【第39回】機械の音って、なんか落ち着くよね
- 日本スチームパンク協会

- 11月12日
- 読了時間: 6分

喫茶蒸談へようこそ
― スチームパンクな音の世界 ―
かつて、機械には「音」があった。チクタクと時を刻む時計、プシューと息を吐く蒸気、カタカタと打ち続けるタイプライター。それは、機械がまだ生活の中で“動いている”と感じられた時代の音だった。
今の世界は静かすぎる。だからこそ、人はもう一度“音のある世界”を求めているのかもしれない。
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
1章 気づいたら聴いてる“機械音”


最近さ、ASMRとかでタイプライターの音とか、古い時計のチクタクとか聴くのにハマってるんだよね。

あー、それわかる。なんか落ち着くよね。僕もたまに聞くよ。あの規則的な音、ずっと流してても邪魔にならないんだよな。

そうそう。あと、キーボードのカタカタとか、車のエンジン音とか。別に意味はないんだけど、なんか安心する。

ああいう音って、“動いてる音”なんだよね。何かがちゃんと動いてるっていう証拠というか。

確かに。スマホとかってすごい静かだから、音がしないことに慣れちゃってるけど、昔の機械ってみんな音してたもんね。

そうそう。家電も車も時計も、どこかしら“仕事してる音”があった。あれが生活のリズムになってたんだと思う。

あー、それあるね。たとえば、朝に聞こえる炊飯器の「ピッ」とか、ポットが湯を沸かす音とか。あれが聞こえると「一日が始まるな」って感じする。

うん。あと、音がちょっと不規則なのもいいんだよ。完全に一定じゃない。だからずっと聞いてても疲れない。

それ、わかる。人の声とか足音に近い感じするもん。完璧に均等じゃないところがいいのかも。

そうかもね。音楽じゃないけど、生活の中にある“リズム”って感じ。

うん。なんかね、ただの機械音ってよりも“暮らしの音”なんだよね。
2章 音って、記憶に近い

そういえばさ、前に話した二階堂のCM、あれも音の使い方すごくいいよね。

ん、あれはほんと上手い。映像が静かだから、余計に音が際立つんだよ。機関車の走る音とか、雨の音とか、足音とか……全部リアルで、本当にその場にいるみたいなんだ。

そうそう。なんか、映像を“見る”っていうより、“思い出してる”感じがするんだよね。

それ、すごく分かる。音ってさ、目で見るよりも記憶に近いと思うんだよ。たとえば、昔の喫茶店で聞いたカップを置く音とか、学校の帰り道に聞こえた自転車のブレーキの音とか。聞くだけでその情景がパッと浮かぶ。

わかるなあ。あと、匂いもそうだよね。音と匂いって、一瞬でその時の空気を思い出す。

うん。視覚って“今”を見てるけど、音とか匂いって“昔”を引っ張ってくる感じ。たぶん、脳の記憶とつながる場所が違うんだろうね。

だから、機械の音にもどこか懐かしさがあるのかも。知らないはずの音なのに、“昔どこかで聞いたことある”感じがする。

そうそう。あの感覚は、たぶん“音の質感”なんだよね。今の機械は静かで均一だけど、昔の機械は不規則で個性があった。ちょっと揺れてたり、かすれてたり。あの“クセ”が懐かしさにつながるんだと思う。

なるほどね。たしかに、ピカピカの音よりも、ちょっとくぐもってるほうが落ち着くかも。
3章 スチームパンクと音の世界

こうやって話してると、スチームパンクって“音のある世界”だよね。

うん。見た目の世界観も大事だけど、そこに“音”が加わると一気に生き物っぽくなる。蒸気の抜ける音とか、歯車のかみ合う音とかさ。あれが聞こえるだけで、絵が動き出す。

たしかに。無音のスチームパンクって、なんか物足りない気がする。

そうだね。スチームパンクの魅力って“動いてること”だと思うんだよ。歯車がまわって、蒸気が吹き出して、機械がちゃんと働いてる感じ。その“働いてる音”が、世界にリアリティを与えてる。

それこそ前回の「歯車を身につける」って話にもつながるよね。歯車そのものが動かなくても、“動いてそうな雰囲気”があると楽しいっていう。

そうそう。動いてなくても「音が聞こえそう」なデザインってあるじゃない。そういうのがスチームパンクの面白さなんだと思う。

わかるなあ。たとえば、展示のときに小さなモーター仕込んで動かしてる作家さんとかいるけど、ああいうのって音も含めて完成してる感じする。

うん。音があると、“そこに機械が生きてる”って思えるからね。昔の工場とかも、きっとうるさかったけど、それが日常のリズムだったと思う。「音がする=ちゃんと動いてる」っていう安心感。

逆に、今の家電とかスマホって、静かすぎてちょっと寂しいときあるよね。

あるある。効率的だけど、どこか味気ない。だからこそ、僕たちはあの“チクタク”とか“プシュー”に惹かれるんだと思う。スチームパンクって、音のある時代を懐かしむ文化でもあるんだよ。

なるほどね。たしかに、静かすぎるより、少しうるさいくらいの方が温かい気がする。

そう。あの“うるささ”が、生きてる証拠だったんだろうね。
4章 音のある世界で生きる

今って、静かなことが“いいこと”みたいに言われるけど、ほんとは少し音があった方が落ち着く気がする。

うん。完全な無音って、ちょっと不安になるよね。生活の中に小さな音があるほうが、ちゃんと“動いてる”感じがする。

たとえば夜、ポットが「コトコト」いってたり、洗濯機が回ってる音が聞こえると、なんか安心する。あれって「生活してる音」なんだろうね。

そうそう。そういう音って、言い換えれば“生きてる証拠”なんだと思う。スチームパンクの世界がどこか温かいのも、多分そこ。静かな未来より、ちょっとうるさい過去のほうが人間らしい。

確かにね。効率とか静音とかが進んでるけど、たまにはあの“チクタク”とか“プシュー”を聞きたくなる。

あれって、音そのものが癒やしなんだと思う。規則的に動く音とか、少し不揃いな音って、人のリズムに近いから。だからこそ、聞いてて安心できる。

うん。結局、“動いてる音”が好きなんだよね。音があると、世界がちゃんと回ってる気がする。

そうだね。スチームパンクの世界って、歯車も蒸気も、全部“音がある”たぶん僕たちは、無音の未来じゃなくて、“音のある時間”に惹かれてるんだと思う。

なるほど、いいまとめ。 ……じゃあ次のイベントでは、ちょっと音がするオブジェ作ってみようかな。

いいね。静かな会場に“カチカチ”って響く音があったら、きっとそれだけで世界ができるよ。

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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