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【第38回】スチームパンクの歯車問題

  • 執筆者の写真: 日本スチームパンク協会
    日本スチームパンク協会
  • 11月5日
  • 読了時間: 6分

更新日:11月8日


第38回蒸談のタイトルバナー

喫茶蒸談へようこそ

― 装飾としての歯車 ―

まわらない歯車問題


歯車の歴史は、紀元前の古代ギリシャにまでさかのぼる。星の運行を計算するための「アンティキティラの機械」にも、すでに精巧な歯車が使われていたという。以来、歯車は人類の技術の象徴として、時計から蒸気機関まで、あらゆる文明の動力を支えてきた。


そんな“動くための部品”である歯車を、スチームパンクでは装飾として身につける。このとき必ず話題に上るのが、いわゆる「まわらない歯車問題」だ。


──動かない歯車に意味はあるのか?


スチームパンク界隈ではしばしば議論になるテーマだ。本来の機能(機械的な働き)を失った歯車を飾りに使うのは、果たして“スチームパンク的”と言えるのか?ある人は「機構の美しさを理解していない」と言い、またある人は「機能を超えた象徴だからこそ美しい」と語る。


だが、歯車を装飾として身につけることには、もう一つの視点がある。それは、機能を離れたあとにも残る“形の記憶”を楽しむという考え方だ。動かなくても、そこには時間と物語が刻まれている。

そんな“まわらない歯車”をどう身につけ、どう楽しむのか――今回はその話を、前回の「普段着で楽しむ服装のコツ」に続けて語っていこう。



■この対談に登場するふたり


MaRyの発言アイコン

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。


ツダイサオの発言アイコン

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。



1章 歯車って、飾りでもいいの?


アンティーク調の金属歯車が複数並んだ画像。真鍮や鉄の質感が残る円形の平歯車が組み合わされ、古びた紙のような背景の上に配置されている。

MaRyの発言アイコン

ツダさん、前の服装の話、とても反響があったみたい。みんな「普段着でイベント行けるって分かって安心した」って言ってたよ。


ツダイサオの発言アイコン

それはうれしいね。実際、あの“普段着で楽しむ”っていうスタンスが蒸奇博覧会の基本なんだ。スチームパンクって、がっちりした衣装じゃなくても楽しめる文化だからね。


MaRyの発言アイコン

そういえば、アクセサリーで歯車を取り入れてる人をよく見かけるんだけど、あれって“飾り”で付けてもいいの?


ツダイサオの発言アイコン

もちろんいいよ。むしろ“飾りとしての歯車”こそ、スチームパンクらしさの象徴でもあるんだ。歯車ってもともと機械の中で動くための部品だけど、スチームパンクでは“動かない歯車”にも意味がある。


MaRyの発言アイコン

なるほど、ただの飾りでもいいんだね。


ツダイサオの発言アイコン

そう。動かない歯車をつけること自体が、「機械が見える」「構造が想像できる」っていう楽しみ方につながるんだ。 本来の機能を離れても、機械的な造形美を楽しむ、それがスチームパンクの魅力のひとつだと思う。


MaRyの発言アイコン

たしかに、アクセサリーに小さな歯車が付いてるだけで、“機械仕掛けの世界”を感じられるもんね。


ツダイサオの発言アイコン

そうそう。だから僕は、歯車は「動かなくても動いて見えるもの」だと思ってる。


2章 歯車を身につけるなら、どんなかたちがいい?

産業機械の内部を写した歯車の写真。金属製の平歯車がチェーンと連動しながら並び、工場のメカニカルな雰囲気を感じさせる。
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じゃあ、実際に歯車を取り入れるとしたら、どんなかたちがあるの?


ツダイサオの発言アイコン

まずはアクセサリーが一番取り入れやすいね。歯車モチーフのネックレスやリング、ピアスなんかは定番。特に真鍮色の歯車は、派手すぎず落ち着いた雰囲気になる。


MaRyの発言アイコン

あー、たしかに。それくらいなら普段でも使えるね。


ツダイサオの発言アイコン

うん。たとえばシンプルなシャツに、歯車モチーフのブローチをひとつ留めるだけでも雰囲気が変わる。それに、帽子ピンやバッグチャームのかたちで取り入れるのもいい。普段使っているアイテムに“機械の記号”を少し足すだけで、世界観が生まれるんだ。


MaRyの発言アイコン

なるほどね。そういう小物って、コスプレっぽくならない範囲で楽しめるのがいいね。


ツダイサオの発言アイコン

そう。むしろ“どこかに歯車が見える”くらいがちょうどいい。全身を歯車だらけにすると、どうしても衣装感が出すぎてしまう。だけど、さりげなく一か所にあるだけで、見る人が想像してくれるんだよね。


MaRyの発言アイコン

「何か仕掛けがあるのかな?」って思わせるくらいがちょうどいいのかも。


ツダイサオの発言アイコン

その通り。スチームパンクの装飾は“動くように見える”こと、つまり本当に動かなくても「機構がそこにある」と感じさせるのが楽しい。


MaRyの発言アイコン

でも、歯車ってひと口に言ってもいろいろあるよね?


ツダイサオの発言アイコン

そうそう。実は“歯車”と呼ばれるものにも種類があるんだ。一般的にみんなが思い浮かべるのは円形の平歯車。アクセサリーとしてもこの形が一番多い。けれど、世の中には他にもたくさんの形があるんだよ。


MaRyの発言アイコン

たとえば?


ツダイサオの発言アイコン

直線状に歯が並んだラックギアとか、ねじのような形をしたウォームギアとかね。普段あまり見かけないけど、そういう“変わり種の歯車”をアクセサリーに使うのも面白いと思う。ラックギアをブローチにしたり、ウォームギアをピアスにしたり。少しマニアックだけど、“知らない人が二度見するアクセ”になる(笑)。


MaRyの発言アイコン

それ、いいなあ。たしかに、よく見る円形の歯車じゃない形って、それだけで「これ何?」って気になる。


ツダイサオの発言アイコン

そう。形が持つ機能の違いが、そのままデザインの個性になる。動かない歯車を身につけるなら、むしろその“多様な形の面白さ”を楽しむのがスチームパンク的だと思う。


MaRyの発言アイコン

なんか、機械を身につけるっていうより“機構をデザインとして着る”感じだね。


ツダイサオの発言アイコン

まさにそれ。歯車は機械の部品であると同時に、造形としてもすごく美しい。だからこそ、どんな形の歯車を選ぶか――それ自体が“世界観の選択”なんだよ。


3章 動かなくても、歯車は語る

緑青を帯びたウォームギアの接写。螺旋状のねじ歯と円形ギアが噛み合い、時間を感じさせる錆と風化の質感が際立っている。
MaRyの発言アイコン

でもさ、動かない歯車って、いわば“壊れた部品”にも見えるよね? それでも飾る意味ってあるの?


ツダイサオの発言アイコン

いい質問だね。確かに、本来の機能で言えば動かない歯車は“使えない”ものなんだけど、スチームパンクの世界ではその「止まった状態」にこそロマンがあるんだ。


MaRyの発言アイコン

止まった状態に、ロマン?


ツダイサオの発言アイコン

うん。動かない歯車って、過去の時間をそのまま閉じ込めてるように見える。“今はもう動かないけれど、かつて動いていた”という物語を感じさせてくれるんだよ。それはつまり、機械が「記憶を持っている」と考える感覚に近いかもしれない。


MaRyの発言アイコン

なるほど……。それ、ちょっと詩的だね。


ツダイサオの発言アイコン

歯車を飾りとして身につけるっていうのは、単なるデザインじゃなくて、“時間や物語を身につける”ということでもある。スチームパンクの服装って、実は“未来の技術でできた過去の服”という設定でもあるから、装飾のひとつひとつにそうした「記憶の層」があると深みが出るんだ。


MaRyの発言アイコン

ああ、だから歯車って、ただのメカっぽい飾りじゃなくて、“時の象徴”でもあるんだね。


ツダイサオの発言アイコン

そう。たとえば止まった懐中時計をネックレスにして身につける人がいるけど、あれも同じ感覚だと思う。動いていなくても、そこには時間の重みや手触りが残っている。


MaRyの発言アイコン

動かないことにも意味があるって、なんだかスチームパンクらしい考え方だね。


ツダイサオの発言アイコン

そうだね。実は僕の著書『まわらない歯車』も、まさにその考え方から生まれた本なんだ。“機能しない歯車にも、美しさと物語がある”――それを伝えたくて書いたんだよ。


MaRyの発言アイコン

なるほど……そう聞くと、動かない歯車を身につけるのがすごく特別なことに思えてきた。


ツダイサオの発言アイコン

うん。見た目のかっこよさだけじゃなくて、「そこに時間がある」って感じられるのが、歯車を装飾に使う一番の魅力だと思う。


MaRyの発言アイコン

じゃあ、今度のイベントは“動かない歯車を楽しむ服装”で行ってみようかな。


ツダイサオの発言アイコン

いいね。きっとその歯車の物語も動き出すと思うよ。


一般社団法人スチームパンク協会理事ツダイサオのプロフィール画像

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)

スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中

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