今日から始めるスチームパンクデザイン―日テレ大時計は「最高の教科書」
- 日本スチームパンク協会

- 2025年12月17日
- 読了時間: 8分
更新日:2025年12月18日

喫茶蒸談へようこそ
機械のデザインというと、どこか難しそうに聞こえる。
専門的で、知識があって、理由が説明できないといけない
そんな印象を持っている人も多いかもしれない
でも、スチームパンクのデザインは、もっと手前のところから始まっている
ただの棒。ただのパイプ
そこに、ほんの少し「区切り」や「つなぎ」を足すだけで
それは急に“意味がありそうな形”に変わっていく
今回は、ツダイサオが実際の造形例を見ながら
スチームパンクのデザインがどうやって出来上がっていくのか
喫茶・蒸談らしく、ゆっくり話してみることにした。
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
汐留・日本テレビの大時計


そういえばさ、スチームパンクのデザインの話をするなら、最初に思い浮かぶ場所があるんだけど

あ、もしかして……日テレの大時計?

そう、それ!汐留にある、日本テレビタワーの

あれね。実は、スチームパンクのデザインを考える上でかなり教科書みたいな存在なんだよ

しかもあれ、汐留に行けば誰でも無料で、いつでも見られるんだよね

入場料もいらないし、特別な予約もいらない。ただ汐留に行って、見上げるだけ。でもねあの時計、ちゃんと「デザインの考え方」が全部詰まってる

見た目はすごく情報量多いのに、なぜかごちゃごちゃして見えないのが不思議

そこがポイント。宮崎駿さんがデザインしたあの大時計って、歯車も、装飾も、動きも多いけど全部が「意味がありそう」に配置されてる、そして何より楽しそうなデザイン!

“ありそう”って言い方、今日のテーマだね

あれは実際に内部構造を説明されなくても、ここは力が伝わってそう、ここは動力の中心っぽい、ここで何かが切り替わってそうって、見る側が勝手に読み取れる

つまり、スチームパンクデザインの「完成形」みたいな存在?

完成形というより、考え方がすごく分かりやすく可視化されてる例かな「スチームパンクってどうやって作ればいいの?」って聞かれたらまずはあの時計を見に行くのを勧める

専門書より先に?

うん。だって実物だし、立体だし、動くし、何より“楽しい”
宮崎駿がデザインした日テレの大時計は、スチームパンクを「世界観」ではなく形の積み重ねとして理解できる、貴重な実例だ。そして今回の蒸談では、その考え方をもっと小さなスケールに落とし込んでみる。歯車でも、バルブでもない。まずは、ただのパイプから。
大時計の歯車は、実は「普通の歯車」じゃない


日テレの大時計でまず見てほしいのが“歯車”なんだけど……これ、意外とちゃんと見られてない

え、歯車はめちゃくちゃ目立ってない?いかにもスチームパンクって感じで

見た目はそうなんだけど、構造まで見てる人は少ないんだよね。これ、普通の歯車じゃない

どういうこと?

一般的な歯車って、一枚の円盤から歯がそのまま生えてるでしょ


あー、いわゆる“ギザギザが一体化してる”やつね

そう。でも大時計の歯車は違う、歯が独立したパーツとして作られていてそれを上下二枚の円盤で挟んで固定してる構造なんだ


言われてみると……確かに歯が「刺さってる」感じする

でしょ。 これ構造としても面白いし、なにより機能がものすごく見えやすい
「どう作られているか」が一目で楽しいデザイン

歯が独立してるって話、でもさ、正直いちばん目に入るのってリベットだよね

そう、それ。まず目に飛び込んでくるのがやたらとリベットが多いってところ

数えたくなるやつ

分かる(笑)しかもこのリベット、飾りじゃなくて「ここで留めてますよ」っていう主張をしてる

あ、言われてみると“ついてる理由”が見える感じがする

そうなんだよね。上下の板で歯を挟んで、それをリベットで一個一個留めてる構造自体が、そのまま模様になってる

だから見てて楽しいんだ、ただの丸い歯車なのに、情報量が多い

スチームパンクの気持ちよさって、こういう「説明されなくても、なんとなく分かる」「眺めてるだけで退屈しない」ところにあると思ってて

機械なのに、装飾品みたい

でも装飾“っぽい”だけで、ちゃんと意味がある。このバランスがすごく上手いんだよね

なるほど……これは確かに、近くで見たくなるやつだ

しかも無料で、汐留行けばいつでも見られるからね。スチームパンクのデザインやりたい人は、一度ちゃんと眺めてほしい
じゃあ次は、ただのパイプから始めてみよう

大時計の歯車は分かったけど、もっとシンプルな形でも同じことできるの?

できるできる。むしろスチームパンクの練習には、パイプがいちばんいい

工事現場にあるようなやつ?

そうそう。まずは本当にただの棒、円柱一本、ここには、まだ何の情報もない


正直、面白くはないね

うん。でもここがスタート地点。で、まずやるのが「つなぎ目を作る」

途中に輪っかが入る感じ?

そう。それだけで急に「これは途中で接続されてる」「分解できそう」って印象が生まれる


あ、急に“設備感”出た

ポイントはね、歯車やバルブのようなものは何も足してないのに意味だけが増えてるところ

形はほぼ変わってないのに

次にやるのが、そのつなぎ目に段差をつける


急にそれっぽくなるやつだ

そう(笑)段差がつくと、「太さが違う理由がある」「中で何か変わってる」って想像が勝手に始まる

見る側が補完し始めるんだ

それがスチームパンクの設計。全部説明しない。でも、想像は止まらない

じゃあ最後は?

最後は つなぎパーツを“別物”として作る


パイプ本体と、接続部分のキャラを変える感じ?

そう。素材が違う、留め方が違う、リベットが打ってある。それだけで「ここは重要そう」って伝わる

なるほど……歯車の話と同じだ

同じ。スチームパンクって、特別なモチーフを足すことじゃなくて普通の形に“理由”を重ねていくことなんだよ

ただの棒が、ちゃんと語り始めてる

それができたら成功。ゴーグルも歯車も、まだ要らない
次は、パイプの“相手側”を作ってみよう(ボイラー編)


パイプだけだと、「で、どこにつながってるの?」って思っちゃうね

そう。だから次はボイラー。パイプの行き先をちゃんと用意してあげる
まずは、ただの円柱がふたつ並んでいるだけ


最初は……ほんとにただの形だね

うん。上下に円柱があるだけ。まだこれは「物体」でしかない

役割は何も見えない

ここが大事で、最初は必ず“意味のない状態”から始める
ボイラーの上面を、少し丸くする


あ、上が丸くなった

これだけで、「圧がかかりそう」「中に何か溜めてそう」って印象が生まれる

平らより急に“容器”っぽい

球面ってそれだけで 中身を想像させる形なんだよね
パイプとボイラーの接続部を作る


ここで、つながった

うん。ただ刺さってるんじゃなくて、「ここで受け止めてる」って分かる形にする

もう一気に設備感ある

接続部は、物語の“関節”だからね
パイプ側にも、接続部のディテールを足す


さっきのパイプ編と同じ考え方だ

そう。パイプだけが主役じゃない。つなぎ目こそ主役

ここだけ情報量が増えてるのが分かる

重要な場所ほど、形がうるさくなっていい
接続部にリベット、ボイラー本体に段差をつける


一気にスチームパンクっぽくなった

でもね、やってることは同じ。「留めてます」「分解できます」って言ってるだけ

装飾というより、主張だ

そう。リベットは 機能の声を大きくする道具
ボイラー本体にプレートをつける


これ、何のプレート?

用途は決めなくていい。型番かもしれないし、注意書きかもしれない

でも「何か書いてありそう」

それで十分。想像の入口を作ってるだけだから
プレートに取っ手をつける


取っ手がつくと、「人が関わる機械」になる感じがする

うん。でも正確には、人じゃなくて「機構が表に出てくる」んだ

あ、なるほど

誰が触るかは、実はどうでもいい。今も動いているかもしれないし、もう誰もいない世界で、ただ仕組みだけが残っているのかもしれない

それでも、使い道は分かる

そう。スチームパンクの機械って、機構の痕跡が見えているんだよ
今回は、ここまで

最初は、ただの円柱だったのにね

気づいたら、「中で何かが動いてそうな装置」になってた

形を足したというより、理由を積み重ねた感じ

それがスチームパンクのデザイン。派手にしなくても、順番さえ間違えなければ、ちゃんと世界は生まれてくる

今日は機械の話だったけど……

次は、もっと身近なところへ行こうか
次回予告
次に話したいのは、スチームパンクなキャラクターの「シルエット」の話。
機械と同じように、人の姿もまた、「どう見えるか」より先に「どういう形で立っているか」が世界観を決めている。
それはファッションの話でもあり、キャラクターデザインの話でもある。
コートの裾、帽子の高さ、シルエットの重心がどこにあるか。
――その全部が、物語になる。
今日はここまで。続きは、またいつか。
実物を見るなら
今回触れた汐留・日本テレビタワーの大時計は、誰でも無料で見ることができます。
スチームパンクのデザインが「なぜ説得力を持つのか」を考えるなら、まずは実物を見るのが一番早い。
あわせて読む
スチームパンクの「形」ではなく「考え方」から知りたい人向けに、『蒸気の力、機械の美』 という本も書いています。
今回の話が少し面白かったら、その続きとしてどうぞ。

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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