【第9回】ピーキーブラインダーズのファッション
- 日本スチームパンク協会
- 4月16日
- 読了時間: 8分
更新日:8月1日

喫茶『蒸談』へようこそ
“By order of the Peaky Blinders.”
― ピーキー・ブラインダーズの命令だ―
革靴の音が響く、1920年代バーミンガムの夜を歩く
どうぞ、お好きな席でゆるりとお楽しみください。
ピーキーブラインダーズ
『ピーキー・ブラインダーズ』は、1890年代から20世紀初頭にかけてバーミンガムに実在したギャングをモデルにしたイギリスのテレビドラマシリーズです。主人公トーマス・シェルビーは、第一次世界大戦から帰還した後、家族と共にギャング組織を築き上げていきます。 引用/ Wikipediaピーキーブラインダーズ
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
◆ピーキーブラインダーズ見た?◆

ツダさん、「ピーキーブラインダーズ」見たことある?

もちろん。第一次世界大戦直後のイギリス、ギャングの話っていうだけでワクワクするよね。

ね!なんか全体の雰囲気がめちゃくちゃかっこいい。あの時代特有の空気感があるというか。

そうそう。荒々しさもあるけど、ちゃんとスタイリッシュなんだよね。特に衣装の完成度が高い。
◆あの着こなしがかっこいい◆

やっぱり、あのスーツ姿が最高に渋いよね。クラシックなのに、どこか現代的なかっこよさもあって。

ピーキーブラインダーズのファッションって、ほぼ全員がツイードのスリーピーススーツなんだけど、その質感が全てを物語ってる。重厚で厚手、寒いイギリスで機能的だったという背景もあるし、何よりその無骨さがドラマの荒々しさと合ってる。

あと、キャスケット帽! あれがあるだけで一気に“あの世界”に引き込まれる感じがある。

うん。しかも帽子の中にカミソリを仕込んでいる設定があって、単なるファッションじゃなく“戦う装備”になってるのも面白い。

髪型も特徴的じゃない? あのサイド刈り上げのフェードカット。

そう、あれで首まわりから帽子のラインまでがシャープに見える。スーツの重さとの対比で、逆に洗練されて見えるんだよ。しかも刈り上げ部分が戦闘的な印象を強める。

細かいところも凝ってるよね。たとえば懐中時計のチェーンとか。

ボタンホールから斜めに伸びるチェーンは、あの時代の“紳士のマナー”でもあったんだ。装飾としても美しいし、時計が見えることで時間と権力を支配してる感じもある。
画像出典:Shelby Brothers
◆キャラクターごとの装いと役割◆


トミーの服って、いつも完璧に整ってる印象あるよね。あの冷静な表情とセットで、まさに“理性”の象徴って感じ。

そうだね。トミーの服装は、戦場を生き延びてきた男の鎧でもある。いつも身体にぴったり合ったスリーピースに、長めのコート。無駄な装飾がない分、威圧感がある。

でもアーサーになると、ちょっと違うよね。もう少しラフで、どこか粗野というか。

そう。アーサーはスーツも着てるけど、トミーほどの繊細さはない。ネクタイが少しずれてたり、帽子の角度もラフだったり。あれは彼の荒々しさや不安定さを表してる。ファッションがキャラクターそのものを物語ってるんだよね。

あとポリー。彼女は全然別の方向からカッコいい。ドレッシーなのに、芯の強さがにじみ出てる。

ポリーは装いで“支配”してる感じがあるね。レースやシルクの華やかさがあるのに、怖さもある。あれが『ピーキーブラインダーズ』のファッションの面白さだよ。性別関係なく“強さ”を服で表してる。
◆ポリーの存在感とその着こなし◆

ピーキーブラインダーズで印象的だった女性のファッションといえば、やっぱりポリーだよね。

うん、ポリー・グレイは、物語全体の中でも特別な存在だ。彼女のスタイルも、一つの象徴として確立されていると思う。

いろんな服を着てたけど、特に印象的なのはソフト帽にパンツスーツ、そして特徴的なサングラスに身を包んだ姿。まさに“威厳のある装い”って感じ。

そうそう。あのファッションは、単なる美しさじゃなくて、女性が社会の中で立つ強さを表してるように見えるよね。

かっこいいけど、実際にあれを再現するのはちょっと難しそうかも…。

そうなんだよね。だから、ポリーのような“強い美しさ”をイメージしつつも、まずは日常に落とし込めるスタイルから始めるのがいいと思う。
◆女性がピーキーブラインダーズ風を着るなら?◆

なるほど、それなら少しずつ“ピーキーらしさ”を取り入れていけそうだね。で、実際にやってみるとしたら、どう組み合わせたらいいのかな?

そうだな、たとえばジョッパーズやニッカーボッカーズにブーツを合わせてみると、まずシルエットがグッとそれっぽくなる。そこにベストやツイードのジャケットを重ねれば、ぐっと完成度が上がるよ。

あ、あの乗馬っぽいパンツのライン! 確かに無骨だけど、形が綺麗でかっこいいよね。

そこにベストやツイードのジャケットを重ねると、一気に当時の雰囲気が出てくる。素材も厚手のものを選ぶと、仕立ての良さが際立って、ただのレトロじゃなく“芯のあるファッション”になる。

グレーとかブラウンのトーンでまとめたら、ぐっと雰囲気が出そう。あとは帽子とか小物で遊んでもよさそうだね。

うん。実際に参考になるスタイルもあるよ。

わ、かっこいい…!これなら普段にも取り入れやすいし、ちゃんと世界観がある。

しかも、こういう落ち着いたトーンとクラシックなスタイルって、ダークアカデミアとも重なる部分があるんだ。

あっ、たしかに。それ気になってた!よかったら、ちょっと詳しく教えて。
◆ダークアカデミアとの共通点と違い◆

たとえば、どちらも重厚なコートやアンティーク調のアクセサリーがよく使われていて、ぱっと見の印象は近い。でも“似ているアイテムを使っていても、表現している内面が違う”っていうのが面白いところなんだ。

内面…?

うん。ダークアカデミアは内向き。思索、芸術、学問、そういう“自分の内面を掘る”世界に似合う服なんだ。 それに対してピーキーブラインダーズは外向き。社会に立ち向かう強さや、状況を動かす力を象徴する“行動の服”なんだよ。

なるほど…確かにピーキーの服って“戦う服”って感じがあるもんね。誰かと会う時、街を歩く時、すべてに意味がある。

どちらもクラシックをベースにしてるけど、表現したい自分像が違う。そこが一番の分かれ目かもしれない。
◆チームパンクとの接点は?◆

じゃあさ、このピーキーブラインダーズの服装って、スチームパンクとも相性いいのかな?

うん、実はかなり親和性が高いよ。日本では、スチームパンクといえば“19世紀末”ってイメージがあるけど、大正時代=1920年代=ピーキーブラインダーズの時代なんだ。

あ、つながった!

当時の日本でも、モダンボーイやモダンガールっていう西洋ファッションが流行してたから、スタイル的にも近い。ツイード、チェーン、小物、全部使える。あとはそこに、真鍮の装飾とか、歯車モチーフを足せば、それだけでスチームパンク風に仕上がる。

なんか、“未来を感じる過去”って意味では、どっちも同じ方向を見てるのかもしれないね。

そう。ピーキーブラインダーズのスタイルをベースにして、スチームパンク的なアイテムをミックスする。これは今後のコーデのヒントにもなるかもね。

やってみたくなってきた!
コラム:男たちはなぜ装うのか? ピーキー・ブラインダーズのファッションをめぐって
1920年代、イギリス・バーミンガム。産業の煙に包まれたこの都市で、ギャング「ピーキー・ブラインダーズ」は生き抜くために“装って”いた。彼らの服装は、一見するとクラシックなスリーピーススーツにニュースボーイキャップを合わせただけのように見える。しかし、その一つ一つが、階級、誇り、そして暴力の匂いをまとった戦闘服でもあった。
たとえば、彼らのスタイルに欠かせないのがデタッチャブルカラー(取り外し式の襟)。これは当時の労働者や中産階級がよく着ていたシャツのスタイルで、シャツ本体を何度も洗うのではなく、襟だけを交換・漂白することで清潔感を保った。ピーキー・ブラインダーズのメンバーたちは、この白く硬質な襟をきちっと立てて装着することで、どこか“上流階級への対抗心”や“自分を律する鎧”のような印象を演出していた。
また、彼らのファッションの特徴はこうだ
細身で身体に沿ったスリーピーススーツ
ロングコートと重厚なレザーブーツ
ニュースボーイキャップ(帽子のつばに刃を仕込んでいたという伝説も)
ベストに吊り下げられたアルバートチェーン(懐中時計を吊るすT字型のチェーン)
これらは「見せるための衣装」ではなく、「誰かに見られることで、自分が何者かを示す制服」だった。トミー・シェルビーが着るスーツには、上流階級に対抗する意志と、ビジネスパーソンとしての戦略が縫い込まれている。
この“装い”の感覚は、スチームパンクにも通じる。
スチームパンクでは、服に歯車やゴーグルを付けることが「空想の技師」や「異世界の探検家」としての物語を身にまとう行為になる。つまり、ファッションがただの流行ではなく、「自分という物語を可視化する手段」になるのだ。
ピーキー・ブラインダーズをきっかけにファッションに興味を持った人へ、スチームパンクの世界もぜひ覗いてみてほしい。そこには、違う時代、違う物語を生きるための、もうひとつの“装い”が待っている。

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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