【第19回】スチームパンクなワインオープナー
- 日本スチームパンク協会
- 6月25日
- 読了時間: 6分

喫茶『蒸談』へようこそ
ここは、蒸気と記憶がほんのり香る対話の場。 歯車の軋む音、真鍮のきらめき、そしてちょっとだけ気の抜けた午後。
今日は、そんな午後にふさわしい、ちょっとした出来事から始まります。 ワインを開けようとしたら、肝心のワインオープナーが見つからない── でもその瞬間、ふと脳裏によみがえったのは 「ワインオープナーとは思えないほど壮大な機械」でした。
ただの道具なのに、まるで工場の一角から飛び出してきたような存在感。 その姿に、あのとき誰もが笑い、驚き、そしてちょっとだけ心を奪われたのです。
今回は、そんな“スチームパンクすぎるワインオープナー”をきっかけに 機械を動かす楽しさ、無駄の美学、そしてスチームパンクの奥にある感覚の話を 語り合ってみました。
どうぞお楽しみください。
■この対談に登場するふたり

MaRy(マリィ):日本スチームパンク協会 代表理事。感覚派で、スチームパンクの“ワクワクするところ”を見つけ出すのが得意。気になったことはどんどん質問するスタイルで、対談の聞き手としても案内役としても活躍中。

ツダイサオ:日本スチームパンク協会 理事。物事を論理的に捉えるタイプで、歴史や文化、技術の観点からスチームパンクを語るのが得意。蒸談ではMaRyの投げかけにじっくり応える“解説役”として登場することが多い。
◆あの衝撃、今でも覚えてる?◆

ツダさん、ワイン飲もうと思ってワインオープナー探したんだけど、どこにもなかったのよね。で、ふと思い出したの。昔、ものすごいスチームパンクなワインオープナーの記事が話題になったことあったよね?

巨大で、まるで工場の一角にありそうなデザインのやつ。ワインを開けるためだけに、あそこまで大げさにするのかって、衝撃的だったのを覚えてるよ。

そうそう! しかも、あれって単なるワインオープナーじゃなくて、コルクを開けるだけじゃなく、ワインを注ぐ機能までついてたんだよね。

ハンドルを回すと歯車が動いて、ワインが自動で注がれる仕組みだった。普通のワインオープナーって、せいぜい「コルクを抜く」までの道具なのに、あの装置は「注ぐ」までセットになってたのがすごかった。

ワインを開けるだけでもドラマチックなのに、最後の仕上げまでやってくれるなんて、もはや道具じゃなくて「ワインを開けるためのショー」みたいなものよね。
◆ワインオープナーなのに、このスケール感!◆

そういえば、あれ、YouTubeに動画があった気がする。せっかくだし、改めて見てみようよ。

いいね。やっぱり、動いてるところを見ると、あのワインオープナーのすごさがより伝わるだろうし。

ワインオープナーって、普通は片手で使えるサイズの道具じゃない? それなのに、これはまるで工業機械みたいな大きさで、ギアやレバーがいくつもついてた。ワイン一本開けるのに、あのスケール感って、もう笑うしかないって感じだったよね(笑)。

うん、でもその「実用性と非実用性のギャップ」が面白いんだよな。普通ならコンパクトで効率的な道具を求めるところを、あえて無駄に大きく、複雑にすることで「機械を操作する楽しさ」を前面に押し出してる。

スチームパンクって、機械の仕組みが見えることが大事だって話してたけど、このワインオープナーはまさにそれよね。ハンドルを回して、歯車がガチャンガチャンと動いて、それでようやくコルクが抜ける。動作の一つひとつが、すごくドラマチック。

しかも、コルクを抜くだけじゃなく、ワインを注ぐところまで含めて「機械が動く美しさ」が設計されている。ここまで徹底してると、もう実用性なんてどうでもよくなるくらいワクワクするよな。

ワインを開けるだけでもドラマチックなのに、最後の仕上げまでやってくれるなんて、もはや道具じゃなくて「ワインを開けるためのショー」みたいなものよね。
◆スチームパンク的「実用性」と「無駄の美学」◆

でも、こういう「無駄に大きい」「やたら複雑」なものって、スチームパンクではよく見るよね。なんでこんなに魅力的に感じるんだろう?

それは、「機械を動かす楽しさ」があるからじゃないかな。今の時代、機械ってどんどん小型化して、ボタン一つで簡単に動くものが多いでしょ? でも、スチームパンクは「歯車を回し、レバーを引き、バルブを開ける」みたいに、機械を操作すること自体を楽しむ文化がある。

なるほどね。「動かすこと」に意味があるから、実用性だけを求めないってわけね。

うん。だから、このワインオープナーも、単に「ワインのコルクを抜くための道具」じゃなくて、「ワインを開けるという行為そのものを楽しむための装置」なんだと思う。

確かに、コルクが抜ける瞬間に歯車がガチャンと動いたり、ハンドル回すとチェーンがカラカラと音を立てて動いたりするだけで、なんかもうそれだけで満足しそう(笑)。

そうそう(笑)。こういう「無駄の美学」って、スチームパンクの世界観を形作る重要な要素だと思う。
◆結局、スチームパンクって「時代を超えるデザイン?」◆

動画で改めて見ても、全然古くないね。むしろ今でも新鮮に感じるのがすごい。

スチームパンクのデザインが「未来に向かうレトロ」だからじゃないかな。単なる懐古趣味じゃなくて、「もし過去の技術が今も発展していたら?」という仮想の未来を描いているから、流行や時代の影響を受けにくい。

たしかに。だからこそ、あのワインオープナーも、現代のインダストリアルデザインとも違うし、クラシックなアンティークとも違う、独特の存在感があるんだね。

うん。スチームパンクの魅力って、「過去・現在・未来が融合したデザイン」だから、今見ても新鮮に感じるし、きっと10年後に見ても変わらずカッコいいんじゃないかな。

こうやって話してたら、実際にこのワインオープナーを動かしてみたくなっちゃうね。

本当にどこかで展示されてたら、一度触ってみたいな。

…って、待って。話に夢中になりすぎて、結局ワインオープナー探すの忘れてた! まだワイン飲めてないじゃん(笑)。
コラム:無駄の美学と、機械が語るもうひとつの物語
巨大なレバー。複雑に連なる歯車。やたらと重厚なハンドル。ワインのコルクを一本抜くために、どうしてこんな構造が必要なのか——。
でもその問いは、スチームパンクにおいてはきっと無粋というものだろう。なぜならこの世界では、「機械を動かすこと」そのものが、目的になるのだから。
今の時代、道具はどんどんコンパクトになり、操作は最小限で済むように設計されている。だけどその代わりに、私たちは“動かす楽しさ”や“仕組みに触れる喜び”をどこかに置いてきた。ボタンを押せば開くドア。スマートフォンで操作できる家電。効率の良さは素晴らしいけれど、それだけでは心が動かない瞬間もある。
スチームパンクの「無駄」は、そんな合理性の隙間から生まれた美学だ。むしろ“無駄であること”にこそ意味がある。レバーを引くと歯車が回り、チェーンが揺れ、コルクが抜け、ワインが注がれる——たった一杯のワインを開けるために、ひとつの物語が始まる。
機械は語る。ただの道具ではなく、「体験をつくる装置」として。それがスチームパンクが愛する“もうひとつの機能美”なのかもしれない。
無駄があるからこそ、私たちは驚き、笑い、心を動かされる。あのワインオープナーのように。
そしてそれは、未来のデザインが見落としているかもしれない、ひとつの可能性でもある。

文・構成:ツダイサオ(日本スチームパンク協会 理事)
スチームパンクにまつわるデザイン、企画、執筆を通じてものづくりと空想の魅力を発信中
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