【第26回】ミニチュアの魅力と可能性。スモールワールズの裏設定から紐解く箱庭の物語
- 日本スチームパンク協会
- 8月13日
- 読了時間: 17分
更新日:3 日前

喫茶蒸談へようこそ
今日は、少し特別な話を。
ミニチュアミュージアム「スモールワールズ」の中にある〈世界の街エリア〉
その壮大な世界観設定に、日本スチームパンク協会が深く関わっていたことをご存じでしょうか?
ただのミニチュア展示ではなく、19世紀的な産業革命の空気に
異世界の技術や文化を織り交ぜた
“もう一つの地球”を丸ごとデザインするプロジェクト。
今回は、その舞台裏と、現地では語られない物語の断片をお届けします。
ミニチュアミュージアム スモールワールズの基本情報
スモールワールズは、東京都江東区有明にあるアジア最大級のミニチュア・テーマパークです。精巧に作り込まれたミニチュアの世界を、昼と夜の演出とともに楽しむことができます。
所在地: 〒135-0063 東京都江東区有明1-3-33
アクセス
ゆりかもめ「有明テニスの森駅」から徒歩約3分
りんかい線「国際展示場駅」から徒歩約9分
営業時間
9:00〜19:00(最終入場 18:00)
※時期によって異なる場合があります。訪問前に公式サイトでご確認ください。
料金
大人(18歳以上): ¥3,200
中高生(12〜17歳): ¥2,100
小人(4〜11歳): ¥1,700
3歳以下: 無料
※各種割引や年間パスポートの情報は公式サイトをご確認ください。
公式サイト: https://smallworlds.jp/
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。スモールワールズではクリエイターコーディネーターを担当

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。スモールワールズでは主に「世界の街エリア」世界観設定、ヴィークルデザインを担当
ミニチュアの街に、物語が眠っている


ねえツダさん、今日は「small worlds tokyo」の話をしようよ。あの“世界の街エリア”、初めて構想の話を聞いたときのワクワク、今でも覚えてるんだ。

うん。あれは単なるミニチュア展示じゃなくて、まるごと一つの“世界観”を構築するプロジェクトだったからね。表に出ていない設定も山ほどあって、語ると長くなるよ(笑)

でもその“語られなかった部分”こそが、実はこの街の心臓部だったりするんだよね。 今日はそんな裏話を、こっそり話してもらおうと思ってる。
small worlds tokyo(現small worlds)は、お台場にあるアジア最大級のミニチュアテーマパーク。 その中でも「世界の街エリア」は、19世紀的な産業革命の世界に、スチームパンクとオーバーテクノロジーを融合させた、まったく新しい“もう一つの地球”を描いたエリアです。
■この街は、次の5つの国家を中心に構成されています(各都市の名前は企画段階のものです)
グラン=ヴァロウ:19世紀末ロンドンをモチーフにした階層都市
資本の自由
ヴァイスフェルン:学問と炭鉱の街。スイスやドイツの鉱山町がベース 学問の自由
セラディナ:空中都市+宗教国家。クロアチア沿岸都市+中東宗教国家的要素
思想の自由
ノムレク:王政と隔絶された森の民。ブータンとアーミッシュ文化に着想 不自由がないという自由
星焔(ジンイェン):海賊都市+テクノロジー都市。九龍城+近未来スラムの融合
力の自由
それぞれが、異なる“自由”を掲げて生きる国家群。 文化も階級も技術も価値観も違う5つの街が、地下の鉱石「ジグルマイト」や、失われた古代兵器「ドラゴン」、そして裏で糸を引く巨大企業とマフィアの存在によって複雑に絡み合っています。
この記事では、「世界の街エリア」の世界設定を担当したツダイサオと、クリエイターのMaRyが、ミニチュアの奥に広がるもうひとつの世界について、実現されなかった設定や、裏側に込めた意図を語り合います。 たった数メートルのジオラマの中に、どれほど壮大な物語が眠っていたのか―― その一端を、いまこそ明かしましょう。
ミニチュアの街に、物語が眠っている

最初に構想聞いたときから、「この街、ただのスチームパンクじゃないな」って思ったんだよね。街の中にちゃんと“社会”があるというか。

そう。ミニチュアの街って、つい横方向に広げたくなるけど、このグラン=ヴァロウでは上下の文化差を描きたかったんだ。アッパークラスとアンダークラスの間にある物理的な“高低差”そのものが、視覚的な物語になるんじゃないかと。

たとえば上の階層からは飛行船が見えて、下のスラムは暗くて蒸気がこもってる…みたいな世界を、一望できるミニチュアで作る構想だったんだよね?

うん。中央階層駅、飛行船発着所、大型リフト、そういう「高いところは明るく、下は重くて機械的」っていう構図を用意してた。 それだけじゃなくて、見る側――つまりお客さんの視点そのものも上下に動かしたかった。高い場所から俯瞰したときに見える“優雅さ”と、下に降りたときの“蒸気と煤けた空気”とを体感的に切り替えられるようにね。

なるほど。展示物の中にストーリーがあるだけじゃなくて、見る人の動きそのものが物語に参加する演出になってたんだ。

そうそう。たとえば、としまえん跡地の「ハリー・ポッター スタジオツアー」にあるホグワーツ城のミニチュア展示なんか、まさにそういう構造になってるよね。 最初にその部屋に入ったときは、高い位置からホグワーツ全体を見下ろしてるんだけど、順路に沿って歩いていくと、最終的には真下から見上げているようになる。

あれ、すごく効果的だった。最初は全体像を把握してるつもりだったのに、最後には“あの世界の中に入ってた”ような錯覚になるもんね。

だから、あの体験ってただの鑑賞じゃなくて、「視点を移動することで物語が深くなる」仕掛けなんだよね。 世界の街のグラン=ヴァロウでも、そういう高低差を体験できる空間にしたかったんだ。
上流階級と庶民の“蒸気の温度差”


そういえば、アッパークラスってどんなイメージで設計したの?

いわゆる「はるか昔から続く家系」みたいな、伝統と権威がある存在。でもただのヴィクトリアンじゃつまらないから、そこにちょっとしたズレを入れたかった。たとえば、流線型の馬車に“機械の馬”がつながっているとか。伝統的な装飾と技術が混在することで、「これは現実の近代とは違う」と感じられる世界にしたかったんだよね。

なるほど、その“ズレ”が、この世界が異世界だっていう感覚を自然に伝えてくれる。で、その下にいるのが、ワーキングクラスの人たち。

ここは“蒸気機関を手段として使い倒す階層”として描いた。華やかさなんてなくて、完全に実用重視。たとえば、何軒かの家で一つの蒸気機関を共同利用してるとかね。室外にある小型ボイラーから動力を分配して、粉ひき機を動かしたり、洗濯したり、暖房に使ったり。

あ、あと廃蒸気を地下に流してキノコ栽培してるっていう設定、私すごく好きだった。

あれもやりたかったなあ。余った蒸気を生活に再利用する知恵って、いかにも庶民の文化っぽくて。で、キノコを使った保存食とかが、スラムの名物になってたり。

…想像するだけで物語が浮かんでくる。
「学ぶことは、すべての人に平等であってほしい」


ヴァイスフェルンって、一言で言うと“炭鉱と学問の街”だったよね。

そうそう。あそこは「学問の自由」をテーマにした国(あくまで仮名だけどね)。スイスっぽいイメージをモチーフにしつつも、現実とは違う、“知識が誰にでも開かれている理想郷”として描いてた。

炭鉱労働者の子どもたちが、中層の学校に通えるって設定がすごく好きだった。ちょっとジブリの世界っぽい感じもある。

あれはほんとにやりたかった。知識へのアクセスが階層を超えて可能になっている唯一の場所っていうのが、この世界の中でも希望の象徴になるから。

実際に展示で再現されたのって、どの部分だったの?

地下でジグルマイトを掘ってるシーンは、ちゃんとやったよ。削岩機のような巨大な機械がゴリゴリ動いていて、いわば“重力と摩擦の世界” あの削岩機自体は谷底の風力で動く設定だから地下にあったら動かないんだけどね(笑)

あのギミック、見ててすごく気持ちよかった。ガシャン、ガシャンってリズムがあって。

あと本当は、中層に大きな図書館や、蒸気で開閉する教室の扉とか、知識が機械仕掛けで守られてるような空間を作りたかったんだよ。でもスペース的に断念せざるを得なかった。

その“やれなかった学校”のアイデア、いま聞いてもワクワクするね。子どもが蒸気リフトに乗って通学してるとか。

そうそう!そして階層を登った先に、知識の光があるっていう。重い炭塵の街に、それでも学びがあるっていうのが描きたかった。
静かすぎる観光都市と、空中に浮かぶ祈り


セラディナも、他の街とは全然ちがう雰囲気だったよね。

うん。あの街は、「思想の自由」をテーマにしつつ、自由が行き過ぎた結果、“無菌状態”みたいな社会になってしまった場所として描いてた。夜の娯楽はないし、国民の8割は公務員で、見た目は美しいけどどこか閉塞感がある。

観光客向けの国なのに、夜が静かすぎるっていうね(笑) でもその分、昼の空中都市の表現はすごくファンタジー寄りだったよね。気球や飛行船で空を漂うアクティビティとか。

そう、この街でも本当は上下の視点移動を重視したかった。 下層には静かな漁村、上空には宗教施設や都市機構が浮かんでいて、気球に乗ってその間を行き来できるっていう構造にしたかったんだ。

空中都市の宗教的な儀式、あれすごく神秘的な設定だったよね。

本当はね、ミニチュアで“浮いてるように見える街”をつくって、気球や飛行船が小さなワイヤーで上下している演出まで構想してたんだよ。上では宗教儀式が行われていて、祈りの声がかすかに聞こえる、そんな静かな演出。

それは本当に見てみたかったなぁ。

あと、郊外には世俗から切り離された一団が住んでて、そこにも宗教施設があるっていう設定もあった。 都市の中の“静かさ”と、“宗教的な熱”が並立してるっていう不思議な街。

スチームや歯車でゴリゴリした世界の中に、ひっそりとした空中都市… 異質な存在だからこそ、逆にすごく印象的だね。
海に浮かぶ都市と、電気がもたらした“自由の代償”


星焔(ジンイェン)って、たぶんこの世界でいちばん“勢い”のある場所だよね。もう、すべてが過剰というか。

うん。この国の始まりは“海賊の集合体”なんだよ。最初は座礁した船をそのまま家にして、さらに別の船がくっついて、気づいたらスラムみたいな構造になってる。

いわゆる“家船(えぶね)”の文化ってこと?

そうそう。だから陸地が前提じゃない。しかも、船の上って重い蒸気機関が使えないじゃない? そこで登場するのがジグルマイト。これを使えば、軽くて安全に発電ができるから、水上でも都市機能が一気に広がる。

つまり、電気が海洋都市を可能にしたわけか。

うん。で、電気が使えるってことは、人体義肢やサイボーグ技術も急速に進化する。身体の一部を置き換えることで労働力を高めたり、違法な改造で強化したりっていう、“自由”の影にあるグレーゾーンも描きたかった。

その“進化”を支えてるのがヴァイスフェルンで密輸されてるジグルマイトなんだね…。

そう。表では金融業やカジノで栄えてるけど、裏ではマフィアが鉱石を違法に掘り出して海底から持ち帰っているっていう構図がある。だからあの都市は、どこまでも地に足がついてない“浮いた存在”なんだよね。物理的にも、倫理的にも。

現実のどの都市とも違う、“海の上で暴走した技術都市”。 こういうのって、ミニチュアで見たかったなぁ。

構想としては、水上都市の上に電飾の入り組んだネオンサインとか、義肢をつけた露天商とかまで描いてたんだけどね。ちょっと展示には収まりきらなかった。
隔絶された森と、遺伝子に眠る記憶


そういえば、ノムレクについてはまだ触れてなかったね。あの国もかなり異色だったよね。

うん。あそこは「不自由がないという自由」を掲げた国で、文明社会とは距離を置いた、森に囲まれた小さな共同体。いわゆるアーミッシュ的な、自給自足で静かに暮らしている一団がいるんだ。

文明から切り離された分、逆に“古代の記憶”みたいなものが濃く残ってる印象がある。

まさにそれ。あの村には、かつて軍事兵器として作られた人造ドラゴンの子孫を使役できる一族が住んでいるっていう設定にしてある。だから体に遺伝的なマーカー、青い模様が浮かび上がるとか、そういう要素を入れてた。

遺伝子にかけられたロック=“操縦権の継承”だよね。それ、超SFだし超神話的。

しかもこの国では、王政がいまだに機能してるんだけど、それを誰も縛りだと思っていない。 自由とは「何でもできること」じゃなくて、信じられる秩序の中で暮らせることなんだっていう、ちょっと逆説的な価値観を描きたかった。

なるほど。“技術の先端”が星焔(ジンイェン)なら、“技術の起源”がノムレクってことか。

うん。ドラゴンの秘密も、ジグルマイトの記憶も、この森から始まっているという設定にしてある。 だからこそ、この場所は“静かに世界を支えている”存在なんだ。
ドラゴンは生きていた――機械仕掛けの神話と、設定の逆輸入

この世界、実はドラゴンが出てくるって知ったとき、ちょっと驚いたんだよね。蒸気と都市の話だと思ってたから。

それ、実はこっちもなんだ(笑) 最初の構想にはドラゴンは入ってなかったんだけど、施設側から「やっぱりドラゴン出したい」ってリクエストがあって、じゃあどうするかってところから始まった。

じゃあ、設定はあとから足されたってこと?

そう。でもそれで“無理やり追加”にしたくなかったから、逆にこの世界の中で一番古くて、一番重要な存在に据え直したんだ。セラディナの地下には“かつての本物のドラゴンの化石”が眠っていて、それを模して作られたのが人造ドラゴン。その子孫を使役する村が、ノムレクにあるっていう構図にした。

そしてその人造ドラゴンは、ジグルマイトで動いてるわけだよね。

そう。胸部に埋め込まれたジグルマイトが“心臓”になってて、自己修復機能もある。寿命では死なないし、しかも操れるのは“特定の遺伝子を持った者だけ”。

村の人たちの身体に、青い模様が浮かび上がるやつだ!

あれは生体ロックなんだよね。敵に奪われないように、操れるのは一族だけっていう設定にしてある。入れ墨みたいに見えるけど、実は古代の遺伝子操作の名残。
エジソン(仮)とテスラ(仮)、そして封印された力

で、この“失われた古代技術”に絡んでくるのが、エジソン(仮)とテスラ(仮)。

エジソン(仮)は、アメリカでジグルマイトのエネルギー研究をしてたけど、あまりに危険だから封印した。 でもその助手だったテスラ(仮)が、研究資料を盗んで星焔(ジンイェン)に逃げたっていう設定なんだ。

だから星焔(ジンイェン)であんなに電気が発達してたんだ…なるほど。でもこの二人、現実でも確執があったよね? 直流vs交流の電力戦争とか。

うん。いわゆる“電流戦争”をモチーフにして、ここでは技術と欲望の分岐点として再構築したんだ。 テスラ(仮)はジグルマイトの“爆発的なエネルギー”に取り憑かれていて、それを完全に再現するには“ドラゴンの動力構造”を解明する必要があると思ってる。 だから、ドラゴンを盗み出して実験してるっていう、裏の筋書きがある。

ちょっと待って、エジソン(仮)、実は空賊と手を組もうとしてるっていう噂もなかった?

ある(笑)。 封印した力を止めるために、むしろ今は反体制側と手を組もうとしてるっていう。善悪じゃなくて、技術にどう向き合うかという問いを投げかけるキャラクターなんだ。

設定が深い…もはや“神話の再構築”だね。 現実のエジソン(仮)とテスラ(仮)が対立していたからこそ、こういう物語の対比もすっと入ってくるのが面白い。
“水族館のようなミニチュア施設”という発想

なんか今日の話、設定も深いし世界も広いし、ずっと話していられそうだね。

でも一方で、こういう施設って実は課題も多くてさ。とくに大きいのが、「展示の入れ替えが難しい」ってこと。

たしかに。一度作った街を毎シーズンごとに変えるのって、物理的にも現実的じゃないかも。

だから自分は、ミニチュア施設は“水族館”のようであるべきだと思ってる。

水族館?

うん。水族館って、基本的には展示の中身そのものはあまり入れ替わらないんだよね。でもその代わりに、季節ごとのイベントや視点を変える工夫で、リピーターを呼んでる。

なるほど、「変える」のではなく「見え方を変える」ってことか。

そう。だからミニチュア施設でも、大きな“水槽”=世界の街の中核はそのままにして、小さな“水槽”=取り換え可能なユニットや季節演出を差し込むようにする。そうすれば、通年で来てもらえる施設になるし、「行けば何か新しい発見がある」と思ってもらえる。

すごく納得。施設を“世界”として考えるだけじゃなくて、“メディア”や“装置”としてどう持続させていくかまで視野に入ってるんだね。

うん。物語をつくるだけじゃなくて、物語を巡る“体験の場”をどう持続可能にしていくか。それもまた、世界観設計の大事な仕事だと思ってる。
同じ家を、違うサイズで展示するという魔法

あとさ、ツダさんがよく言ってた「サイズが違う展示を一緒に並べる」っていうやつ、あれもめちゃくちゃ面白いよね。

うん、それこそミニチュアの最大の強み。たとえば、1/80スケールで作った街全体の中にある1軒の家を、別の場所に1/12で内部まで作り込んで展示するみたいなことができる。小さな世界と、よりディテールを追える世界を“同時に見せる”っていうね。

まるで、引きで見た風景の中に、“ズームアップした視点”を用意するみたいな。

そうそう。リアルの建築模型じゃスケールが揃ってないと成立しないけど、ミニチュアって「物語の都合」でスケールをずらせるんだよ。その自由さが、一番面白いところだと思う。

しかも、その“違うスケールの同じ場所”を見比べることで、物語がより深く見える気がする。

そしてもっと言えば、逆に10倍スケールで家を作ってもいいと思ってる。

10倍!?それってもうミニチュアじゃなくない?(笑)

でもさ、視点を変えれば、その世界の中に入り込む“人間の方がミニチュア”になるって考え方もできるよね。 大きな模型に人が潜り込む体験って、逆説的に“ミニチュアの視点”を体験させる手段なんだ。

なるほど…。ミニチュアって、サイズの問題じゃなくて、“視点のスケール”の問題なんだ。

うん。スケールをずらすことで、見る人の想像力を呼び起こす装置になる。それが、このジャンルの一番面白いところだと思う。

じゃあ、今回の蒸談はここまでだね。 今日だけでも、街の成り立ちから、見せなかった設定、そして展示の未来まで、ずいぶん深く旅した気がするよ。 また次の一杯と一緒に、この続きを聞かせてよ。
コラム:ミニチュアが織りなす「箱庭の物語」
精巧なミニチュア作品を目の前にすると、私たちはまるで神様になったかのような、不思議な感覚に包まれます。
俯瞰すれば世界の全貌を一望でき、細部を覗き込めば、一人称で物語の中に入り込むような没入感が訪れる――この二つの視点を自由に行き来できるのは、ミニチュアならではの魅力です。
実は、この感覚は特別な展示や美術館だけのものではありません。子どもの頃に遊んだおもちゃやフィギュア、組み立てたプラモデル、精巧なドールハウスや鉄道模型、さらには街角で見かけるジオラマも、すべて小さな世界を閉じ込めた“ミニチュア”です。
呼び名や用途は違っても、そこに共通しているのは「世界を手のひらに載せる」という喜び。そして、自分だけの角度から眺め、物語を想像できる自由です。
しかし、その小さな世界の裏側には、広大な構想と、それを具現化するための想像を絶する困難が隠されています。限られたスペースの中で、高さや奥行きをどう表現するか。
本来なら動くはずのギミックを、静止した状態でいかに魅力的に見せるか。現実では当たり前の「重力」や「摩擦」を、縮小された舞台でどう感じさせるか――作り手たちは数え切れないほどの試行錯誤を重ねています。その積み重ねが、作品に奥行きと説得力を与えているのです。
完成したミニチュアの世界は、まるで水族館のようです。そこには多様な生き物が自分たちの生態系を築くように、さまざまな文化や暮らしが息づいています。
私たちは水槽を覗き込むように展示を眺め、「上流階級の優雅な生活」や「庶民の力強い営み」に思いを馳せます。作り手が散りばめた設定や物語の断片を拾い集め、自分だけのストーリーを紡ぐ――それは鑑賞者が物語の共作者となる能動的な体験です。
ミニチュアは、私たちの創造性を刺激する魔法の箱。その小さな窓から覗く壮大な物語は、これからもきっと、多くの人の心をとらえ続けるでしょう。
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歯車の回る音が聞こえたら、またここでお会いしましょう

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
詳しいプロフィールはこちら ▶ プロフィールを見る
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