【第20回】鳥山明先生のメカが好き
- 日本スチームパンク協会
- 2 日前
- 読了時間: 9分

喫茶『蒸談』へようこそ
ここは、蒸気と記憶がほんのり香る対話の場。 歯車の軋む音、真鍮のきらめき、そしてちょっとだけ気の抜けた午後。
今日は、そんな午後にふさわしく、ふとした会話から始まります。 あのメカ、どうしてこんなに心をつかむんだろう—— と話題に上がったのは、鳥山明先生の描く乗り物たちでした。
一輪バイク、二足歩行メカ、小さな飛行機。どれも現実には見たことがないのに、「動くはず」と信じてしまう説得力。なぜこんなにも惹かれてしまうのか?
今回は、鳥山メカから始まって、スターウォーズ、マッドマックス、スチームパンク、そして“機械が楽しかった時代”という名もなきイデアまで、ぐるりと回って語り合いました。
どうぞお楽しみください。
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
◆鳥山明先生のメカが好き◆

鳥山明先生のメカって、なんでこんなにかっこいいんだろうね?

デザインが素晴らしいのはもちろんだけど、「現実にありそうで絶対ない」というバランスが絶妙だよね。リアルさとファンタジーが完璧に調和していて、あの世界観の中に自然に溶け込んでいる。

そう、それ!『ドラゴンボール』のランチさんが乗ってる一輪バイクとかもさ、生き物っぽい丸みがあってかわいいのに、メカとしてちゃんと説得力あるんだよね。動かなそうなのに動きそうっていう、不思議なリアリティがある。。

その「動きそう」っていうのがポイントなんだよな。リアル寄りすぎると無骨になって、ファンタジー寄りすぎるとおもちゃっぽくなるけど、鳥山先生のメカはその間を絶妙に行き来してる感じがある。
◆特に印象に残る鳥山メカは?◆

ツダさん的に、一番好きな鳥山メカって何かある?

俺はバイクみたいな二足歩行メカかな。あれ、人が乗ってるのに動物っぽくて、機械としての魅力があるのが好きなんだよね。『ドラゴンボール』の扉絵に描かれたりしてるけど、あれは本当に秀逸、スターウォーズのチキンウォーカーの影響が強いと思うけど、完全に「鳥山明の世界観」になってる

私はやっぱりランチさんの一輪バイクだなぁ。一輪でバランス取って走るって普通は無理そうだけど、鳥山先生が描くと「あ、動くんだこれ」って自然に納得しちゃう。

そうそう。「ありえないけど動きそう」っていうのが鳥山先生メカの一番の魅力かもな。
◆鳥山先生のメカをスチームパンク風にアレンジすると?◆

じゃあさ、もし鳥山先生のメカをスチームパンク風にアレンジするとしたら、どんな感じになるかな?

それなら『サンドランド』に出てくる戦車をスチームパンク風に見てみたいな。鳥山先生が描くと、蒸気を噴き出しながらゴツゴツと動く巨大な機械になりそう。錆びついた真鍮パーツとかがいい感じに組み合わさっててさ。

あー、いいね!『サンドランド』の世界観って、水が貴重な砂漠の世界だから、蒸気機関とか砂漠との相性もよさそうだし。私は飛行船が見てみたいかな。鳥山先生がデザインしたら、絶対に丸くてかわいいコクピットがついてて、羽根みたいなプロペラがゆっくり回る感じになりそう。

絶対そうだね。ただの飛行船じゃ終わらないはず。意味ありげなアンテナが生えてたり、妙にデフォルメされた計器がいっぱい付いてたりしそう
◆もし鳥山先生がスチームパンクを描いたら?◆

でもさ、もし鳥山先生が本格的にスチームパンクを描いたらどんな世界になるかな?

動力源はやっぱり蒸気なんだけど、鳥山先生らしくワイルドで、石炭ガンガン燃やして黒煙をもくもく出しながら走るメカが多そうだな。『サンドランド』が砂漠だったから、その反対に水に囲まれた海洋都市とか面白いんじゃないかな。

あー、それすごくいい!海上に巨大な機械都市が浮かんでて、船型の建物が並んでるイメージ。街全体が巨大な蒸気機関で動いてて、空には飛行船が浮かんでる。

その海の下には、巨大な潜水艇型のロボットがいて、深海探索してたりするんだろうな。歯車や真鍮の質感が生々しくて、どこか愛嬌のあるデザインになりそう。

鳥山先生デザインだと、潜水艇も絶対目玉みたいな窓がついてて、ちょっと可愛い感じになりそう(笑)。
◆鳥山先生のメカとスチームパンクの親和性◆

結局、鳥山先生のメカデザインってスチームパンクとすごく親和性が高いんだよ。リアルだけどちょっと非現実的で、しかも無駄にかっこいいところとかさ。スチームパンクが持つ「機能を見せるデザイン」の魅力とも一致するしね。

ほんとにそうだよね。鳥山先生のメカには「かわいさ」とか「遊び心」があるから、スチームパンク特有のゴテゴテした世界にもぴったりだと思うんだよなぁ。

うん、だからこそ、鳥山先生が本格的にスチームパンクを描いたら絶対面白い作品が生まれるだろうね。

ほんとに、いつかそんな作品が見たかったな…。
コラム:イデアの投影としての「機械が楽しかった時代」
スターウォーズ、マッドマックス、スチームパンク、鳥山明メカが共有する本質
「イデア」とは何か?——簡単な哲学入門
「イデア」という言葉を聞いたことがあるだろうか?これは古代ギリシャの哲学者、プラトンが提唱した概念である。
簡単に言うと、私たちが普段目にする現実の物事は、それぞれの「完全で理想的な形」の影や投影にすぎない、という考え方だ。例えば、私たちが見る美しい花は、実は究極的で完璧な「花のイデア」の不完全なコピーに過ぎない、というわけである。
プラトンにとって「イデア」こそが真の実在であり、目に見える世界はその不完全な模倣に過ぎないのだ。
身近なところで「イデア」を感じてみる
イデア論というと難しい哲学に聞こえるかもしれないが、実は身近なところでも感じることができる。例えば「ラーメン二郎」について考えてみよう。
誰が最初に言い出したのかは忘れてしまったが、ネット上でこんな議論があったのを覚えている。
二郎インスパイアという言葉が生まれるほど、多くの人が「ラーメン二郎」の中に何らかの「イデア」を感じている。二郎系ラーメンの構成要素、例えば大量のもやしや分厚いチャーシュー、山盛りのニンニクなどを、一つずつ抜いていった場合、どこかの時点で「これはもう二郎ではない」という感覚になるだろう。
その瞬間、「二郎としてのイデア」の投影が失われたと言える。つまり私たちは無意識に「これこそが二郎だ」と認識できる本質的な何かを感じ取っているのだ。
さらに言えば、二郎のイデア自身はラーメンという形に縛られない可能性もある。例えば、「二郎っぽいチャーハン」と言われれば、なんとなく想像できてしまうのではないだろうか?大量のもやしや分厚い豚肉が乗ったチャーハン、というイメージが自然と湧く。もしかすると、「二郎っぽいソフトクリーム」だってあり得るかもしれない。「二郎っぽい車」なんてものも。
それがイデアだ。具体的な形やジャンルを超え、本質的な性質や要素によって認識されるもの。それがプラトンの言うイデアである。
「機械が楽しかった時代」と「使い古された未来」いうまだ名前のないイデア
さて、この「イデア」の考えを使って、改めてスターウォーズやマッドマックス、スチームパンク、鳥山明、宮崎駿の描くメカの魅力を考えてみよう。
『スターウォーズ』の傷ついた宇宙船やドロイド、『マッドマックス』の廃材から作られた車両、『スチームパンク』の蒸気と真鍮とリベットがむき出しになった機械、そして『鳥山明メカ』の懐かしくありそうでないレトロフューチャーな乗り物。
さらには、宮崎駿作品『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』に登場する飛行機やロボット兵もまた、構造が見える“機械の楽しさ”と、時間を経たものに宿る美しさを兼ね備えている。これらは表面的にはまったく違って見えるが、根底には通底している意識、確かな共通項が存在している。
それは、「機械がまだ機械としての楽しさを持っていた時代」や「使い古された未来」という言葉で語られることがあるが、実際にはまだ明確な名前を持たない、もっとプリミティブな感情のイデアだ。
単純な効率性や機能性を超え、機械の動きや仕組みそのものに惹かれ、動きそうな、あるいは動いている姿にインスピレーションを感じる。完璧なテクノロジーではなく、工夫や生命感が感じられる機械的要素――スターウォーズならプリミティブな造形のドロイド、スチームパンクならむき出しのリベットや配管、マッドマックスなら生き延びるために改造された車両のパーツ、鳥山明先生なら動物のような関節や構造――これらの要素が私たちを惹きつけるのだ。
クロスオーバー作品とイデアの本質
昨今、ファンコミュニティでは「スチームパンク風スターウォーズ」や「マッドマックス風スチームパンク」といったクロスオーバー作品が多く作られるが、これは表面的なジャンルの境界を超える試みだ。
しかし、プラトン的なイデアの視点から見ると、これらのクロスオーバーは実際には新しい何かを生み出しているわけではなく、すでに同じイデアを異なるスタイルで再確認しているに過ぎないことに気づく。
「機械が持つ根源的な楽しさ」や「生命感ある動き」「使い古された時間を感じる意匠」という共通したイデアが、スターウォーズやマッドマックス、スチームパンク、鳥山明先生の世界において、それぞれ異なる表面的な表現を取っているのだ。
ジャンルを超えた「イデア」中心の創作へ
こうした視点を意識的に持つと、新たな創作の可能性が見えてくる。
表面的なジャンルやスタイルにとらわれることなく、「機械が楽しかった時代」「使い古された未来」というまだ名前のない本質を中心に据えた作品作りができるようになるのではないだろうか。もはやスチームパンクやスターウォーズというラベルを使う必要はなく、「イデア自体」を直接的に表現した作品が生まれるかもしれない。
スターウォーズのドロイドも、マッドマックスのウォーリグも、スチームパンクの蒸気機関も、鳥山明先生の一輪バイクも、共通するイデアを異なる表現で描いた作品のように感じる。
私たちは、無意識のうちに常にこの「まだ名前のないイデア」に惹かれているのだ。それを意識化し、作品作りの核に据えることで、全く新しい創作の可能性が拓ける。これが「イデア」を理解する最大の魅力かもしれない。

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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