを食べるだけじゃなくて、雰囲気そのものを楽しめるのが特徴的だった。昭和の街並みを再現しているから、懐かしさとともに歴史的な要素も感じられる。

うん、それにあのノスタルジックな雰囲気がすごく好き。あと、醤油ラーメンもね。

それは知ってる(笑)。毎回、迷わず醤油ラーメンを選んでたよね。
◆昭和レトロとスチームパンク、どこが似てる?◆

でもさ、昭和レトロとスチームパンクって、時代は全然違うのに、どこか共通する部分があると思わない?

そうだね。まず、「機械の仕組みが見えていること」が挙げられると思う。昭和の街並みって、電線がむき出しだったり、看板の電球がひとつずつ光っていたりするよね。それって、スチームパンクの世界で見られる「歯車や蒸気管が露出しているデザイン」と似た感覚がある。

あー、確かに! スチームパンクの世界観って、機械の構造を隠さずに見せることが多いけど、昭和の街並みも、電線や配管がむき出しで「生活感のある機械の美しさ」がある気がする。

それに、ネオンとガス灯の違いはあるけれど、暗い街に光る看板というのも共通点だね。昭和の繁華街にあるネオンの明かりも、スチームパンクの世界で見られるガス灯や電飾看板と同じように、どこか未来的な雰囲気を持っている。

そういえば、昭和の街並みって、レトロなのにどこか近未来っぽい空気感があるよね。それがスチームパンクの「過去と未来の融合」みたいな要素と重なるのかも。
◆スチームパンクの視点から見る昭和レトロ◆

スチームパンクって、19世紀の蒸気機関が発展し続けたら…っていう世界だけど、昭和のレトロな機械も、なんか同じような魅力があるよね。

昭和の機械は、今と比べるとアナログなものが多かったからね。たとえば、手回し式の洗濯機や、レバーで操作するエレベーターなんかがそう。人の手で動かす仕組みがあった機械って、スチームパンクのゼンマイ仕掛けや蒸気駆動の装置と通じるものがある。

言われてみれば、スチームパンクの世界観って、「人間が機械をコントロールしている感覚」がすごく強いもんね。昭和の道具や機械も、今みたいにボタン一つで動くわけじゃなくて、人の手が必要だった。

そうそう。だから、昭和の機械には「職人の技」とか「使いこなす楽しさ」みたいなものが残ってるんだよ。それがスチームパンク的な機械の美学とつながるんじゃないかな。
◆結局、昭和レトロとスチームパンクって相性いい?◆

じゃあ、もしスチームパンクの世界に昭和レトロの要素が入ったら、どんな感じになると思う?

たとえば、蒸気機関で動く昭和の街並みがあったら面白そうだね。ネオンの看板も、ガス灯と歯車仕掛けで動いていたり。

いいね、それ! 自動販売機も電気じゃなくて、ゼンマイを巻いて動かす感じになってたり。

あとは、路面電車が蒸気駆動になっていたり、駅の改札が歯車式で動いたりするのも面白そう。今のスチームパンクってヴィクトリア時代ベースの街並みが多いけど、昭和レトロと融合するとまた違ったスタイルになるよね。

なんか「スチームレトロ」って言葉が似合いそう。レトロフューチャーとはちょっと違う、生活感と機械の親密さがあるというか。

の雰囲気、『クラユカバ』に通じるものがあるかもしれない。あの作品って、大正から昭和初期にかけての“時代のにおい”が混ざったような空気感があって、街の中に配管や機械装置が自然に溶け込んでるんだよね。

たしかに、地下鉄が蒸気で動いてそうなあの世界とか、現代のスチームパンクよりも“人の生活に近い機械”って感じがするかも。

そう。『クラユカバ』の世界観には、スチームパンクと昭和レトロの親和性がすでに形になってるところがある。あのちょっと煤けた感じとか、無骨な美しさは、まさに「スチームレトロ」の理想形かもしれない。

ますます見直したくなってきたな、クラユカバ。
コラム:昭和の路地裏は、未来の物語を照らしている
むき出しの電線、音を立てて回る換気扇、光と影が交差するネオンサインの明滅。昭和の街並みには、生活のために作られた構造がそのままの姿で残っている。
それらは決して「懐かしい」だけのものじゃない。むしろ、そこには“未来の入り口”がある。
人の暮らしと技術がもっと近かった時代。電気の音、機械の手触り、アナログな工夫の痕跡。スチームパンクが描こうとする「人と機械の親密な関係」は、昭和の路地裏にも確かに息づいている。
時代は過ぎれば過ぎるほど、物語になっていく。100年という時間は、それが現実だったことさえ忘れさせる魔法だ。
かつて“ごく普通”だった明治の町人や剣士は、昭和の人々にとって既に遠い世界の住人だった。そして、大正のモボやモガたちの装いは、平成の私たちにはどこか仮装のように見えていた。それはきっと、100年という時がもたらす距離感——。
石造りの駅、手回しの電話、むき出しの配線。現実だったものが、少しずつ“どこにもない”ものに変わっていく。そして2027年、昭和元年はちょうど100年前の出来事になる。そのとき、昭和もまた、ファンタジーの仲間入りを果たすのかもしれない。
もしあの時代が、電気ではなく蒸気のまま進化していたら?あるいは、ゼンマイ仕掛けのまま高度成長を迎えていたら?そんな“もう一つの昭和”を想像することも、スチームパンク的な視点だ。
昭和レトロは、過去の残像ではなく、もう一つの未来を育てる土壌なのかもしれない。

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中